戦後補償問題の解決とは?―『抗路』外村大を論ずる2022/02/14

 戦後補償問題について、私は前回で次のように記しました。 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/02/07/9461960

戦後補償問題は1970年代までは日本の「右」も「左」も関わっていたが、1990年代以降「右」はもはや解決したとして手を引き、「左」だけが自らの存在証明のように活動を熱心に続けた

 この時期の事情について、外村さんはその所論の中で次のように説明しています。

そうしたなか(1990年代以降)で、戦中派の不満を受け止めつつ、謝罪と戦後補償への反対を掲げる保守派の巻き返しが力を得た。 かくして1980年代までに見られた超党派の枠組みの基盤は破壊されていったのである。(8頁)

この時期(1980年代まで)の日本はGDP等の指標でみれば、アジアのなかで他国とは隔絶した地位にあった。 しかも1990年代初頭までのバブル景気の時期には、日本は最も成功した国家であり、世界の最先端を行く社会であるというような意識すら広がっていた。 総じて現状への批判的意識は薄れ、近代日本の影の部分を見据えようというムードは一般的ではなかった。(8頁)

むしろ(戦後補償問題に)影響していたのは、GDP等で測られる日本の国力への自信であった 。つまり、戦後補償としていくばくかのお金を支出することは、さして負担でないし、アジアのほかの国に対して優位に立っていることは変わらない、むしろ、謝罪してお金を払って解決するのであればそうすればよい、という認識が、謝罪と補償への支持の背景にあったと思われる。(9頁)

だが、日本人が自国の国力は絶大で、ほかのアジア諸国への優位にあるというような自信を持ちうる条件は崩れていった。 自分たち日本人の優位を前提として、他民族への謝罪や補償を認めることはもはやできない。 そうしたなかで、多くの日本人は加害の史実を直視することすら厭うようになっている。 それが今日の日本社会の現実ではないだろうか。(9頁)

 この分析はその通りと思います。 かつての日本は「金持ち喧嘩せず」という諺の通りを実行し、時には謝罪し譲歩してきました。 しかし日本の絶対的優位は1990年代以降の「失われた20年」によって崩れ、アジア諸国(韓国など)の言い分を聞く余裕がなくなったのです。 いつまでも止むことのない戦後補償問題、そしていくら謝罪しても更なる謝罪を要求されることに日本人の多くが〝うんざり″感を抱くようになり、強い反発が見せることになったのは周知のことでしょう。

 外村さんは、さらに次のように論じます。

かくして被害当事者らが納得するような戦後補償の実現は困難となった。 だが、依然として歴史問題の解決は重要課題である。(9頁)

 「戦後補償の実現」=「問題の解決」は困難だと言いながら、「重要課題」だとしておられるところに大きな違和感があります。 そして、この困難な「問題解決」のために、

‥‥ 継続的な関係者の交流、史実の継承といった、市民の「和解」こそが必要であり、それが葛藤を解きほぐしていくであろう。 そのためには、市民一人ひとりが、かつての植民地支配や戦争によって起こった人権侵害の歴史について、自分たちの関係の中で考えることが重要である。 (9頁)

 つまり外村さんは、「市民」が「歴史問題」に取り組むことを「和解」として提唱しています。 解決が困難なのに「和解」が出来るのだろうか? いつまでも解決しない問題ならば、「和解」しても意味がないのではないか?という疑問が湧くのですがねえ。 ところでその「和解」の具体的内容は、

朝鮮人強制連行の史実の調査や被害当事者との交流、犠牲者の遺骨返還、追悼行事等は、貴重な実践である。 慰安婦問題でも、多くの人の心を動かす活動が続けられ、歴史研究にも影響を与えた。(9頁)

 このような実践を行なう「市民」の活動はそれなりに貴重だとは思いますが、あくまで一部の有志で、しかも歴史事実の追究という立場からのみで行なうべきだと私は考えます。 少なくとも、すべての国民に課せられた問題としないようにお願いしたいものです。

【拙稿参照】

戦後補償運動には右派も参加していた http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/02/07/9461960

中韓は子供と思って我慢-藤井裕久    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/12/27/7157809

毎日新聞 「“強い国”こそが寛容に」   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/06/15/7344974

「歴史」を学ぶことの疑問   http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daijuurokudai

糾弾する朝鮮人と反論できない日本人 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daijuuhachidai

「強制連行」考      http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuuhachidai

「朝鮮人は朝鮮に帰れ」考   http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daijuunanadai

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