タッペギ(マッコリ)の思い出2012/03/04

 韓国の伝統酒であるマッコリがブームになっています。  マッコリに関する思い出を書きます。

 1970年代、在日朝鮮人のおばさんが経営する飲み屋。その常連となって足繁く通っていた時、「にいちゃん、トブ飲むか?」と言われて、何を言っているのか最初分からなかったのですが、すぐに「どぶろく」の「どぶ」だということが分かりました。

 朝鮮語では言葉の最初の濁音がないので、「トブ」と発音する訳です。これは日本語ですから、朝鮮語では何と言うのかと聞くと「タッペギ」だと教えてくれました。

 「タッペギ」の「タッ」は「濁」ですから、これは朝鮮語の「タックチュ(濁酒)」の事でしょう。辞書に載っていないので、おそらくサトゥリ(方言)だろうと思います。

 なかなか美味しいので、その飲み屋でよく飲んでいたのですが、そこの娘さんが、タッペギについて「よう、そんな酒飲むねえ」と、かなり悪しざまに言うのを聞いて、ちょっとビックリ。

 そこで在日社会におけるタッペギについて、少々調べたことがあります。

 在日1世の女性(今はもう80歳以上になります)の多くは、主人に飲ませるために、家でタッペギを作っていました。これは、ご飯と麹とイーストさえあれば簡単に作れるとのことでした。ただし昔も今も密造にあたりますので違法です。

 イーストは、それ用のものが朝鮮料理材料店などで売ってあって、さすがに酒造り用とは書いてなくて、「栄養の素」というような名前の商品だったそうです。

 在日1世の男性は、家庭内暴力の凄まじかったことが知られています。(拙論参照)http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dairokujuugodai

 この暴力の契機あるいは源となったのがタッペギです。在日2・3世の女性が、タッペギに対して良く言わないのは、この体験からです。

 「お父ちゃんが酒飲んで暴れてた。またお母ちゃん殴ってた。」という時の酒は、大抵の場合タッペギです。そして、母親に「お父ちゃん暴れるの知ってて何でタッペギ作って飲ませるの?」と詰め寄ったことがあるという在日女性の話も聞いたものでした。「あれは気違い水や!」と吐き捨てるように言う人もいました。

 だから在日社会ではタッペギはかなり低級な酒というイメージでした。私がタッペギを飲んでいたら、「そんな酒飲んでたら、頭悪なるで。」と、よく言われたものでした。

 在日社会ではタッペギを家で作る人は、今はもうほとんどいないでしょう。在日社会では過去のものとなったタッペギ(マッコリ)が、今やブームとなって韓国から輸入されるようになったというのは、私には隔世の感があります。

 今輸入されているマッコリは、かつて在日社会で作られていたタッペギとはちょっと味が違うようです。私にはタッペギの方がおいしいと思うのですが‥。