李朝の「両班」理念が復活した韓国(3)2022/05/31

https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/05/24/9493453 の続きです。

 次に「両班」と化した現在の「586運動圏」「進歩」は、盧武鉉や文在寅大統領を担いで政権を掌握しました。 キム博士は続けて論じます。

―1人当たりGNP3万ドルの富国である韓国が新両班社会になるなんて、あり得るのか?

文在寅政府が推進した「利益共同体」、「社会的企業作り」、不動産「投機」を懲らしめる「賃貸借3法」などは、個人が利益を追求し富を蓄積する日常的な行為まで抑圧する反資本主義的政策です。 ここでは富の均等な分配を最優先する儒教的経済観が深く反映しています。

―朴正熙大統領はどうなのか?

彼の執権が「革命」か「クーデター」か、朴正熙のリーダーシップは文化的観点から見る時、「革命的」でした。 朴正熙が掲げた「豊かに暮らそう」「働く政府」のようなスローガンは、富の蓄積を罪悪視して商工人を冷遇した李朝両班のリーダーシップとの決別だった。 朴大統領は「株式会社韓国(Korea Inc.)の創業者でありCEO」だった。彼は、無能で怠け者である両班の理念でもって自由な経済活動を妨害してきた儒教文化を退けました。

―「経済民主化論」は、どうか?

儒教的経済観は、民主化運動をした政権の度に増幅してきました。 初代文民政府である金泳三大統領の時から「(富を)持つことが苦痛になるようにしよう」「お金のある者が権力まで持ってはダメだ」と言って、金持ちを叩きました。 文在寅大統領は2020年6・10民主抗争記念の式辞で「平等な経済は私たちが必ず成就せねばならない実質的民主主義」と言いました。 正義と道徳、等分を核心とした李朝後期の両班社会と何が違いますか?

文在寅政府の5年間、ずっと公務員の待遇がよくなり、公務員試験受験生が急増した反面、企業家精神と経営者の士気は大きく衰退しました。 このような現象は、やはり李朝後期の「士農工商」の観念がどの政権の時よりも強く投影され表出した結果です。

―本では、「韓国の民主主義は‶天命″と‶民心″を掲げた李朝後期の性理学者たちの世論政治をそのまま引き継いでいる」と指摘していたが。

そうです。 韓国の民主主義の特徴は、集団としての国民が法の上に存在するという点です。 これは、ほとんどの民主主義が「法」の支配を受けても「国民」の直接的支配は受けないということと大きく違います。 イギリスの言論人であるマイケル・ブリンが指摘したように、韓国社会では「国民たち」が激怒すれば、公正な法的手続きや客観的な証拠、弁護と人権などは重要ではなくなります。 「国民」は「野獣」に変わり、法を実行する人たちは野獣に服従します。

ブリンの表現のように、韓国は「国民を神として仕える社会」です。 これは「諫官(主君の非を諫めること仕事をする職)」と「ソンビ(学識のある士人―両班とほぼ同じ)」たちを通して形成された世論は、王様も服従せねばならない「天命」であり「民心」であるという李朝後期の両班社会の焼き直しです。

 「韓国の民主主義の特徴は、集団としての国民が法の上に存在するという点です」というところは、いわゆる「国民情緒法(法よりも国民世論が優越する)」です。 詳しくは「国民情緒法」で検索してみてください。

―西欧の民主主義国家はどうか?

西欧の市民社会で、世論は政治行為で参考にする要素であるだけで、絶対的な命令や指針ではありません。 アメリカでは、ニクソン大統領が弾劾訴追されて1972年8月に辞任するまでの約2年の間、事実(fact)関係に対する厳正な捜査が進められた。 しかし朴槿恵大統領はろうそくデモが始まって何週間かして国会で弾劾が決定され、また三ヶ月して憲法裁判所が満場一致で弾劾を認めました。 国民の即興的な判断は、無条件に肯定し信頼できるのでしょうか?

 キム博士は、このまま行けばどうなるかを考察します。 なおこのインタビューは保守派が勝利した3月9日大統領選挙より以前のものですから、これを念頭に入れてください。

―韓国が「新両班社会」にずっと突っ走っていくなら、どんな結果が生まれるのか?

法治の崩壊を経て、思想・言論の自由の消滅、権力の中央集権化が深化することになります。 正義と道徳を独占する少数の特権層が全体を統治する北朝鮮・中国・ロシアのような独裁的全体主義が韓国でも広がるでしょう。 そうなれば経済的成功は段々と消えさり、国民はまた貧しくなっていきます。

―そんな流れを止めようとするなら、何が必要なのか?

高度の分業化がなされた産業社会である大韓民国で、農村共同体意識に基づく新両班社会は旧時代の遺物であり、幻想です。 韓国社会が市民社会に発展しようとするなら、世論に振り回されずに、自分なりに考える批判的思考(critical thinking)能力を持った個人が多くなければなりません。 そうでないなら、選挙で一人が一票の投票権を持つ民主主義は何の意味がないのです。

 両班社会はこのまま行けば、「正義と道徳を独占する少数の特権層が全体を統治する北朝鮮・中国・ロシアのような独裁的全体主義が韓国でも広がるでしょう」と展望しています。 こうなると北朝鮮・中国・ロシアは両班社会のなれの果てであり、韓国はそれを追いかけているということになりましょうか。

 ところで今度の尹錫悦政権は、民主化勢力によって両班社会化した韓国をどうしようとするのか。 じっくり観察せねばならないところです。 (終わり)

【拙稿参照】

「両班」理念が復活した韓国―『朝鮮日報』(1)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/05/17/9491298

李朝の「両班」理念が復活した韓国(2)  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/05/24/9493453

朝鮮に封建時代はなかった   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/11/23/7919936

法治国家かどうか疑問の韓国       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/11/19/7496467

法治主義と儒教             http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/11/23/7500552

法に対する思想が根本的に違う日本と韓国 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/09/11/6570566

法より情を優先する韓国社会       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/09/16/6575093

朴槿恵の謝罪―親の罪は子の罪か?    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/09/25/6584335

法を軽視する韓国の民族性        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/09/01/696793

英雄を救うために法を変えよ―韓国    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/03/25/7597162

古田博司 『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/03/21/7250136

古田博司 『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(4) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/03/26/7254093

古田博司 『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(5) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/03/29/7261186

古田博司 『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(8) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/04/09/7270572

古田博司 『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(9) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/04/14/7274402

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