対北ビラ散布風船の費用―詐欺なのか2020/06/19

 6月16日に北朝鮮が南北連絡事務所を爆破したことで、朝鮮半島がまた騒がしくなっています。 この契機となったとされるのが、脱北民団体が北朝鮮に向けて飛ばしたビラです。 大きな風船に大量のビラをぶら下げて飛ばし、北朝鮮に到達したところで落下させてバラ撒くというものです。 あの風船には一体どれくらいの費用がかかっているのか気になっていたのですが、6月15日付けのハンギョレ新聞に次のような記事がありました。    http://japan.hani.co.kr/arti/politics/36947.html

「米保守系団体が対北朝鮮ビラ活動に援助」…「金儲けの手段」利用疑惑

対北朝鮮ビラは、先月31日に自由北韓運動連合が撒いたものだ。パク・サンハク氏が率いるこの団体はその日、ビラ50万枚、小冊子50冊、1ドル紙幣2000枚、携帯用保存媒体(USBメモリ)1000個を大型風船にぶら下げて飛ばした。

別の対北朝鮮ビラ団体「対北風船団」のイ・ミンボク代表も、「風船を1回飛ばすのに原価は10万ウォン(約8920円)ほどにすぎないが、パク・サンハク代表は1回につき150万ウォン(約13万4000円)、300万ウォン(約26万8000円)の援助を要求している」と非難した。

 風船は一回に10個ほどを飛ばすものですが、その費用が8920円だそうです。 へー!そんなわずかな費用で出来るのか!とビックリした次第。

 翌17日付で、その続報でその内訳が出ました。   http://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/949625.html 

‘개당 150만원’ 삐라풍선 원가 12만원…살포 경험 탈북민 “완전 사기”

폭 1.8m, 높이 12m가량의 풍선 제작에 드는 비닐값은 하나에 2500원입니다. 비닐 절단 비용은 750원, 풍선 운반 차량의 유류비는 1개당 환산하면 5000원입니다. 풍선에 주입하는 가스 비용이 3만원, 일정 시간 뒤에 풍선을 터뜨리는 장치(타임기) 비용이 3000원 수준입니다. 비용이 가장 많이 드는 항목은 사실 전단 제작비인데, 풍선 하나에 실리는 전단 6만장(7.5㎏)의 가격은 3만7500원이었습니다. 홍씨는 상세 비용을 공개하며 “(일부 대북전단 살포 단체가) 12만원 정도의 대북 전단비를 150만원으로 뻥튀기를 해서 돈을 받는 중이다”라고 다시금 의혹을 제기했습니다.

 訳してみました。 なお「ウォン」は1000ウォン=90円で計算しました。

「一個当たり150万ウォン(13万5千円)」のビラ、原価12万ウォン(1万800円)‥‥散布経験の脱北民「完全な詐欺」

幅1.8m、高さ12mくらいの風船にかかるビニールの値段は、一個に2500ウォン(223円)です。 ビニール切断費用は750ウォン(約68円)、風船運搬費は一個当たりに換算すれば5000ウォン(450円)です。風船に注入するガスの費用が3万ウォン(2700円)、一定時間後に風船を落とす装置(タイマー)の費用が3000ウォン(270円)の水準です。 費用がもっともかかる項目は実はビラの製作費なのですが、風船一つにビラ6万枚(7.5㎏)の価格は3万7500ウォン(約3400円)でした。ホン氏は詳細費用を公開して「(一部の対北ビラ散布団体が)12万ウォン(1万800円)程度の対北宣伝費を150万ウォン(13万5000円)に大きく膨らませてお金をもらっているところです。」と再び疑惑を提起しました。

 この記事の添付写真には、これ以外に車のガソリン代6000ウォン(540円)、ビラの分離作業費1万2500ウォン(約1100円)、ビラの袋詰め作業費3750ウォン(約340円)、風船の飛ばし作業費3人分1万8000ウォン(1600円)、食事費3人分3000ウォン(270円)、広報費3773ウォン(340円)が挙げられており、合計12万ウォン(1万800円)と記されています。

 「ビラの分離作業」というのはおそらく、印刷されたビラは束の塊で納品されるので、空からビラを撒くためにこれを一枚一枚分ける作業のようです。 それはともかく、風船を飛ばす費用が15日の記事では「10万ウォン(約8920円)」とあるのは、一回当たりではなく1個当たりであり、しかも17日の記事の内訳をみると「12万ウォン(1万800円)」と膨らんだ数字になることが分かりました。

 ところでこの内訳を見て疑問に思うのは、ビニールの切断費があっても、それをつなぎ合わせて風船にする接着費がないことです。 ガス漏れを起こさないようにビニールを接着していくのはちょっとした技術と道具と手間が必要だと思うのですが、何故かありません。 さらに風船、ガスボンベ等を運ぶ車のガソリン代は計上されていますが、車の借り上げ賃や運転費がありません。 

 それから6月15日付けの記事にある、風船に積まれているはずの「小冊子50冊、1ドル紙幣2000枚、携帯用保存媒体(USBメモリ)1000個」が計上されていないこと。 これを私なりに計算してみますと、次のようになります。

 一ドル紙幣2000枚ですから2000ドル。これは約247万ウォン(約22万円)になります。 飛ばす風船は10個ぐらいですから、1個当たりにすると24万7千ウォン(約2万2千)円です。 また同時に積まれているUSBメモリー1000個の値段もないこと。 USBなんて、ギガ数の少ない超安物の中古品を大量買いしたら一個500ウォン(約45円)くらいでしょうから、1000個なら50万ウォン(約4万5千円)。 風船一個当たりにすると、5万ウォン(4500円)ですかねえ。 小冊子の方は値段の付けようがありませんが、印刷製本費が一冊500ウォン(45円)として50冊で2万5千ウォン(2250円)。

 ということで、私の計算ではドル紙幣代247万ウォンとUSB代50万ウォン、小冊子代2万5千ウォンの計299万5千ウォン(約27万円)。 風船一個当たりにすると約30万ウォン(2万7千円)を更に追加する必要があります。

 6月17日付けの記事では風船の原価は一個当たり「12万ウォン(1万余円)」だということになっていますが、私の計算では上述の30万ウォンを加えて42万ウォン(約3万8千円)、さらにビニール接着費や車の借り上げ費等、その他私の見落としもあるでしょうからそれも加えて50~60万ウォン(4万5千万~5万4千円)くらいが実際の原価になります。 なおこれは私のまことに勝手な計算ですが、当たらずとも言えども遠からず、と考えています。

 これ以外に通信連絡費や消耗需要費、交通費等々の現場経費、事務所維持費、人件費等々なんかも加えれば、ビラ散布する脱北民団体が一個当たり150万ウォンだと言うのは、それほど不当なものとは思えないのですがねえ。

 ハンギョレ新聞が「完全な詐欺」だとするには疑問を抱いた次第です。