角川『平安時代史事典』にある盗用事例 ― 2007/04/07
阪神大震災の3ヶ月ほど前に、神戸で50年以上も生活してこられた在日朝鮮人一世のおばあさんから、長年使ってこられた「砧」の道具をいただきました。これを契機に砧についての資料を集めて研究を重ねました。 こういった時にまず最初にすべきこととして、「砧」が各種『事典』『辞典』でどのように説明されているかを調べました。 その際に次のような事例を見つけ、驚きました。
『平安時代史事典』(角川書店1994)629頁
「【砧 きぬた】 きぬいた衣板の略で、織物を織り上げたのち、織機からおろしたままでは堅くてなじまないので、織目をつぶして柔らかくし、つやを出すためにする作業、またはその道具。碪とも書く。砧仕上げともいう。一般に石や木の台の上に折り畳んだ布を置き、木槌で何回もたたく。これは麻・木綿の織物に対してなされ、絹では円棒に織物を巻いたのち、両端を軸受けに置き、回転させながら木槌で打ちつやを出す。砧は、当初たたき洗いとして洗濯のため各地に使われていたが、擣衣と呼ばれている中国の砧仕上げ法が日本に伝わり、平安時代には打衣として紅・濃き紫の綾を砧で打った。 史料『類苑』産業部二。 [中村太×]」 (伏字あり)
ところがこれの9年前に発行された百科事典に、次のような説明がありました。
『日本大百科全書 第6巻』(小学館1985)616頁
「【砧 きぬた】 きぬいた(衣板)の略で、織物を織り上げたのち織機から下ろしたままでは、堅くてなじまないので、織り目をつぶして柔らかくし、つやを出すために使われる道具。これを使ってする作業を砧打ち、または砧仕上げともいう。一般に石や木の台の上に折り畳んだ布を置き、木槌を使って何回もたたく。これは麻・木綿に使われ、古くは弥生時代の遺跡からこの目的に使用されたと思われる木槌が出土している。また絹では円棒に織物を巻いたのち、両端を軸受けに支えて、回転させながら木槌で打ってつやを出す。また砧は、たたき洗いのための洗濯の道具として各地で使われている。現在では砧仕上げと同じく打布機か、ベビー・カレンダーを使い、同じような風合いを作り出す方法がとられている。 〈角山幸洋〉」
読んでいただければお分かりのように、400字足らずの説明文のうち三分の二は一字一句変わりません。 執筆者が同じならいざ知らず違いますので、これはいわゆる盗用になります。発行年代からして、前者が後者を盗用したものと推定されます。