水野・文『在日朝鮮人』(6)―渡航の要因2016/05/09

第一の要因は、いうまでもなく植民地化の朝鮮の経済的状況の変化である。10年代の土地調査事業によって土地所有権が明確化される中で、土地を失う農民が増加したことが原因であったが、それに加えて20年代の朝鮮産米増殖計画が生み出した経済的要因が大きく作用した。‥‥農業だけでは現金を手に入れられない農家は、都市に出て働き口を得ようとした(22~23頁)

第二の要因として、文化的・社会的変化をあげることができる。‥‥学校に通う朝鮮人(特に男子)は増える傾向を続けた。日本語を習得したものは、それ以前の世代とは違って日本に行って働くことに障害を感じることが少なかったといえる。また、日本の新聞・雑誌を通じて、あるいは親族や知人から聞く話を通じて日本についての情報や近代文明の息吹に接することによって、日本の渡航を希望する(24頁)

 在日朝鮮人の渡日の要因を説明した部分です。 要因は二つで、一つは経済的要因、もう一つは文化的・社会的要因を挙げています。 しかし最も重要な人口的要因が出ていないのは何故なのでしょうか。

 1910年の植民地化当初の朝鮮の人口は約1,300万人。 これが35年後の1945年に約3,000万人(朝鮮本土2,500万、日本200万余、満州200万余、その他50万)と2倍以上に増加します。 しかしこの人口の増加に対応できるだけの農業生産は困難でした。 農村では過剰人口に悩み、農村外に出ようとする勢いが大きくなります。 一方の日本では近代産業化が進み、鉱工業や土木建設などに労働者の需要が大きかった時代です。 当然、朝鮮から日本へという人の流れが現れます。 これが朝鮮人の渡日の一番大きな要因です。 これを挙げないのは、何か意図があるのでしょうか。

 なお「第一の要因」として「土地調査事業によって土地所有権が明確化される中で、土地を失う農民が増加した」となっています。 しかし土地所有権が明確化というのは、農民が耕作する田畑が自分のものとなって安定した農業が出来るようになったという点があります。 つまり生活が安定したのです。 在日朝鮮人の渡日要因に土地調査事業による「土地の喪失」を挙げるのはいかがなものかと思います。 むしろ土地調査事業によって農民が安定した生活が営めるようになったから人口が急増し、これによって農村が人口過剰状態となり、そのために日本へ渡航する動きが大きくなったと言えるでしょう。

水野直樹・文京洙『在日朝鮮人』(1)―渡日した階層 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/06/8066021

水野・文『在日朝鮮人』(2)―渡航証明と強制連行 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/11/8069125

水野・文『在日朝鮮人』(3)―強制連行と強制送還  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/17/8072649

水野・文『在日朝鮮人』(4)―矛盾した施策 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/25/8077594

水野・文『在日朝鮮人』(5)―強制連行と逃走  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/29/8080041

土地調査事業  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2008/04/23/3273840

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