「法」に対する日韓の違い―韓国は民主的か?2022/10/13

 韓国は「法」よりも「情」を重視する、だから韓国は「法治国家」ではなく「情治国家」だ、というような考え方は昔からよく言われています。 確かに韓国のニュースや色んな本を読んでいる時、「法」に対して韓国人は我々日本人と違う感覚を持っているようだと感じることが多いものです。 これについては、拙ブログではこれまで下記の【拙稿参照】のようにたくさん論じましたので、参考していただければ幸い。

 これに関して、浅羽祐樹・木村幹『だまされないための韓国』(講談社 2017年5月)に、次のような対談があり、なるほどと思いましたので紹介します。

ところで気になるのですが、一度合意した条約なり、成立した法律なりをひっくり返す振る舞いについて、韓国側でそれを問題視するような意見は出てこないのでしょうか。

浅羽 ―「合意は拘束する」というのが古代ローマ以来の大原則ですが、韓国では「事情変更原則」が優先することが少なくありません。 「合意を結んだ当時とは、民主化したり政権交代があったり新しい司法判断が出たりと、事情が根本的に変わったので、もう一度ゼロベースでやり直しが可能である」と。

木村 ―基本的に韓国の人たちは法律に対する考え方が日本人とは違いますからね。司法積極主義というのですが、「法律は状況に合わせてどんどん解釈を変えていくべきだ」という考え方です。

木村 ―例えば現在(2017年2月16日)の朴槿恵大統領の弾劾についても、野党「共に民主党」の秋美愛代表は「国民の大多数が望んでいるので、憲法裁判所は早く罷免すべきだ」といった発言を行なっています。 日本人の感覚からすれば、政治家が司法に圧力をかけたように思える発言ですが、韓国ではこの発言に大きな違和感は持たれない。

木村 ―例えば国会による大統領の弾劾訴追が、法的にはそれにふさわしくない部分を含んでいて、これを審判する裁判所にとって認めがたいものがあったとします。 そのような場合でも、「国民が望んでいるのだから、裁判所はそれを認容(罷免)すべきだ」という主張は韓国では普通に通用してします。

しかし、そうした司法積極主義をとると、法律の運用のされ方がその都度ブレてしまうのではありませんか?

木村 ―もちろんそう言って反対する人もいます。 ただ韓国社会においてはこうした司法積極主義がむしろ前提になって議論が進んでいます。 だからこそ類似した問題についても、以前と異なる判断が出てきても許容される。

浅羽 ―大半の人はこれで法的安定性が揺らいでしまうとは捉えません。 「その都度立ち上がる新しい民意に沿った歴史の大きな流れ」だと受け止めます。 民意に沿って、より「正しい」解釈が更新されるわけですから、当事者としては社会がより「正しい」方向に着実に前進しているという実感をともなうものとなっています。

木村 ―そうですね。 むしろポジティブに受け止められていて、今回の弾劾を巡る展開でも「国民の命令」という表現が使われています。 そこには「国民の命令」である以上、国家による解釈も必要に応じて変えて然るべきであるという意味も込められています。 (以上29~31頁)

 うーむ、なるほど。 その時の国民の考え方(民意)こそが最高であり、これに「法」も司法も従わねばならないということですねえ。 三権分立の原則に反するような主張も「民意」であれば通る、あるいは外国との条約や合意も「民意」でひっくり返すことができる、それが韓国だというわけです。

 「国民の命令」、これは日本ではなかなか聞くことのない言葉です。 せいぜい「民意の尊重」くらいでしょう。

 韓国人の「民主」についての考え方に対し、どうも違和感を持つのはこういうことなんだなあと思った次第。 別に考えれば、その場その場の国民の気持ちによって国家(行政も立法も司法も)が左右されるのですから、何とダイナミックなことかと感心します。 これこそ「民主主義」だと言われれば、まあそうかも知れませんが‥‥。

【拙稿参照】

元徴用工判決「日本は法的な問題とみなしてはならない」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/12/06/9007579

法に対する思想が根本的に違う日本と韓国 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/09/11/6570566

法より情を優先する韓国社会       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/09/16/6575093

伊藤亜人さん 「法」より「惻隠の情」―毎日新聞  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/07/25/9133090

韓国の古代的法規範意識         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/10/27/1873691

韓国の法意識              http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/11/10/1900716

韓国の法意識(続)           http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/11/17/2393593

法を軽視する韓国の民族性        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/09/01/6967936

法を守るという価値観          http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/05/11/1501343

法治国家かどうか疑問の韓国       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/11/19/7496467

法治主義と儒教             http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/11/23/7500552

英雄を救うために法を変えよ―韓国    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/03/25/7597162

朴槿恵の謝罪―親の罪は子の罪か?    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/09/25/6584335

韓国の非常識判決―対馬の盗難仏像  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/02/27/6732313

非常識がさらに非常識を呼ぶ―対馬仏像盗難事件 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/03/12/6744868

「賄賂は腐敗ではない」民本主義と法治主義―趙景達 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/02/28/7233914

「賄賂は腐敗ではない」民本主義と法治主義(続)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/03/02/7235833