李朝の「両班」理念が復活した韓国(2)2022/05/24

http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/05/17/9491298 の続きです。

―親日清算と関連して、文在寅政府は「独立運動精神」学習を、そして北朝鮮政権は「満州抗日パルチザン運動」を強調しているが、互いに似ているように見える。

その通りです。 韓国の運動圏政府と北朝鮮の金正恩政権は、統治の正当性を「抗日闘争」と「精神」から探しているという点で、驚くほどに似ています。 「ろうそくデモは独立運動精神の継承」と文大統領は言いました。 この宣言は、世襲の正当化のために満州抗日パルチザン運動を神聖視する北朝鮮政権と瓜二つです。 金日成の家系を頂点にしたパルチザンの子孫たちは、北朝鮮社会の「最高特権層」であり、金正恩の一番熱烈な支持集団です。

親日清算を巡り、韓国社会が今なめている葛藤の中心には「誰が道徳的に優位か」という問いがあります。 この問いは「現代韓国社会の両班は誰なのか」の問題でもあります。今、南・北の政権は共通して「武装独立運動は絶対善であり、親日は絶対悪と確信しています。

 インタビュー記事が「『親日清算』を叫ぶ南政府と『抗日パルチザン』を称賛する北政権は驚くほどに瓜二つ」という副題を付けた所以は、この部分ですね。

―このような歴史観は、近代的で妥当なのか?

戦争能力がとんでもなく不足する状況でも、生命を捨てて最後まで「抗日」、すなわち「義」を実践せよと要求して称賛することは、日本の軍国主義の神風特攻隊を称賛することと同じです。 現代の韓国人たちが20世紀初めの抗日武装闘争精神を継承せねばならないと、私は考えません。 進歩勢力は、人民の生命と財産、人権を軽視した李朝後期の斥和(日本を排斥すること)論や衛正斥邪(国家の正学である朱子学を守り、その他全ての学問を排斥する)派の前近代的な歴史観にとらわれています。

―その論理なら、586運動圏は我が社会の新しい「特権層」になる。

そうです。 これは、全ての市民は家門と経歴、評判に関係なく、法の前で平等だとする近代社会の法治主義を正面から無視するものです。 新しい特権層の登場は、近代市民の基本権である個人の平等と自由を破壊し、全体主義化を引き寄せます。 医師・経営者・エンジニアのような専門家たちも、運動圏政府の監督・監視の対象です。彼らを統制しなければ、利己主義と貧富格差で不正義の社会になるという理由からです。

近代市民社会の特徴は、反日民族主義を社会正義だと考える集団とこれに反対する集団が共存するものです。 二つの集団のうち、どちらの集団が道徳的に優越すると推定する方法はありません。互いに違う考えを認めるのが正常な近代社会です。 しかし徳治を崇める道徳社会は、思想の自由と思惟の共存を許容しません。 そんな点で曹国・尹美香事態は、韓国社会が政治と道徳が分離していない両班社会に戻って行くのか、そうでなければ全ての市民が道徳的に平等な多元的市民社会に前進するのかという選択課題を投じてくれました。

両班体制という制度は李朝の滅亡とともに消え去りましたが、社会の「指導層」が国民を「指導」するくらいに道徳的に優越せねばならないという文化的感情は、韓国社会にそのまま生きています。

 かつての韓国の軍事独裁に抵抗し、その後政権を掌握するまでに至った民主化勢力は、「586運動圏」「進歩」などと言われます。 彼らは自分たちが「道徳的に優位に立って他の国民を指導し統制せねばならない」という使命感を持って、韓国社会に臨みます。 ですから彼らが韓国社会の主導権を握ると、「道徳的に下位」にあると見なす保守派に対して厳しい姿勢をとります。

 それは「法の下では全てが平等」という法治主義ではありません。 「586運動圏」「進歩」は、自分たちの考える「道徳」でもって社会を動かそうとする「徳治主義」となり、そして自分たちがその「道徳」を独占する「特権層」となります。 それは正に李朝時代の「両班」と同じなのです。 このキム博士の説明は、私には納得できるものです。

「両班」理念が復活した韓国―『朝鮮日報』(1)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/05/17/9491298

コメント

_ (未記入) ― 2022/05/24 09:25

韓国に限らずに、リベラルな人たちは上から物を言うイメージが強いです。無学な君たちを教化してあげる、的な発想なんでしょうかね。ポリコレの攻撃性の高さに接したとき、言っていることは間違っていないのに、なんでこういう共感性を求めない言動をするのかと思ったものです。
そうしたリベラル思想と、半島で独特の進化を遂げた朱子学からくる徳治主義が結び付いた結果が、ムンジェイン政権下における両班理念ですね。世界でも独特の政治体制である、北朝鮮の金王朝がなにゆえ成立しているのか?ここにヒントがありそうな気がします。

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