マルセ太郎2013/01/19

 マルセ太郎は10年ほど前に亡くなった芸人です。1933年生まれですから、今生きていたら80歳です。1950年代から舞台活動を始めて、芸そのものには多くの人から高い評価を受け、また熱狂的なファンもいたのですが、テレビに出ることはあまりありませんでした。

 彼は在日朝鮮人です。朝鮮人差別の厳しかった当時のことでしたから、身近の人はこれを知っていましたが、多くの国民は知らなかったようです。

 それはともかく、マルセは人気が落ち始めた際に、‘自分が在日朝鮮人であることを名乗ろうか’ と友人の永六輔に相談したところ、永は「お客さんはマルセの芸を見に来ているのであって、在日を見に来ているのではない」と反対したという話を聞いたことがあります。今この話の確認がとれないので、どれ程本当なのかは分かりません。

 何故この話が記憶に残っているかといえば、芸人や歌手などで自分が在日であることを明らかにすると、熱心に応援しようとする在日の人たちが現れるからです。その人の芸ではなく、単に同じ在日同胞だから、という理由です。在日社会の一部にそんな風潮があったので、マルセがそれを狙って在日宣言しようとし、それに対して永が、‘それは芸人のすることではない’ と反対したという話が興味深く、印象に残ったというわけです。

 芸能人やスポーツ選手に、在日はかなりいます。このことについて在日社会では、日本人が憧れているあの有名人は実は朝鮮人なんだという話をして溜飲を下げる傾向があります。時には根拠もなく在日認定することには驚いたものでした。

 一方で日本人では、ある有名人を陥れる目的で、‘あいつは朝鮮人なんだ’ という噂を流す現象がインターネットなどで見られます。なかには架空の民族名を捏造して、尤もらしい噂を流すこともあるようです。

 どちらも自民族優位主義であって、対等な立場を目指すものではありせん。こんなバカバカしいことは、早くなくなればいいのですが‥‥。

 マルセの話に戻りますと、永六輔の忠告が正論だと考えています。芸人は芸を見せること、そしてスポーツ選手はプレイを見せるのが仕事であり、客はそれを楽しみにお金を出して見に行くだけのことです。

 在日宣言して新たなお客さんを呼ぼうとするのではなく、芸や技量を磨いて、それをお客さんに見てもらって収入を得ることが本来の姿でしょう。