「朝鮮漬け」の思い出(2)2020/12/22

 前回(http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/12/17/9327581)で、次のように記しました。

在日朝鮮人と隣近所の日本人は交流があったはずなのに、日本人が在日朝鮮人の家からキムチの作り方を教わったという話は全くと言っていいほどにありません。 また在日朝鮮人側も、どうせ日本人はキムチが嫌いで食べないからと教えることはなかったようです。

 これを書きながら、 40年ほど前に聞き取りをした、ある在日韓国人一世の女性のエピソードを思い出しました。 この方は字の読み書きが出来ませんでしたが、ご主人を事故で亡くし、失対労働(ニコヨン)などをしながら、5人の子を一人で育てたという気丈な方でした。 (“ニコヨン”なんて、今は完全に死語ですね)

 朝鮮人集中地区(いわゆる朝鮮部落)に住んでおられて、家でキムチを漬けて周囲の知り合いの朝鮮人の家に分けてやって、生活費の足しにしておられました。 その方の子供さんが日本の会社に就職し、その職場で自分の母親が朝鮮漬け(キムチ)を作っているという話をしたら、上司から一つ持って来てくれと言われたそうです。

 日本人はキムチは辛い、臭いと嫌って食べないものなのにと思いながら、キムチを一つ持たせました。 ところがその職場で“美味しい”と評判になり、そこの人たちから次々と注文が来ました。

 女性は、これは商売になると思って保健所に届けを出して、販売するようになったという話でした。 ただし大量生産する考えはなく、ごくわずかな範囲での商売だったが、生活が少し楽になったということでした。

 当時の日本人は「朝鮮漬け」と言えば、白菜の浅漬けに「朝鮮漬けの素」なんかを混ぜて入れたものを知っていただけでした。 これは「キムチもどき」でしかなく、ちょっと変わった漬物という感じでしたねえ。 だから「本格キムチ」を食べると、えー!これは美味しい!とビックリしたというわけです。

 私も昔こんな本格キムチを貰って、朝鮮問題にちょっと関心のある日本人に分けてやったことがあります。 ところが彼からそれをきれいに洗って食べたと聞いて驚きました。 真っ赤なキムチをそのまま食べることに抵抗感があったというのが、当時の一般日本人でした。

 昔は本格キムチは市場なんかでは売っておらず、日本人は本格キムチを全く知らなかったと言ってもよかったものです。 在日と知り合いになって、その家から本格キムチを頂いて初めてその美味しさに気付く、こういうパターンの時代でした。

 在日朝鮮人のキムチに関して、40年以上前のことを思い出した次第。

 今スーパーで売られているキムチは「キムチもどき」が多いですねえ。 キムチの基本は白菜・塩・トウガラシ・ニンニクですが、「本格キムチ」はこれにイカやエビの塩辛、リンゴや柿などの果物、ニンジンなどの野菜の千切りなど色々入れて、またトウガラシも高級品を使いますから材料代だけでもかなり高くつきます。 そして発酵食品ですから熟成するのに少々時間がかかります。 ですから「本格キムチ」は値段が高いものなのです。 安いキムチは「キムチもどき」と見て間違いなく、美味しくもありませんね。

スーパーで買うキムチは、名の通った製造元で少々値の張るものをお勧めします。 もしくはちょっと遠くても、昔からある朝鮮料理材料店で購入するのがいいですよ。 その時はニンニクの匂いが漏れやすいので、ビニール袋を何枚も持参することです。