私が二重国籍に関心を持った訳 ― 2016/10/28
二十年程前の話ですが、ある20代の男性から、ある日突然官憲がやって来て日本のパスポートを取られ、代わりに外国人登録証を渡された、何故こうなったのか訳が分からない、という相談が来たことがあります。 聞いてみると、父が韓国人、母が日本人で、日本人として育ってきて、二重国籍ではなく日本の単一国籍だった、だから日本のパスポートで海外旅行をし、選挙にも行っている、しかしある日突然日本国籍を失い、韓国籍を強要されたという話でした。
私も最初は訳が分からなかったのですが、彼の戸籍の記載事項および家庭内状況を聞いて、次の事情が分かりました。
彼の両親は韓国人と日本人ですから、生まれた当初は日韓の二重国籍でした。 両親は彼が生まれて数カ月して日本国籍を選び、単一国籍としました。彼は日本人として成人になりました。 ところが父親は自分が亡くなる直前に何を思ったのか、彼に韓国籍を取らせました。その手続きは父親がしました。 韓国の国籍法には国籍回復条項があり、かつて韓国籍を有していた者は国籍を回復することが割りと簡単に出来ます。 彼は深く考えないで国籍回復を承諾したようです。 彼は父親が亡くなってからも日本のパスポートを持って海外旅行を何年も続けました。 国籍回復した事実を全く忘れてしまい、気持ちは全くの日本単一国籍者でした。 しかし国籍回復が日本当局に知られ、自分の意志で外国籍を取得した者は日本国籍を失うという法律により日本のパスポートを取り上げられ、代わりに外国人登録証を持たされたのでした。
父親は自分の死を前に息子に韓国人の自覚を持たせようと国籍回復させたのでしょうが、息子はそれが日本国籍喪失を意味することを知らずに安易に承諾し、その手続きを父親に任せ、その承諾を失念したということになります。 しかし本人は、ある日突然日本人でなくなり外国人を強要されたという被害意識の塊でしたねえ。
この時に私は国籍について関心を大きくし、国籍法の関する専門書を何冊か購読しました。 そうすると在日は韓国と北朝鮮の二重国籍者であることに気付きました。 韓国の国籍法も北朝鮮の国籍法も、朝鮮人(韓国人)すべてを我が国の国民(公民)と規定しているのですから、二重国籍と言うしかありません。 在日社会では昔北か南かで激しいイデオロギー紛争がありましたが、法的に見れば二重国籍者であるが故の紛争でした。 ですから二十年前の当時、家族内の争いごとである離婚や相続は韓国の法律に準拠するのか、北朝鮮の法律に準拠するのか、それとも常居地である日本の法律に準拠するのか、かなり深刻な問題であることを知りました。 これは余りに複雑すぎて素人が出る幕ではなく、専門家に任せるしかないものです。
二重国籍とは複数の国家に所属することですから両国の権利を行使できますので、それだけ便益があります。 例えば重婚など単一国籍者には違法であるものが、二重国籍者では可能です。それほど二重国籍の便益性は大きいということです。
二重国籍はいいことばかりではありません。 両国の権利を享受できるということは、義務も生じます。 一番問題になるのは兵役です。 兵役義務のある国では二重国籍者の徴兵逃れを防止するため、二重国籍者への対応が厳しいという話です。
二重国籍者は両国の保護を同時に受けることが出来るのですが、これが逆に作用します。 例えば二重国籍者が国際テロ組織に人質となったとしましょう。 どちらの国が救出するのかで外交的衝突が起きる可能性が高いです。 ということは、二重国籍者は救出に乗り出してくれる国はないことを覚悟しなければなりません。
このように国籍に関心を持ったのが二十年ほど前。 それから関心が薄れていたのですが、今回の蓮舫二重国籍問題でまた関心を持った次第です。