道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(1)2021/10/03

 韓国の雑誌『月刊中央』2021年9月17日号に、「[特別招待席] 道上尚史 前日中韓三国協力事務局長が見た韓・日関係」と題するインタビュー記事がありました。 http://jmagazine.joins.com/monthly/view/334605

 道上さんは日本の外交官で、韓国語でインタビューに応じるほどの語学の達者な方のようです。 韓国人が読むことを前提とするインタビューのためか、発言内容はソフトですね。 日本語話者が語る韓国語ですから、頭の中の意識は日本語、それを素早く韓国語に訳しながら口に出す作業となったようです。 ですから私には発言内容が分かりやすく、ほとんど辞書なしで読むことができました。

 ちょっと興味深く読みましたので、翻訳してみました。 合間に私の感想を挟みます。

―道上尚史(63)前日中韓三国協力事務局長は、日本外務省を代表する「韓国通」外交官だ。 1984年、韓国に初めて来た彼は外交官生活37年間のうち、韓国で五回、全部で12年間を勤務した。 東京大学法学部を卒業し、米国ハーバード大学で修士学位を取った。韓中の二カ国で公使を歴任した日本外交官第1号だ。 韓国の社会・文化の事情に明るく、韓国語を駆使する能力に秀でており、国内でも認知度が高い。事務局長の任期が満了し、日本に帰任する彼に会って、国と組織を離れて一個人として37年を見た率直な感想を聞いた。

―道上局長は1984年に韓国に始めて来て、延世大学語学堂、そしてソウル大学外交学科修士課程で勉強されたと聞きました。 その時の印象的な経験などを覚えておられるでしょうか?

学生デモが多く、催涙弾も飛んでいる激動の時期でしたが、教授や学校の友人たちみんなが大変親切で、毎日面白く過ごしました。 ある日講義で、ソウル大学のお年を召した教授が「我々は日本をすでによく知っている、勉強する必要はないと見ているが、それは大きな錯覚」だと言って、「韓国は実際に日本をよく分かっていない。 我々が知っているという日本は、本当の日本ではない。 学生諸君は日本を知らないと認めて、一生懸命に勉強しなさい」とおっしゃいました。 核心を突く勇気ある指摘に、私は感銘されました。韓日関係に困難が多いですが、これから明るい未来があり得るんだという光明を見た気分でした。

―外交官として長い間韓国を見守りながら、韓国社会が持っている長所・短所も多く見て感じられたことでしょう。 率直なお言葉を聞きたいと思います。

効率性が高い点、ビジネスや勉強において目標を達成する集中力は、韓国の方たちの長所ですね。 半面、目に見えない部分や中長期的な視野がちょっと弱いと感じることがないことはないです。 私の知り合いのご夫婦ですが、夫が韓国人、夫人が日本人です。 その子が勉強や集団生活があまりよく出来なかったといいます。 日本の小学校の先生は生徒一人一人ずつをよく面倒見てくれて、韓国ではそうではなかった、韓国は勉強がよくできる生徒のための学校だと感じたとおっしゃるのです。 また韓国社会に大きな衝撃を与えたセウォル号事件、そのために海警(日本の海上保安庁に相当)を解体するというニュースに驚きました。 日本の常識では海警を強化せねばならないのですが、なくすというのですから。 もう一つ、日本のノーベル賞受賞者が言ったことなのですが、「基礎研究は日本人の特性に合っている。 30年間してきた研究が成果を得られるのかどうか、成果を本人が生きている間に認められるのかどうか分からない。 お金や名誉を考えれば出来ないことだ」と言うのです。 韓国はある意味で効率性が高いですが、目の前の目標だけを追求するならば他の重要な要素が犠牲になるしかないでしょう。 これからもっと成熟した社会になって克服せねばならない課題でしょう。

 「韓国は勉強がよくできる生徒のための学校だ」という話は、時々聞きますね。 学校の先生が成績のいい子を露骨に称賛・優遇するということなのですが、本当なのですかねえ。

―日本の『文芸春秋』に発表された文を読みましたが、韓国の知人が「韓国は圧縮成長で短い期間にたくさんのことを成し遂げたが、抜けたところも多い。 民主主義に対する理解も足りない」と指摘したということでした。 成熟した民主主義とポピュリズム問題はアメリカやヨーロッパ、南米を含めてたくさんの国の課題ですが、韓国の民主主義と政治について、また保守と進歩の葛藤について、どのように感じておられますか?

