かつて朝鮮人女性には名前がなかった2018/12/13

 李朝時代の朝鮮では女性に名前なかったことについて、現代日本人にはなかなか理解が難しいようです。 犬猫でも名前があるのに‥‥、名前なしでどうやって生活できたのか‥‥という反応になりがちです。 しかしこれまでかなりの研究者がこれについて論じてきており、拙稿でも紹介してきました。 下記【拙稿参照】

 ついでにもう一つ、資料を紹介します。 尹学準『韓国両班騒動記』(亜紀書房 2000年4月)に、朝鮮人女性の名前について著者と日本の進歩系インテリ女性との会話が報告されています。

―朝鮮の場合、女性は結婚しても苗字が変わらないそうですね。

―もちろんです。日本の場合、昨日まで田中○子だったのが、結婚したとたんに亭主の苗字になる。これはいけませんね。まさに従属そのものじゃないですか。

―そうだわよね。女性蔑視の最たるものだわ。朝鮮の女性はなんとすばらしいことでしょう。うらやましいわ。

―女権獲得のために大いにがんばることですね。

この羨望のまなざしをこめて問いかけてきたのは、日本の進歩派の女性、フェミニストのリーダーの一人であった。  かくいう小生もこういう内容のことで幾度か話しかけられたことがある。 そのとき私はどう答えたか。

―いや、実は朝鮮の女には名前さえないのですよ‥‥。などと正直なことは絶対に言わない。 ただニヤニヤしてその場をごまかし、なんとか話題を逸らしたりするのだ。(以上 141頁)

私は「朝鮮の女には名前すらない」ことに対して、わが家の女どもから糾弾されただけですんだことにつくづく安堵した。 もしこのことが日本の進歩的インテリ女性―とくにフェミニストの闘士に知られたらどうなることだろうと思うと、背筋が寒くなる。 朝鮮女性にたいして向けられた羨望のまなざしが一転して侮辱のそれに変わるであろうから。 ひたすら国家、民族を愛している国粋主義者の私にとっては、これは耐えがたいことだ。(144頁)

 ちょっと面白おかしく書かれていますが、「朝鮮女性には名前がなかった」という事実は間違いないところです。

 なお奴婢等の賤民階級の女性には名前があったことは忘れないでほしいところです。 李朝時代は最下層の賤民女性には名前があり、上・中層の女性には名前がなかったのです。

 奴婢は「一賤則賤」「従母法」という法に従って、婢女から生まれた子供は奴婢であり、全て主人の両班(貴族階級に相当)の私有財産となりました。 両班にとって婢女が子供を産むと、自分の財産が増えることになるのでした。 従って両班は奴婢が自分の私有財産であることを証明するために、母親の婢女の名前が必要だったのです。 女性に名前があるということは、李朝時代では厳しい女性差別と身分差別の産物であって、人格尊重では全くありませんでした。

 「李朝時代、女性に名前はなかった」の反論に、奴婢の女性の名前を挙げることは可能ですが、果たしていかがなものなのでしょうかねえ。 上層階級の両班が王様の逆鱗に触れて処罰されて妻女が奴婢身分に落とされた場合、その妻女には名前が付されます。

 韓流ドラマの時代劇を見るとき、女性がどのように扱われているかに注意してみると、時代考証がどれほどいい加減か、興味深いですね。

【拙稿参照】

李朝時代に女性は名前がなかったのか   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/02/29/8033782

李朝時代に女性は名前がなかったのか(2)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/03/23/8055612

李朝時代に女性は名前がなかったのか(3)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/01/8061795

李朝時代の婢には名前がある       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/03/19/8053165

許蘭雪軒・申師任堂の「本名」とは?   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/03/31/8060665

李朝時代に女性は名前がなかったのか(4)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/04/8083000

名前を忌避する韓国の女性        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/03/10/8043916

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