ラムザイヤー教授の部落論(1)―同和対策事業2021/12/26

 米国ハーバード大学のラムザイヤー教授は昨年末に、従軍慰安婦は「性奴隷」ではなく「売春婦」だとする論文を発表して、ちょっと話題になりました。 韓国のマスコミなんかで、かなり叩かれていましたねえ。

『中央日報』のラムザイヤー教授報道を読む http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/02/21/9349231

 ところで彼は慰安婦だけでなく、部落問題についても論文を書いています。 「日本の被差別民政策と組織犯罪・同和対策事業終結の影響」と題するもので、その日本語訳がインターネット上で公開されているのを最近知りました。

https://jigensha.info/2021/10/16/ramseyer2018-1/

https://jigensha.info/2021/10/23/ramseyer2018-2/

https://jigensha.info/2021/10/30/ramseyer2018-3/

https://jigensha.info/2021/11/06/ramseyer2018-4/

 書かれている内容はちょっと首を傾げる部分があるにはありましたが、かつて私自身が体験あるいは見聞きした部落の状況にかなりの範囲で一致しており、それなりに信頼できる論文だろうと思いました。

 詳しい内容は読んでいただくとして、一部を引用しながら感想を書きたいと思います。 まずは論文の冒頭にある「概要」です。

1969年、日本政府は「部落民」のための大規模な同和対策事業を開始した。 同和事業は暴力団を引き付け、組織犯罪によってすぐに得られる高収入は、多くの部落民を引き付けた。 そのため同和事業は、多くの日本人が部落民を暴力団と同一視していた既存の傾向を後押しすることになった。 政府は2002年に同和事業を終了した。

同和事業終了後、部落民による市町村からの転出が増加していることがわかる。 一見して、同和事業は若い部落民が主流社会に加わることを抑制していたようである。 また、政府による様々な助成が終了したにもかかわらず、同和事業終了が近づくにつれ、部落近隣の市町村では不動産価格が上昇したこともわかった。 同和事業がなくなり暴力団が撤退すると、一般の日本人は、かつての被差別部落が魅力的な住環境であることに気づくようになった。

 「同和事業は暴力団を引き付け、組織犯罪によってすぐに得られる高収入は、多くの部落民を引き付けた」というところは、その通りだったと言うしかありませんねえ。 ただし大学で同和問題を講義しているような先生ならば、解放運動の崇高さを信じていますから、それは一部が犯した過ちでしかないと否定するでしょう。 あるいは解放同盟活動家ならば、差別があるから反社に行く人が出てくるのだ、原因は部落を差別する社会にある、だから我が同盟はヤクザを引き受けているのだ、とかなんとか言うでしょう。

 「同和事業終了後、部落民による市町村からの転出が増加している」とは初めて知りました。 15兆円もの巨額の税金を投入した同和対策事業が終了すると、同和地区に住んで部落民であり続けるメリットはなくなったということですね。 ですから地区から転出する部落民が増えるのは仕方ないところです。 ただし転出するのは一般社会に適応できる若・中年層が多く、残るのは高齢層ばかりという傾向になります。

 「同和事業終了が近づくにつれ、部落近隣の市町村では不動産価格が上昇した‥‥同和事業がなくなり暴力団が撤退すると、一般の日本人は、かつての被差別部落が魅力的な住環境であることに気づくようになった」。 同和地区の不動産価格が上昇しているとは知らなかったですが、確かにそうだろうと思われます。

 都市にある部落は、交通利便性からすると住みやすい場所にあります。 しかし1980年代に私が不動産会社に就職した友人から聞いたところでは、同和地区の住宅は周辺より二割以上安いのに、それでも売れ残ると言っていましたねえ。 それが2002年の同和対策事業の終了を前後して、同和地区でも住みたいという人が増えて、住宅の値段が上がっているということです。

 今の同和地区では部落民のうちの若い層が出ていき、代わりに同和にこだわらない人が入ってきて交錯しつつある、というのが現状のようです。 これは部落差別が解消の方向に行っていることではないでしょうか。

【拙稿参照】

『中央日報』のラムザイヤー教授報道を読む http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/02/21/9349231

解放運動に入り込むヤクザ    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/05/04/1482616

差別とヤクザ         http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daisanjuuyondai

差別問題の解決とは?     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/07/09/9266205

同和地区における不動産価格  http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daisanjuukyuudai

コメント

_ (未記入) ― 2021/12/27 13:23

ブログ主様、いつも興味深く拝見させて頂いております。
初めて投稿します。

私は不動産鑑定士で、かつて仕事で全国を回っていました。
同和地区は、全国的に見ても関係者以外に圏外からの移転者が極端に少なく市場参加者が限定されているため、土地価格が安いのはご指摘の通りです。
相続税路線価図を見ても、同和地区は周辺地域より安く価格が設定されている場合が多いです。なので、路線価図は同和地区に該当するか否かを判定するための有力な手段になります。

また、某県では県の出先機関が同和地区に建設されているケースがありました。これに伴い周辺に立派なマンション等が建設され、市街化が進展し、土地価格が上昇しているようです。自治体が部落差別の解消に努力していることが窺われます。
これらが同和事業終了の影響なのかと改めて感じた次第です。

_ 辻本 ― 2021/12/27 17:22

>路線価図は同和地区に該当するか否かを判定するための有力な手段になります。

 これは私の知らなかったことです。 お教えいただき有難うございます。
 このような役に立つ投稿は、うれしいですね。

_ (未記入) ― 2021/12/28 03:11

ラムザイヤー教授は知人の知人位の関係で面識はないけど以前から知ってはいた
父親がキリスト教のとある教団の宣教師で長年日本で布教活動をしていた
なので教授は日本育ち。教団の方針で子供の頃は日本の学校に通っていて日本語は堪能、学者になってからも交換教授などで日本でも教えていた。東大の客員教授だった
日本語で講義をし、日本語の専門書を読み込む力を持っている
日本にも知己が多く知日派学者の一人

ただ専門は法学で歴史は専門外
なので歴史の論文を書くときは一次資料に当たるというより日本の専門書やサイトの情報を種元にして論じてると思う
したがってそれらの精度が論文の質に影響してると思われる

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