30年前の反日感情と違いはあるか ― 2017/12/28
『朝日ジャーナル 1986年3月7日号』 「第9回 新韓国地図 コスモスと鉄条網と」に、韓国の反日感情について、次のような分析がありました。 論者は朝日新聞ソウル支局長 小林慶二です。 30年前のものですが今と比較すれば共通する点が多いです。 これは30年経っても変化がなかったと言うべきもののように思えます。
韓国の反日感情は三つに分類できると思う。 第一は、日本支配を目で見、肌で知っている50を超える世代である。 84年夏、KBSとテレビ朝日が共催で日韓両国の知識人、文化人を集め「釜関フェリー・船上シンポジウム」を開いた。 この日韓対話は大島渚氏の「バカヤロー」発言で一躍、有名になった。 ある酒席で、私は50を過ぎた韓国政府高官に対し、多少の自己弁護的気持ちもあって、「大島さんに限らず、バカヤローは日本人の口癖みたいなもの 。愛情をこめて言う場合もあるんですよ」と弁解したところ、「それは通用しないよ。 われわれの世代は子どものころ、日本の警察や憲兵が“朝鮮人、バカヤロー”を叫んでいたのを記憶しているのだから」とピシリと言われた。 この世代の反日感情は経験から来ているし、皮膚に染みついた感情でもある。しかし、同時に、この世代は日本の良さも知っており、韓国で最大の知日家グループで、酔うと、若い時代に流行した李香蘭の歌などが飛び出す。 これまでの日韓関係を支えてきたのは、こうした人たちである。
第二は、詩人、金芝河氏など李承晩政権時代に反日教育を受け、日韓正常化に反対したいわゆる「ハングル世代」である。 官界や言論界の中核となっているが、観念的な反日感情が強く、海外留学では圧倒的に米国が多い親米派でもある。 日本については、あまり知ろうとせず、批判の舌鋒は鋭い。
第三は、それ以降の若者たちで、日本製のオモチャやテレビ、ウォークマンで育った世代。 観念的な反日感情は持っているが、日本が世界の経済大国になったことに興味を持ち、知ろうという意欲も強い。 数年前から韓国の高校は日本語ブームで、今年は20%を超す大学受験生が、日本語で受験した。日本語の『ノンノ』や『アンアン』の熱心な読者でもある。 日本観も素朴で、友人のある新聞社の重役の娘さんは、高校の修学旅行で日本へ行き、「日本人はいつからあんなに親切になったのかしら」という感想をもらしたという。 これまで、日本人の悪評ばかりを聞かされていたので、そう感じたらしいのだが、それ以来、すっかり日本びいきになったという。
幸いなことに、こうした人たち(反日感情の強いハングル世代)でさえ、概念的な「日本」と「個々の日本人」は区別する。「君は友人で別だが、日本人というのは‥‥」といった具合である 。韓国に住み、多くの友人をつくった日本人のほとんどが、「あなたは好きだが、日本人は嫌い」といった言葉を聞いているはずだ。
結論から言うと、日韓親善の道は、こうした個人的な友人をつくっていくしかないように思える。日本人一人一人が韓国人の友達をつくり、その輪を広げることが、「近くて遠い国」との友好を深めうる「遠くて最も近い国」ではないだろうか。
大島渚の「バカヤロー」事件は当時かなり有名になったもので、内容は検索すれば分かるでしょう。 私は、韓国や在日への理解がとりわけ深いと思われていた(つまり韓国にとっては良心的日本人)大島が、自分も含めて日本の歴史責任を繰り返す韓国人に対して、いい加減にしろとキレたものと理解しました。 興味のある方はお調べください。
ところで30年前の分析では、「第一」の植民地体験世代は日本の辛い体験と良い体験の両方があるとしています。 今は80代以上ですから鬼籍に近付いている世代です。 次は「第二」のハングル世代で、体験のない日本に対し嫌いが際立ちます。 さらにその次の若い「第三」世代は日本を経験してみて好きになる、というものです。
だから日韓交流をもっと推し進めて、「あなたは好きだ」という個々人の友好関係を深めようというのが、30年前の小林記者の論です。 当時はこのような友好を積み重ねることによって、日韓関係は良くなるという主張が説得力を持っていました。
そして現在。 日韓の個人的友好関係は、飛躍的に増えました。 特に韓流ファンの女性たちは、韓国人の友人をつくってメール、プレゼント、相互訪問をしている人がビックリするほど多いです。 またこういった人たちは韓国語もどんどん上達しており、まさに日韓友好親善の実践者です。
しかし個人間ではなく、国と国あるいは民族と民族の関係になると、「友好」と言い難いものが続いています。 30年前の「あなたは好きだが、日本人は嫌い」は今も韓国に根強く残り、あの韓流ブームでも容易に融けるものではなかったと思います。
ところで韓国からの来日旅行者は今年600万人をはるかに超え、最高を記録することが確実です。 この流れが定着して「あなたは好きだが、日本人は嫌い」という感情が融けていってくれればいいのだが、と思っています。
【拙稿参照】
日韓交流は相互理解に役立ってきたか? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/12/13/8747383
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。