大声でスローガンを叫んだり誰かを糾弾することが民主主義の核心ではない、ということではないでしょうか。色んな意見を収れんする過程、冷静で客観的な実務把握、緻密な専門知識、それが民主主義国家に必要な条件でしょう。 英語でPrudent(冷静でちゃんと組み立てられた)国家運営です。 韓国の保守・進歩に対して、あれやこれやと言えませんが、どの国であれ、理念やイデオロギーだけでは国家運営は不可能ですよ。 しばしば日本人は韓国の保守を好むと言われますが、過去40年間に日本で一番評価が高い韓国の指導者は金大中元大統領なのです。

 「過去40年間に日本で一番評価が高い韓国の指導者は金大中元大統領」というのは、40年間に限ればその通りでしょうね。 私はその以前の朴正煕大統領を一番高く評価しているのですが、それ以降となるとやはり金大中大統領ですね。

―最近韓国で労働運動やフェミニズムの議論が活発ですが、日本はどうですか? 日本でも学生運動をしていて政治家になった方たちがいるのではないのですか?

日本でははるか昔である1970年代初めに、急進的な女性運動が、そして私が生まれるより前に労働運動が猛威を振るっていました。 過度な運動に対する反省もありました。日本の学生運動は私より15~20年先輩たちが参加していました。 ところで韓国と日本の学生運動出身の政治家たちの間には大きな違いがあるようです。 日本では若い時にやった運動に対して徹底した反省がありました。 政治・社会・人間に対する理解が足りなかった、理念や主義の一つ二つで複雑な国政を担おうとするのは無理があったという深い反省から政治を始めたといいます。 韓国はちょっと違っていると思っています。

 日本では、学生運動・市民運動出身がそのイデオロギーを維持したまま政治家になった例は、韓国に比べたら確かに少ないですねえ。 韓国ではそういった運動が政治家になるためのステップとして機能している感があります。

コメント

_ 河太郎 ― 2021/10/03 10:24

道上尚史氏
<核心を突く勇気ある指摘に、私は感銘されました。韓日関係に困難が多いですが、これから明るい未来があり得るんだという光明を見た気分でした。>

果たして「これから明るい未来があり得るんだという光明を見た気分でした」は現実的なのでしょうか。
大統領(朴槿恵)が国民に向かって、被害者は千年経っても被害を忘れない、と演説する国が韓国です。
単なる事実を指摘しても、それが日本擁護の内容でもあろうものなら封殺される国が韓国です。

勿論、李栄薫「反日種族主義」が韓国で10万部以上のベストセラーになった事がありますが、それは、例外中の例外、としか見えませんね。
ごく最近の日本製品不買運動、福島原発処理水海洋放出猛反発など、韓国のトンデモ政策、世論は数え上げたらキリありません。

私は韓国に対しては、反日は韓国の首を絞めるもの、反日は損だ、と思い知らせるしかないと思います。

日本政府はこれまで、韓国の無理スジの要求にも応じる、譲歩するのが結局日本の国益だ、と勘違いしてきた結果が今の日韓関係なのだと漸く気が付いたようです。2015年慰安婦日韓合意が紙くず同然にされ、朝鮮半島労働者賠償命令判決の確定を目の当たりにしてさすがに目が覚めたのです。
自民党政府も漸く、日本政府のこれまでの融和的態度か韓国をここまで増長させてきたと反省し、無理スジ要求は拒否すると覚悟したようです。

「光明」というなら、日本政府が、韓国のウソには決して応じない、と覚醒した事でしょう。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック