「いわれなき差別」あれば「いわれある差別」あり2022/11/22

 毎日新聞の10月29日付けに、「変わる地域、関わる「表現」/下 劇場育む東九条の文化つなぐ=蔭山陽太」という記事がありました。 ただし有料記事ですので、関心のある方は図書館にでも行ってください。 https://mainichi.jp/articles/20221029/ddf/012/040/006000c

 東九条は京都市にあって、日本でも有数の朝鮮人集中地区(いわゆる朝鮮部落)です。 この地区が文化の町として大きく変わりつつあるという記事です。 その中に次のような一文がありました。

1910(明治43)年、日本が朝鮮半島を植民地として統治下に置いた「日韓併合」以来、この地域には朝鮮半島から多くの人々が職を得るために移住し、戦後も敗戦からの復興や高度成長期の大規模公共工事などに従事しながら劣悪な居住環境の下、いわれなき差別や偏見を受けながらも助け合って生活を続けていた。

 このなかで「いわれなき差別や偏見」という表現に目が行きました。 「差別・偏見」に修飾する「いわれなき」というのは、一体何だろうか? という疑問ですね。 「差別・偏見」という四文字ではややこしいので、「差別」の二文字で使います。

 「いわれなき差別」があれば、当然「いわれのある差別」もあることになります。 「いわれ」というのは理由(あるいは由緒・由来)という意味ですから、差別には「理由のない差別」と「理由のある差別」の二種類があることになるでしょう。 それでは「いわれ(理由)のない差別」とは何であり、逆に「いわれ(理由)のある差別」とは何か。 ここでは後者の「いわれのある差別」について、部落差別を例にとって考えてみたいと思います。

 「いわれのある差別」を考えるのにちょうどいい例が、最近の『文芸春秋』にありました。 西岡研介さんの「部落解放同盟の研究」と題する論稿です。 全部で6回の連載ですが、そのうちの最初のものがインターネットで公表されています。 https://bungeishunju.com/n/nf91af6b0651d

 西岡さんは、部落差別には次のような「いわれ(理由・由緒・由来)」があるとしています。

近世封建社会における身分制度の残滓であり、江戸幕府、明治政府には民衆の分断統治に用いられてきた「部落差別」。 いまだ社会や人々の意識の奥底に潜み、かつては日常のあらゆる局面で、そして今なお結婚などの際に、その醜悪な姿を現わす。 こうした封建時代から脈々と続く部落差別

 このように「近世封建社会における身分制度の残滓‥‥こうした封建時代から脈々と続く」と、部落差別の「いわれ」を解説しています。 つまり部落差別は「いわれのない差別」ではなく、ちゃんとした「いわれがある差別」というわけです。

 そして西岡さんは、被差別部落を代表すると考えられている部落解放同盟について、次のような認識が広まっていると論じています。

戦後75年の歴史の中で、一部過激化した糾弾闘争によって、「暴力集団」という負のレッテルが貼られた

 ここでは「一部の過激化した糾弾闘争」が理由となって、「暴力集団」という差別的な「レッテルが貼られた」としています。 解放同盟は先に言ったように被差別部落を代表するとされていましたから、「暴力集団」というレッテルは部落差別そのものであり、それには理由があったということになります。 記事ではその具体例の一つとして、「八鹿高校事件」を取り上げています。 つまり西岡さんは、部落差別はその代表団体である解放同盟のために「いわれのある差別」となっていると論じているわけです。

2000年代に入ってから、後述する「同和対策事業」をめぐる不祥事が相次いで発覚。 「同和利権」と大々的に報じられ、「利権集団」というイメージが、今なおつきまとっている

 ここでは「利権集団」という差別的イメージが強く残っている理由として、「『同和対策事業』をめぐる不祥事」が取り上げられています。 不祥事は主に被差別部落を代表する部落解放同盟が犯したものですから、ここでも部落差別は「いわれのある差別」ということになります。

 解放同盟をめぐる不祥事は「飛鳥会事件」「ポルシェ中川事件」「北九州土地転がし事件」「モード・アバンセ事件」等々、その他に部落差別の自作自演事件などもあります。 下記の【拙稿参照】で挙げていますので、ご笑読いただければ幸い。

 さらにヤクザ・暴力団という反社です。

解放同盟も同盟員の思想の左右を問わず、さらにはヤクザからインテリまで様々な人々が集う組織となった

 ここでは西岡さんは、解放同盟にヤクザが加わっていることをはっきりと認めています。かつて解放同盟にヤクザ・暴力団が多数入っていたのは公然たる事実で、解放同盟自身が飛鳥会事件の際にそれを認めており、公表しました。 これについて拙ブログでも取り上げたことがあります。  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/05/04/1482616 

 ヤクザ・暴力団を社会から排除するのは一般常識となって久しいですが、解放同盟はそういった反社の人を組織内に多数抱えていたのでした。 しかし解放同盟からはそういった反社を追放したとかいう情報は聞こえてこないし、反社を真人間にするためのプログラムがあるという話も聞いたことがありません。 解放同盟はヤクザ・暴力団と関係の切れない組織であると考えるのは、やむを得ないでしょう。

 被差別部落を代表する解放同盟がそうであるなら、部落自体もそうだろうという差別的イメージが持たれるのはどうしようもないと思うのですがねえ。 解放同盟はもはや部落を代表してはならないと考えるのですが、どうでしょうか。

 最初東九条の話のつもりが、関係のない部落差別の話になってしまいました。 「いわれのない差別」があれば「いわれのある差別」がある、その「いわれ」とは何かを考えるうちに部落差別には「解放同盟」という「いわれ」があるという話になったという次第です。 

 解放運動がなかったら部落差別はもっと早く解決しただろうに、と思います。 一方、韓国では解放運動がなかったために「白丁差別」は実質的になくなったと言えます。 「白丁」は差別用語として一部で残っているだけでしょう。

 また韓国では「白丁」という名前の焼肉チェーン店が展開しており、日本にまで進出しています。 それが何も問題化されていません。 そこが日本の部落差別との違いですね。 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/08/26/9415503

【拙稿参照】

ラムザイヤー教授の部落論(1)―同和対策事業 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/12/26/9450880

ラムザイヤー教授の部落論(2)―同和事業の裏では http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/12/31/9452108

ラムザイヤーの部落論(3)―解同の不祥事はいっぱい http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/01/05/9453615

ラムザイヤーの部落論(4)―解放運動はお金が儲かる http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/01/10/9454916

ラムザイヤー部落論(5)―反社に行く者,地区から出る者 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/01/15/9456213

ラムザイヤー教授の部落論(6)―エセ同和行為 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/01/20/9457467

ラムザイヤーの部落論(7)―同和事業の終了で正常化へ https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/01/25/9458701

差別の自作自演事件       https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/06/06/9385057

解放運動に入り込むヤクザ     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/05/04/1482616

【韓国における「白丁」】

日本進出の焼き肉店「白丁」    https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/08/26/9415503

韓国ドラマに出てくる「白丁」  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2008/05/31/3552264

韓国映画に出てくる「白丁」   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/13/8070271

韓国の有力紙に出てくる「白丁」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/30/8121172

脱北者団体が使った「白丁」という言葉 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/04/08/9056977

「개백정」とは何か?      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/12/29/9018451

「白丁」について       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/05/03/8841899

韓国の進歩系も使う「白丁」  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/01/17/9202929

「白丁」考         http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainijuunanadai