『韓国が漢字を復活できない理由』 (7) ― 2013/09/26
1970年代‥‥さるシンポジウムの楽屋で、古代史を研究する学者から『三国史記』を読んでいないと聞いて、唖然とさせられたことがある。たとえば、日本史上の事件でも、韓国側の文献に書かれている場合がある。有名な邪馬台国の女王卑弥呼が、中国の魏だけではなく、新羅にも遣使したという記述は、日本側にも中国側にもないが、朝鮮の『三国史記』には載っている。比較研究したうえで、これが嘘なら嘘でも構わないが、読んだこともないというのは、専門家として問題だろう。(140~141頁)
『三国史記』を読んだことはないと答えたという古代史研究者。どんな方かは分かりませんが、おそらくは『古事記』『日本書紀』のように吟味しながら読んだことはないという程度の意味の答えではなかったかと想像します。少なくとも、全く紐解いたことがないというのはあり得ないでしょう。
1970年代ですから、すでに岩波書店の古典文学大系『日本書紀』は刊行されており、その多くの註では『三国史記』に出てくる事項を引用して比較しています。ですからその道の専門家なら、関連資料を読んでいないとあっては大恥ですから、当然『三国史記』を読んでいるはずです。
次に『三国史記』の卑弥呼の記事ですが、これは『三国史記』の編纂・執筆者である金富軾が「魏志倭人伝」の一部を歴史記述に挿入したものです。朝鮮に古くから伝わる史料に基づくものではありません。何故なら『三国史記』では倭の女王を「卑彌乎」としており、これは明らかに「魏志倭人伝」に由来するからです。 卑弥呼は『日本書紀』神功皇后紀にも登場しますが、これも『日本書紀』編纂者が「魏志倭人伝」から一部を挿入したもので、史料価値は不十分と判断せざるを得ないものです。
『三国史記』『日本書紀』にある卑弥呼の記事は、邪馬台国や卑弥呼そのものの解明には役に立たないと言っていいでしょう。邪馬台国・卑弥呼を論ずるほとんどの本が『日本書紀』の記事と同様に、『三国史記』の記事にも触れないのはこのためです。