『言葉のなかの日韓関係』(2)2013/04/09

 尹東柱は韓国では「国民詩人」「抵抗詩人」として有名で、日本でも彼の詩を評価する人が多く、彼の詩集や評伝、論文がかなりあります。 この尹東柱について、小倉紀蔵さんが

尹東柱はいちども韓国人であったことはない‥‥尹東柱は韓国人ではなく、朝鮮人(チョソンサラム)なのである。 (15~16頁)

と論じているので、一体どういうことなんだろうと訝しく思いました。

 尹東柱は1917年9月に間島省(今の中国吉林省延辺朝鮮族自治州)で生まれ、1941年延禧専門学校(今の延世大学)を卒業し、1942年に日本の立教大学そして同志社大学に留学。翌1943年に独立運動をした嫌疑で逮捕・起訴され、2年の刑を言い渡され、1945年福岡刑務所で獄死。

 尹東柱はこのような経歴の詩人です。小倉さんはこの経歴から「大韓民国が誕生したのは1948年8月であるから、その前に死んだ尹東柱が大韓民国の国民であったことはいちどもない。‥‥それなのに、韓国では、尹東柱を韓国人だと思い込みすぎている」(15~16頁)  「彼(尹東柱)は大韓民国の国民ではなかった。中国で生まれ、満州国で育ち、植民地朝鮮と日本で学び、日本風の名前(平沼東柱)をもった朝鮮人であった。」(20頁)と論じました。

 さらに尹東柱の作詩になかにある、現代の韓国語辞書に出てこない言葉が、実は中国朝鮮族で今なお使われている言葉であると論じました。(16頁) つまり尹東住は朝鮮半島南部に成立した韓国ではなく、朝鮮(チョソン)の詩人だということを、強く打ち出したのです。(20頁)

 成程そういうことだったのか、と感心しました。小倉さんのこの考えは、韓国ではおそらく受け入れられないだろうと思いますが、私には新鮮なものです。