不法残留外国人について ― 2021/05/11
いま入管法改正案が国会で審議されていて、これに反対する運動が盛んなようで、よくマスコミに登場します。
これに関しては1980年代までは、韓国からの密入国や不法滞在が大きな問題になっていたことを思い出します。 摘発された韓国人は長崎にある大村収容所に入れられ、強制送還を待つこととなります。 しかし時の韓国政府が彼らの送還を拒絶する場合が多々あり、その時は長年にわたり収容所に閉じ込められました。 ですから大村収容所を廃止しようという運動が、1960年後半から70年代にかけて盛んでしたねえ。
私もこれに関心があって、この運動団体のパンフなんかを熱心に読んでいましたが、周囲の日本人だけでなく、多くの在日韓国人までが「密入国だから仕方ない。私らはあんな人たちとは違う」と冷たい反応だったことを覚えています。
私には何十年も前のそんな体験がありましたから、今回の入管法改正とそれに反対する運動についても関心があります。 今のところ新聞記事などを読むしかありませんが、そこには不法滞在者や難民申請者の「国に帰れば殺される」というような話が多く出てきます。 それを読んでいて、どうも疑問を感じるところがあります。 例えば毎日新聞5月7日付に「『帰ったら殺される』入管法改正案、在日ミャンマー人の叫び」と題する記事は、次のように書かれています。 https://mainichi.jp/articles/20210507/k00/00m/040/023000c
「帰ったら殺される。恐ろしい」。そう声を落とす40代のミャンマー人男性は母国の軍事政権に反対するデモに何度も参加してきた。男性は「国軍はデモ参加者のリストを持っている」と危惧し、帰国すれば命の危険があると訴える。
男性は1999年に親族を頼って観光ビザで来日。ビザが切れても日本人の人手不足が深刻だった製造業で働いていたが、数年後に不法残留で摘発され、入国管理局に収容された。現在は一時的に収容を解かれる「仮放免」の身。母国の情勢を鑑みて難民申請を繰り返しており、改正法案が成立すれば強制退去になる可能性がある。
一般的に不法残留には、意図的に不法残留したのか、或いはうっかりで不法残留となったのか、それとも止むを得ず不法残留にならざるを得なかったのか、等々の場合があります。 このミャンマー人の場合、記事を読む限り「意図的な不法残留」と言わざるを得ませんね。 毎日が何故このような例を記事化したのか、そこが分からないところです。
またミャンマーは2011年に軍事政権から不十分ながらも民政に移管し、2015年と20年に総選挙が実施されました。 しかし今年の2月に軍事クーデターが起こって再び軍事政権となり、国内では民主化を要求する命を掛けた活動が続いています。
こんな歴史を知ると、毎日の記事に出てくるミャンマー人が日本国内で不法残留の身でありながら「母国の軍事政権に反対するデモに何度も参加してきた」というところに疑問が出てきます。 2011年以降、今年2月までの約10年間は帰国できるチャンスがあったと思うのですが、何故か「難民申請を繰り返して」きたとありますから、単に日本に在留したかっただけではないのかという疑問です。
毎日の記事は、続いて次のような例を挙げています。
20年以上前に来日した仮放免中のアジア出身の男性も改正法案に危機感を募らせている。不法残留の状態で結婚した女性との間にもうけた子どもは既に高校生。日本語しか話せず、この先も日本での進学や就職を希望しており、「子どもの将来が心配だ」と話す。
不法残留者同士が結婚して子供ができれば、その子も在留資格のない子供になります。 従って強制送還の対象になります。 こんなことは不法在留者には常識なはずですが、両親はなぜこれを放置してきたのかが理解できないところです。 日本で子供を生めば何かの在留資格が得られると思ったのでしょうか? 周囲にはそれは難しいと忠告する人はいなかったのでしょうか?
ところで1960年代に韓国からの密入国者同士が結婚して子供を作ったが発覚、両親・子供みんなが送還されたという話はよく聞いたものでした。 この過去と同じ出来事が今も繰り返されているようですね。
外国人は日本で自分がどのような身分であるかについて、よく知っているものです。 もし不法滞在であることが発覚すれば送還されますから、発覚しないように慎重に生活します。 もし何かの事件に関係したり事故を起こしたりすると、不法滞在であることは直ぐにバレますから、そうならないように大人しく目立たないように生活するのです。 かつて知り合った韓国からの元密入国者は不法滞在時代に職場(パチンコ屋)で事件が起きた時に、自分は事件に直接関係なかったが警察が来る前にそこから逃亡したと言っていましたねえ。
在日韓国人社会にはかつて韓国からの密入国者が多く存在し、バレるとどのような取り扱いを受け、どのような経過を経るのかをよく知っています。 ある者は強制送還され、ある者は自費帰国し、ある者は特別在留許可を得て引き続き日本に滞在するといった道を歩むのですが、その分かれ道は何なのか。 在日はこういった実際の話を多く見聞きしてきていますから、今回の入管法改正および不法残留者問題に対して役に立つ助言をすることが可能だと思います。 しかし在日たちはそれほど大きな関心がないようです。
特別永住等の合法的在留資格を有する在日にとって、今の不法在留者は関係ない問題ととらえているのだろうと思います。 この問題の支援者のほとんどが日本人であり、そして彼らはまるで自分たちの問題であるかのように運動しているところに、私の驚きというか新鮮さを感じるところです。
【拙稿参照】
かつての入管法の思い出 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/10/17/9306547
昔も今も変わらない不法滞在者の子弟の処遇 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/03/21/9226536
8歳の子が永住権を取り消された事件 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/12/01/9322206