お上に逆らえない業者の悲哀(1)2020/01/01

 もう二十年近く前の話である。西日本のあるMレール建設に伴う出来事だ。公共交通のMレールは法律上路面電車と同じ扱いだから、特に理由のない限り公道に沿って建設される。公道のない所にMレールを走らせようとすれば、公道も一緒に造ることになる。

 T市にある溜池の中をMレールが走ることになった。公道もその池の中に建設することになる。ところがこの池はH遺跡の中にあった。遺跡の中で道路がつくられるのだから、発掘調査が必要になる。Mレール側はO法人に発掘調査を依頼し、O法人は発注者として発掘工事を競争入札にかけ、地元のD社が落札して発掘に着手した。

 当初は池の土手も含めて発掘調査する設計であったが、土手の発掘は直ぐに出来ないことが判明し、土手を残したまま池の中から先行して発掘することになった。すると現場に機械や資材を搬入する進入路が必要になる。落差8mの池の底まで仮設進入路を造成する工事は当初設計にない別工種であるから、本来なら新たな設計書を作成して別途に競争入札をせねばならない。

 しかし発注者は担当者間で交わす打ち合わせ簿だけで、D社にこの仮設進入路の追加工事をさせてしまった。数百万円もする工事を、設計書も見積り合わせもなく、そして契約書もなく、施工させたのである。そして発注者はこの契約していない追加工事の代金を、中間払いという形で支払った。

 しかしこれが会検に見つかったら大変なことになると判明して、今度は設計書の改竄に着手した。それは追加工事分の入った設計書を新たに作成したもので、会検にはこれを見せて仮設進入路工事費の支払いは正当であると装ったのである。つまりこの発掘工事には、現場説明時に配布された当初設計書以外に、会検用の改竄設計書の二種類が存在することとなった。

 当初設計書では、池の中はヘドロなのでこのままでは発掘が困難であるとして、ヘドロ(土壌)改良工事が含まれていた。どれ程の量の改良剤が必要なのかについてヘドロを採取して検査せねばならないのだが、発注者はそんなことをせずに、いい加減な数字の量を設計書に書き入れていた。それは池のヘドロ全部が固いコンクリートの塊になって、発掘する際には削岩機が必要になる程の量であった。

 これに気付いた発注者はD社にヘドロの採取と検査をさせて、改良剤の適切量を調べさせた。しかしこれに要した費用は、発注者は計上せずにD社にすべて負担させた。適切量は当初設計量の半分ほどであったから、D社にとっては減額になる。D社は、こっちが金を出したのに減額になるなんて、と不満をあらわにした。

 ヘドロ改良工事については、まだ話が付け加わる。発注者は改良工事に使う地盤改良剤を地元要望があったからとして「環境に優しいものを使え」と指示した。D社は当然どういう製品の改良剤を使えばいいのかと聞くが、発注者は「環境に優しいものを使え」の一点張りで、具体的にどの製品かを指示しなかった。

 困ったD社はいろいろ探して「環境に優しい」と書かれた製品の広告を見つけ、これではないかと発注者に尋ねた。しかしそれは当初設計にあるものより三倍以上も高価なものだった。結局、発注者は「環境に優しいものを使え」という指示を撤回し、当初設計の製品を使うことになった。その間D社は発注者によって振り回され、時間を浪費しただけであった。

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