日本の稲作の起源は朝鮮半島か?2021/02/02

 このごろは声高に言う人はいないようですが、1990年代までは“日本文化の根底にある稲作は朝鮮半島から渡ってきたものだ、朝鮮人が野蛮な日本人に教えてやったものだ、だから日本文化の根本は朝鮮文化なのだ”などと主張する韓国人(在日も本国も)が多かったです。 彼らは日本人にこれを言うと、日本人側は何も知らないですから「ああ、そうですか」と相槌を打つしかなく、そうなると日本人も自国文化の根源が我が朝鮮にあることを認めていると思うようになります。 これによって韓国人は日本に対して優越意識を感じるようでしたねえ。

 それでは稲作が朝鮮半島から来たというのは本当なのかどうか。     日本では稲作の歴史は弥生時代から始まるとされ、九州福岡県の板付遺跡や佐賀県の菜畑遺跡などで縄文時代末~弥生時代初期の水田跡が発見されています。 (これは20年以上前の知識。今はもっと見つかっているのではないかと思う) これらの遺跡では水田稲作技術のほぼ完成された姿をいきなり見せていますから、稲作は縄文時代から内的に発展してきたものではなく、外来のものであることが確実です。 しかも朝鮮半島に面した北九州にありますから、朝鮮からもたらされたという推定は成り立ちます。

 ですから朝鮮人が日本人に稲作を教えてやったという主張は、それなりに根拠があると言えます。 ところがよくよく調べてみると、果たしてそう言えるのだろうかという疑問が湧きます。

 水田というのは、田に水を湛えて田植えをするものです。 世界的に見て田植えをする水田稲作の分布は、東南アジアや南アジア等の熱帯・亜熱帯地方が中心です。 そして水田稲作の北限が日本なのです。(今は農業技術の発展で少し違っていますが)

 これはどういうことかというと、水田稲作は降水量が多くて田植え時期が雨期であり、また稲の成長期である夏が猛暑であることが適地になります。 日本では6月前後にまとまった雨をもたらす梅雨前線が中国の華南地方あたりから日本列島に向かって斜めに延び、そして梅雨が上がると猛暑になります。 つまり日本は水田稲作に適した気候だと言うことができます。

 ところが朝鮮半島では、梅雨があることはありますが、わずかの期間です。 年間降水量は日本では2000㎜以上なのに対し、朝鮮では1300㎜ほどです。 また日本のような蒸し暑い猛暑も少ないです。 従って、朝鮮半島は気候的に水田稲作にそれほど適していません。 これを裏付けるものとして、中世に出た朝鮮の農書があります。

 李朝時代に農業技術を体系化して叙述した『農事直説』(以下『直説』)という農書があります。 1429年に完成し、翌年刊行されたもので、朝鮮最古の農書とされています。 日本の室町時代にあたりますね。 朝鮮史研究者の宮嶋博史さんの解説によれば、この農書の中で水田稲作について、次のように説明されています。

挿種法は、日本でも馴染みの田植えを行なう移植法であるが、『直説』ではこの挿種法は「農家之危事」、すなわち農家にとって危険きわまりない栽培法として、強く忌避されている。  ‥‥ 『直説』が挿種法を避けるよう勧めているのは、挿種法の不安定性のためであったが、そこには朝鮮の気候条件が大きく作用していた。 日本や中国南部地方では、田植え期がちょうど梅雨と重なっており、したがって田植えに必要な水を確保することが比較的容易である。

しかし梅雨前線が朝鮮半島にまで北上するのは、だいたい七月に入ってからであり、田植え期と梅雨の時期が一致しないことが多いのである。 こうした気候条件のため、挿種法は水利条件のよい水田を除いては、きわめて危険な農法とされた (以上 宮嶋博史『両班』中公新書 1995年8月 84~85頁)

 これにより朝鮮半島の大半の地域では、水田稲作(田植え)が困難だったことが分かります。 考えてみれば朝鮮半島は気候的に中国の華北地方の延長にあたる地域で、ここは水田よりも畑作地帯です。 従って朝鮮も畑作中心の農耕だったと考えられます。 これは気候条件に起因するものですから、朝鮮では最初から水田稲作が難しかったと言えるでしょう。

 朝鮮の水田稲作はかなり後世になって発達してきたと見ていいのではないでしょうか。 特に植民地期になると、各農村で水利組合が設立されて、灌漑が発達しました。 この時期に半島全域に、水田(田植え)耕作が普及したと言えると思います。

 以上から、日本の稲作は九州北部から始まったが、その淵源は中国華南地方あるいは東南アジアにあったと言えます。 少なくとも朝鮮半島に淵源を求めることは出来ないと考えます。

 もし日本文化の基礎である稲作は朝鮮人が教えてやったものだと言う人がいれば、このように反論することが出来るでしょう。

【拙稿参照】

韓国の伝播論と日本の由来論   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2006/04/26/342428

情けない日本の古代史学者    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2010/10/02/5380855

「古代渡来人」考            http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainijuudai