金正恩2024年1月15日施政演説(2)―韓国は敵 ― 2024/02/03
http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/01/30/9654884 の続きです。
次は韓国に関係する部分となります。 何をすべきかについて具体的な内容が含まれています。
この部分はこれまでの北朝鮮の主張と違っているので、物議を醸しました。 翻訳を掲載するにあたって、これまでと同じように抜粋とか省略とかせず、そして直訳のまま載せました。 ただし私なりの解説と感想を挟み込んでいます。
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代議員同志たち!
今日の最高人民会議では、この80年間の北南関係史に終止符を打ち、朝鮮半島に併存する二つの国家を認めた○○(기초우)で、我が共和国の対南政策を新しく変わりました。 党中央委員会2023年12月全員会議でも厳粛に明らかになったように、我が党と政府と人民は流れて来る歴史の長久な期間、いつも同族、同胞という観点から大きな包容力と変わらぬ忍耐力、誠意ある努力を傾け、大韓民国と祖国統一の大義を虚心坦懐に論じたりしました。 しかし心痛む北南関係史が与える最終結論は、《政権崩壊》と《吸収統一》を夢見て我が共和国との全面対決を国策としていて日々邪悪になっていき、傲慢無礼になる○○(대결광증속-対決狂症の中?)で同族意識が去勢された大韓民国の輩たちと民族中興の道、統一の道をともに歩むことができないのです。
北朝鮮はこれまで韓国を「南朝鮮」と言ってきたのですが、ここでは明確に「大韓民国」と正式名称を使っています。
北朝鮮はこれまで、南北問題は同じ民族内の内政問題であって南朝鮮は国家でないのだからとして「大韓民国」と呼ぶことはありませんでした。 これに対して韓国は、半島には二つの国が実際にあるのだから南北問題は国家間の問題として取り上げねばならないと主張してきました。 しかし昨年に金正恩の妹の金与正が「大韓民国」と呼称したので、北朝鮮は韓国の主張に歩み寄ったのかと一時取り沙汰されました。 今回の演説で金正恩自体が「大韓民国」と呼称したので、北朝鮮が南朝鮮を国家として認めたことは確定ですね。
ところがこれは韓国側の主張に歩み寄ったのではありませんでした。 韓国は「邪悪」であり「傲慢無礼」と非難し、また国家といっても後述するように「敵対国家」なので、そんな韓国とは統一の道を歩めない、ということです。
北南関係がもはや同族関係、同質関係でない敵対的な二つの国家関係、戦争中にある完全な二つの交戦国家関係という現実は、外勢の特等走狗集団である大韓民国が極悪でありながらも自滅的対決妄動をそのままにした北と南の明白な現況であり、世間に向かってためらわずにベールを剥がした朝鮮半島の実像です。 今度我々が朝鮮民主主義人民共和国の国法を論じる最高人民会議で、北南関係と統一政策に対する立場を新たに定め、平和統一のための連帯機構として出してきた我々の関連団体をすべて整理したことは、必ず指摘しておかねばならない必須不可欠の工程だと言うことができます。 我が国家の南側国境線が明白に引かれた不法無法の《北方限界線》をはじめとするどんな境界線も許容することができず、大韓民国が我々の領土、領空、領海を0.001㎜でも侵犯するならば、それは即ち戦争挑発と見なされるのです。
韓国は「外勢の特等走狗集団」「極悪」だと、厳しいですね。 「平和統一のための連帯機構として出してきた我々の関連団体をすべて整理した」というのは、韓国との交渉窓口となってきた北側の機関をなくすということのようです。 具体的には党統一戦線部や祖国平和統一委員会といった組織のようです。
これと関連して、朝鮮民主主義人共和国憲法の一部の内容を改定する必要があると見ます。
すでに私はこの前の全員会議で、大韓民国憲法というものに《大韓民国の領土は朝鮮半島とその付属諸島とする》とはっきりと明記されている事実について想起しました。 今度一部他の国の憲法資料を見てみると、国家主権が行使される領域部分、もう一度言うと自国の領土、領海、領空地域に対する政治的および地理的な定義を憲法に明確に規定しています。
現在我が国の憲法には上記の内容を反映した条項がないが、我が共和国が、大韓民国は和解と統一の相手であり、同族という現実矛盾的な既成概念を完全に消してしまい、徹底した他国として、最も敵対的な国家として規定した以上、独立的な社会主義国家としての朝鮮民主主義人民共和国の主権行使領域を合法的に正確に規定づけるための法律的対策を立てる必要があります。 朝鮮半島で戦争が起きる場合には、大韓民国を完全に占領、平定、修復し、共和国領域に編入させる問題を反映させることも重要だと見ます。
韓国をはじめ各国の憲法には、自国の領土範囲を明記しているのに、我が北朝鮮の憲法にはそれがない、だからそれを定める必要がある、としています。 これは朝鮮民主主義人民共和国の領土が朝鮮半島全体であることが余りに明白であったので、憲法にわざわざ記すこともなかったのでしょう。
その上で、韓国は和解と統一の相手ではなく、「最も敵対的な国家」と規定し、もし戦争が起きたら「大韓民国を完全に占領、平定、修復し、共和国領域に編入させる」と言っています。 北朝鮮は今は半島北半部の領域だが、いずれ南半部にある大韓民国を自国に編入するということですから、もともと半島全体が領土であったのだという建前に復帰したと見ることができます。 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/11/21/9636056
そして我が人民の政治思想生活と精神文化生活領域で《三千里錦繡江山》、《8千万同胞》のように北と南を同族として誤導する潜在的な単語を使用しないということと大韓民国を徹頭徹尾、第一の敵対国として、不変の主敵として確固として見なすように教育教養事業を強化するということに、該当条文に明記することが正しいと考えます。 その他にも憲法にある《北半部》、《自主、平和統一、民族大団結》という表現が、今は削除されねばならないと見ます。 私は、このような問題を反映して共和国憲法が改定されねばならず、次の最高人民会議で審議されねばならないと考えます。
韓国とは同族でなく「第一の敵対国として不変の主敵」見なさねばならないとしています。 そのため北朝鮮憲法にある「北半部」「自主、平和統一、民族大団結」という言葉を削除するそうです。 この憲法の条項については下記をご参照ください。 (続く)
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【参考】
朝鮮民主主義人民共和国憲法
第九条 朝鮮民主主義人民共和国は、北半部において、人民政権を強化し、思想、技術、文化の三大革命を力強く繰り広げ、社会主義の完全な勝利を成し遂げ、自主、平和統一、民族大団結の原則から祖国統一を実現するために闘争する。
金正恩2024年1月15日施政演説(3)―韓国は敵 ― 2024/02/07
http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/03/9656008 の続きです。
前回では、金正恩は韓国を「大韓民国」と正式名称を使って「国家」として認めるような言い方をしながら、その韓国を「特定走狗集団」「極悪」と罵倒し、国家は国家でも「最も敵対的な国家」「不変の主敵」だとして、戦争が起きればこの韓国を占領・平定すると宣言したのでした。
そして韓国をもはや同一民族と扱ってはならないので、「8千万同胞」などのような言葉を使ってはならない、憲法から「自主、平和統一、民族大団結」のような文言を削除せよ、とまで指示したのです。 韓国は統一の相手ではなく、わが北朝鮮に吸収・編入すべき国家だということですね。
今回はこの続きで、さらにビックリするような指示を出します。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
憲法改定とともに、《同族、同族関係としての北南朝鮮》、《わが民族同士》、《平和統一》などの象徴として映し出される過去の時代の残余物を処理してしまうための実務的対策を適時的に立てねばなりません。
当面して、北南交流協力の象徴として存在していた京義線の我が側の区間を回復できない水準に物理的に完全に断つことをはじめとして、境界地域のすべての北南連係条件を徹底して分離させるための段階別措置を厳格に実施せねばならないでしょう。
そして首都平壌の南側の関門に見苦しく立っている《祖国統一三大憲章記念塔》を撤去してしまうなど、〇〇(이여)の対策も実行することによって、我が共和国の民族歴史から《統一》《和解》《同族》という概念自体を完全に除去してしまわねばなりません。
「祖国統一三大憲章記念塔」の「統一三大憲章」というのは、祖国統一三大原則・全民族大団結10大綱領・高麗民主連邦共和国創立方案のことで、これは金日成の提唱に由来があります。 息子の金正日が父のこの遺訓を「三大憲章」と定め、2001年に記念塔を立てました。 それを三代目の金正恩が撤去すると言ったのですから驚きです。 実際に記念塔は撤去されたようです。 朝鮮総連は活動理念にこの三大憲章を掲げているはずですが、どうするのでしょうかねえ。
さらに民族の歴史の軸とも言うべき 「《統一》《和解》《同族》という概念」を完全に除去すると言うのですから、祖父と父の遺訓を三代目の孫が完全否定した、ということになります。 今回の演説の中で、私が最も驚いた部分です。
韓国の親北組織である祖国統一汎民族連合(汎民連)はこの金正恩演説を受けて、早々と解散すると決めたようです。
日本の朝鮮総連や朝鮮学校では何かにつけて「民族の統一」を口酸っぱくして叫んできましたが、どうするのでしょうか。 また在日韓国民主統一連合(韓統連)のようなところも、どうするんでしょうかねえ。
この機会を借りて、私は我が共和国がどんな情勢変化も揺らぐことなく自分の命のように逃さないで、強力につかみ取る自衛的国防力強化の革命的性格について、再び明確に明らかにしようと思います。 我々が大きくする最強の絶対的力は、一方的な《武力統一》のための先制攻撃手段ではなく徹底して我々自ら守るために必ず大きくせねばならない自衛権に属する正当防衛力というものをまた確言します。
力の論理が支配する今日の世界で、そして数十年余りをわたって戦争の危険が常に漂う○○(열점―熱点?)地域の我が国家において、強力な軍事力保有は国と民族の運命を守るために必ず選択しなければならない必然的な闘争工程であり宿命的に受け入れねばならない歴史的課題です。 敵たちのしぶとい圧迫と制裁が同伴する最悪の国難が持続する中でも、我々が一寸の動揺もなく、最強の自衛的国防力と核戦争抑止力を固めてきた結果、長い歳月の間、この土地でどんな侵略勢力も敢えて最悪の戦争勃発までは考えも及ばなかったのです。
軍隊を強化してきたからこそ、米国などの侵略勢力は戦争を仕掛けてこなかったという分析のようです。
明白に言いますが、我々は敵たちが触ってこない以上、決して一方的に戦争を決行しないでしょう。 これを我々の弱さと誤判しては絶対にいけません。 そうだとして、我々の自衛的な国家防衛力がひたすら自分を防御し、戦争を防ぐためにだけ局限されていましょうか? 絶対にそうではありません。
すでに私は我が核兵器の戦争抑制という本領以外に、第二の使命について明白に言及したところであります。 大韓民国という最大の敵国が我々の最も近い隣に併存している特殊な環境と米国の奴らの主導下に軍事的緊張激化へ地域情勢の不安定性が増大している現実を冷徹に考察してみれば、物理的衝突による拡大へ戦争が勃発する危険は顕著に高くなり、危険段階に至りました。
我々は戦争を望みませんが、決して避ける考えもまたありません。 戦争という選択をするという何の理由もなく、だから一方的に決行する意図もありませんが、一旦戦争が我々の目の前の現実として迫るなら、絶対に避けることに努力することはなく、我が主権の死守と人民の安全、生存権を守り、我々は徹底的に準備した行動に完璧で迅速に臨むのです。
戦争は大韓民国という実体を無残に壊滅させ、終わらせるようにします。 そして米国には想像できない災難と敗北を抱かせます。 我々の軍事的能力はすでにそのような準備態勢にあって、はやい速度で更新されています。 もし敵たちが戦争の火花でも飛ばすなら、共和国は核兵器も含める、我が手中のすべての軍事力を総動員し、我々の怨讐を断固として懲罰します。
戦争を仕掛けられたら「大韓民国という実体を無残に壊滅させ」「米国には想像できない災難と敗北を抱かせる」そうです。 すごい決意表明ですね。
北朝鮮が韓国に対し、戦争するぞと脅迫するのは昔からあったことです。 金正恩政権になってからは、10年前にやっていましたねえ。 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/03/30/6762019 ですから、またいつものことを言っているだけと思えばいいのでしょうが、今度はハッタリではないぞと言わんばかりに本当に戦争挑発するかも知れません。 (続く) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
金正恩2024年1月15日施政演説(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/01/30/9654884
金正恩2024年1月15日施政演説(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/03/9656008
金正恩の2024年1月15日施政演説(4) ― 2024/02/11
http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/07/9657120 の続きです。
施政演説の最後になりますが、その内容は理念・イデオロギーというもので、かなり抽象的です。 それまでは“記念塔を除去せよ”とか“憲法から「統一」などの文言を消せ”とかの具体的な指示があったのですが、今度の段落では具体的に何をどうしようと言っているのか、よく分かりません。 おそらくは自分の言葉に自分で酔っているだけのように思われます。 北朝鮮の国民はひたすらこんな文章を学習させられているのですねえ。 しかし北朝鮮が一体どんな国なのか、たとえ嫌であっても読んで理解する必要があります。 我慢して訳しましたので、皆さまも我慢して読んでくださるようお願いします。
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代議員同志たち!
反帝自主は正義で真理であり、尊厳と主権、平和と安全は、この道にだけしっかりと守護することができます。 正義と平和を守り、進歩と発展を志向し、親善と団結を図ることは、我が党と国家の対外政策的な立場です。 朝鮮民主主義人民共和国は、反帝自主を絶対不変であり、一貫した第一の国策として捉え、不法無法の二重基準で世界の平和と安定を無残に蹂躙し侵奪している米国の極悪な自主権侵害行為を絶対に受け入れないことであり、主権尊重と内政不干渉、平等と互恵に基づく国際的正義を実現し、新しい国際秩序を樹立するために、積極的に闘争に乗り出します。
対外事業部門では、激変する国際政治○○(지형-地形?)と安保環境に主導的に対処するための事業を策略的、積極的に展開し、我が革命に有利な条件と環境を準備し、国権守護、国益死守の原則で一寸の脱線や譲歩も許容してはなりません。 社会主義国との関係発展を優先課題と掲げ、双務的、○○(다무적-多務的?)協力をさらに一層強化していき、国際的規模での反帝共同行動、共同闘争を果敢に展開し、自主と正義を志向するすべての国、民族と思想と制度の違いを超越して団結し、協力しながら国の大概関係領域をより拡大するための事業で、新しい進展を成し遂げねばならないでしょう。 以上の課業が、共和国政府が当面捉えて必ず貫徹せねばならない重要政策です。
国家の尊厳と人民の福利のために、社会主義建設の勝利的前進のために決行せねばならない聖なる事業がどんな実を結ぶのかということは、人民政権機関の役割に大きく依っています。 我々の人民政権は社会主義建設の強力な政治的武器であり、党の路線と政策の執行者です。 すべての人民政権機関は朝鮮労働党の思想と領導に無条件忠実となる鋼鉄のような事業体系と秩序を打ち立て、受動的で観照的な姿勢を完全に消去して、自分の地域、自分の単位に提示された党の政策を○○(주인답게-主人らしく?)用意周到に貫徹せねばなりません。
人民のために存在し、人民の利益のために服務する本来の使命に合わせて党と国家の人民的施策が我が子供たちと公民たちに正確に達するように無限の責任性を発揮して、人民生活問題を解決するための事業が、誰かによく見えるためというのではなく、人々に実際に利益を与える事業になるようにせねばなりません。 地方経済を押し上げる事業をはじめとして、国の経済問題を解決するのに切実な仕事を自ら担って最後まで実現させ、国家発展に真に寄与せねばなりません。
人民政権機関は社会主義制度を擁護固守し、強固発展させるのに相当の役割をせねばなりません。 各単位と住民たちの活動を組織し指揮する行程で、一心団結を強化し、人民の愛国心を奮発昇華させるのに常に関心を持たねばならず、我が社会の社会主義性格を厳格に固守し、原則的な統制と管理でもって国家の円滑な機能を徹底して担保せねばなりません。 社会主義建設の更に一層の前進発展と人民福利増進のための新年度進軍で、代議員同志が持っている使命と責任は依然として重大です。
最高人民会議の代議員をはじめとして各級人民会議の代議員は、人民の支持のなかで選出され、国政に直接参加しながら、人民の意思と要求を政府の施策に反映し、その正確な執行主導し、現れる偏向を適時に対策するよう建議する政治活動家です。 代議員同志たちが人民の代表者として自分の位置と権能を正しく自覚し、責務を果たしてこそ党と政府と人民が一つの有機体に繋がり、国家社会生活全般が活気を帯びるようになり、人民のための路線と政策が徹底して貫徹することができます。 代議員はわずかでも自分だけのための保身や安逸、緩みに陥る権利がなく、積極的でも中身のある行動実践で国政執行を担保せねばなりません。
代議員同志たち!
また強調しますが、今日我が国家が、世界が無視できない名声と権威を持ち、確実な担保のもとに全面的復興の明るい前途を見通すようになったことは、難しい歳月の中でもひたすら党と共和国政権だけを固く信じて、社会主義偉業の勝利のために全てのものを捧げて闘ってきた偉大な人民の高貴な血と汗、尊い献身の代価です。 我が党と共和国政府の政策を絶対的に支持し、誠意を尽くしてくれる人民の期待に比べれば、今まで成し遂げた成果は余りにも少なく、我々に厳しい苦境を耐え忍び、捧げてきてくれた人民の献身と努力を無駄にする権利がありません。
我々は国力が強くなり自信を深めるほどに、我が人民が歩んできた試練に満ちた旅程を一時でも忘れないで奮発し、また奮発してこそ近い将来に人民と約束した豊かで文明の時代を必ず切り開かねばなりません。 まだ多くの難関が存在し、経験せねばならない試練が目の前にありますが、我々の理想と偉業は真理であり科学であり、勝利をもたらさない背信と気勢も天を衝きます。
みんなが愛国で固く団結し、尊厳高い我が国家が無窮の繁栄のために、偉大な我が人民の幸福と栄光のために、我々式社会主義の全面的発展のために闘わねばなりません。
偉大な我が国家、朝鮮民主主義人民共和国、万歳! (終わり)
金正恩2024年1月15日施政演説(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/01/30/9654884
金正恩2024年1月15日施政演説(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/03/9656008
金正恩2024年1月15日施政演説(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/07/9657120
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【北朝鮮に関する拙稿―2019年以前】
北朝鮮の「갓끈 전술(帽子の紐 戦術)」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/01/08/9022748
「朝鮮半島の非核化」は「北朝鮮の非核化」とは違うのでは? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/03/08/8799658
「島国夷」とは? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/09/16/8677666
北朝鮮の核開発の目的 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/09/07/8671910
自主的、民主的、平和的統一 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/04/22/6421457
南朝鮮解放路線はまだ第一段階 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/03/30/6762019
北朝鮮を甘く見るな!(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/07/23/7395972
北朝鮮を甘く見るな!(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/07/28/7400055
北朝鮮を甘く見るな!(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/08/02/7404064
北朝鮮が崩壊しないわけ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/08/04/1701479
北朝鮮の百トン貨車 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/08/11/1716894
『写真と絵で見る北朝鮮現代史』 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/02/06/5665262
韓国と北朝鮮の歴史観が一致する!! http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/02/10/5675477
白い米と肉のスープ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/02/14/5680393
韓国の北朝鮮研究 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/02/22/5698027
1970年代の北朝鮮=総連の手口 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/11/12/6199653
先軍政治は改革開放を否定するもの http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/12/23/6256776
金正日急死への疑問 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/01/15/6293047
和田春樹『北朝鮮現代史』 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/04/29/6428366
北朝鮮は社会主義の盟主を観念的に目指す http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/02/16/6722829
北朝鮮の宋日昊が日本を脅迫 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/10/10/7455119
北朝鮮を後押しする中国 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/02/08/8011036
北朝鮮には税金がない、その代わり‥‥ ― 2024/02/18
岩波書店『世界』2024年3月号に、蓮池薫さんの「『拉致問題』風化に抗して―日本人被害者への思想教育(その1)」という投稿があり、読んでみて次のようなくだりがありました。
指導員が「わが国は世界で初めて税金のない国になった。 これでわが人民は、歴史上初めて搾取から完全に解放された人民になった」と誇らしげに言うので、私が日本のシステムと比較して「税金がないのなら国家予算は一体何で賄われているのか」と聞いたことがあった。 これに対しての指導員の回答は「勤労者が国への感謝の気持ちから、自発的に時間外労働を行ない、そこから生まれた余剰利益が国家予算に回される」だった。 とうてい納得がいくものではなかった。 (207頁上段)
そういえば1970年代前半に朝鮮総連の方から、「わが共和国(北朝鮮のこと)に税金はありません」と教わったことを思い出しました。 その後、小田実が北朝鮮の訪問記みたいなものをどこかに書いていて、「北朝鮮ではあの悪魔のごとき税金などというものを廃止した」とありました。 私は、“へー!社会主義国になれば税金はなくなるんだ”と感心したものでした。
そのころの大学ではマルクス主義の講義があり、教官が「国家が国民を搾取し‥‥」と言ったので、ある学生が「税金は搾取なんですか?」と質問しました。 そうしたら「そうです、税金は国民を搾取するものです」と答えて、その場のみんなから「えー!?」と驚きの声が上がったという話がありました。 この話はその体験者から私が直接聞いたので、確かな話です。
その頃の私は社会主義に対する幻想があったので、社会主義国では税金がないと信じ、確定申告で税金に苦労している人を見ると、社会主義になればそんな苦労をしなくて済むのに、なんて考えたものでした。 しかし、周囲の人に“北朝鮮には税金がない”と言うと、“北朝鮮はどうやって国家を運営しているのか、役人に給料を払わないのか、同じ社会主義のソ連では税金があったぞ”などと問われて、答えられなかったものでした。
ですから、どういう仕組みなのか分からないが、ともかく社会主義の先進国である北朝鮮では税金はなくなった、他の社会主義国はこれから社会主義をさらに発展させて税金をなくしていくのだと無理矢理信じたのでした。
1989年に東欧の社会主義が崩壊し、続いてソ連も崩壊して、ようやく社会主義幻想から目が覚めました。 そして北朝鮮の実情を知りました。 北朝鮮には「税金」という名目で徴集するのではなく、人民には「募金(ただし強制)」「戦争準備金」とか、国営企業には「企業利益金」などとかの名目で強制徴収しているし、社会安全部や労働党幹部などでは賄賂を当然のごとく徴集して、それを給与の代わりとしていたのでした。 それ以外に人民・学生らには「田植え戦闘」とかの勤労奉仕の強制も多数あるのでした。
いつのことだったか、私は北朝鮮について「北朝鮮には税金がないんですよ」と話すと、相手は驚いて「ほー!羨ましい!」と反応しました。 そこで北朝鮮の内実を知っていた私は、次に「代わりに租庸調がありますよ」と言いました。
「歴史で習ったでしょう。 古代はお金というものがないので『税金』というものがありません。 その時代の税は“租庸調”というものでした。 これと同じです。 北朝鮮では農民では田畑で作物を収穫すれば全て国に納め、都市では農村に行けと言われたらそこに行って田植えや稲刈りをやり、そして建設現場に行けと言われたらそこに行って土木建築作業を無償労働奉仕でやります。 対価は何もありません。 交通費も作業服も食費も、費用はすべて自分持ちです。 労働災害があっても治療も補償もなくて 死んだら死に損です。 つまり古代の租庸調が今の北朝鮮にあるのですよ」と言いました。 そうしたら「うーん、なるほど!」と納得してもらえました。
一度これを経験してから、「北朝鮮には税金はない、代わりに租庸調がある」と言うようにしています。 これが分かりやすいですねえ。
25年ほど前に、“北朝鮮は古代国家である”と論じたことがあります。 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihachidai http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuugodai 北朝鮮の知識のない人に北朝鮮という国を説明しようとすれば、これが一番理解されやすいのではないか、と思います。
脱北して戻ってきた在日 ― 2024/02/25
北朝鮮から脱北し今日本に居住しておられる人は約200人ほどだといいます。 1950年末~1980年代に北に帰国した在日、あるいはその子や孫がほとんどだそうです。 彼らは自分が元在日の脱北者であり北朝鮮の悲惨な状況を訴えて自分たちを騙した朝鮮総連を糾弾するものだと思っていたのですが、実際にそんなことをする人の数は非常に少ないです。
何故なのかちょっと気になっていたのですが、最近の在日総合誌『抗路11』(2023年12月)に掲載された石丸次郎さんの「コロナで不可視の北朝鮮で起こっていたこと―金正恩政権の政策転換による災い」という論考のなかに、次のように書かれていて“ああ、なるほど、そういう事情だったのか”と納得しました。
現在、大阪と首都圏に約200人の脱北者が暮らしている。 59年から84年まで続いた帰国事業では、在日朝鮮人とその日本人家族合わせて9万3000人あまりが北朝鮮に渡ったが、この帰国者と北朝鮮生まれの二世・三世たちが日本に戻ってきているのだ。 彼らは在日親族のふりをして、息子・娘。親兄弟と手紙のやり取りをし、現金や荷物を送ってきた。 日本からは保険付き郵便で現金を一回10万円まで安全に送金できる。 経済制裁のため、ぜいたく品がないか税関で細かくチェックされるが、荷物も送ることができる。 (146頁)
日本に戻ってきた在日の脱北者は、自分が日本に昔から住んでいる在日親族のように騙って、北朝鮮に残っている家族らにお金や荷物を送っているのですねえ。 北朝鮮での苦しい生活を逃れて脱北しようやく元の日本に戻ってきたのですが、北朝鮮では極貧の生活を送る家族らがまだ残っています。 その家族らにお金や荷物を送る時、自分が脱北した人間だと明かせばその家族はとんでもない処罰を受けるでしょう。 だから昔から日本に在住してきた在日親族から送っているという形にしているのですねえ。
脱北者について関心はありますが、こういう情報は知らなかったので、大いに参考になったというわけです。 朝鮮総連の家にもこのような身内の脱北者を匿っているのだろうなあ、そして周囲に何も言わずに黙っているのだろうなあ、と思いました。
なお北朝鮮ではコロナのために2020年3月から国際郵便の取扱いを停止し、今でも荷物も手紙も送れない状態が続いているそうです。 脱北者の苦悩はさらに大きいでしょうねえ。
脱北して日本に戻ってきた在日が北の実情を訴え、自分たちを騙した総連を告発する活動は上記のように小さいようです。 しかし勇気を出して活動をしている方もおられるので応援したいものです。
やはり上野千鶴子さんは闘う活動家 ― 2024/02/29
文春オンラインに、フェミニズムの上野千鶴子さんの記事が出ました。 見出しは「『言葉を失いました』10代女性を相手に講義をしたところ…東京大学名誉教授・上野千鶴子がかけられた“衝撃の言葉”」です。 https://bunshun.jp/articles/-/69164 https://bunshun.jp/articles/-/69164?page=2
このなかで彼女は次のように語っておられます。
さらに、衝撃的な体験を語ってくれた。
「このあいだ、10代の女の子たちを相手に講義をする機会があって、いつものように日本女性を取り巻くデータを淡々と見せて話したら、そのうちの1人から『上野さんの講義を聞いて、私たちが出ていく世の中が、まっくらなんだってよくわかりました』と言われて。言葉を失いました」
苛立ちや怒りも隠さない。
「当然、書名(上野著『こんな世の中に誰がした?』)そのままの言葉で詰め寄りたい気持ちはありますよ。社会や会社の上のほうにいる、既得権益にまみれたおじさんたちに」
ただ、もはや彼らにばかり問題を押し付ければ済む段階ではないともいう。
「今の社会をつくってきた大人の“あなた”の責任を果たしてください、と言いたいんです。傍観してきたあなたにも責任があります。だって、10代の女子に、自分が出ていく社会はまっくらだ、なんて言わせていいと思いますか? 彼らの未来が明るくなるように、あなたが果たすべき責任は何か。考えて行動してほしいですね」
上野さんの本はかつてちょっと読んだことがあって、その時は活動家だという印象を持ちました。 そしてこの一文を読んで、やはり彼女は差別と闘う活動家だと改めて感じました。
上野さんは社会における女性差別の現状を講義したところ、10代の女性から「私たちが出ていく世の中が真っ暗なんだってよく分かりました」と答えられて、「言葉を失う」ほどの衝撃を受けたそうです。 そして上野さんは、10代の女の子がこんなことを言うのは「既得権益にまみれたおじさんたち」 「今の社会をつくってきた大人のあなた(すべての男ども)」 「傍観してきたあなた」の責任だと言って、世の男性たち、特に政治経済を牛耳るエリートたちを追及しているようです。
自分の講義を聞いた人が自分の意に反する反応をしたら、普通は“講義の内容に何か誤解を招くようなことあったのだろうか”とか、“どのような発言をすればこちらの意を理解してもらえるのだろうか”とかいうような自省から始めるものだと思うのですが、上野さんはそうではありません。 社会は女性差別に満ちていると講義で訴えたのに、肝心の若い女性から“私たちはそんな恐ろしい社会に出ないといけないのか”と反応したことに驚き、女性にそんなことを言わせるような差別社会が一番悪いのだ、という風に話を展開するのでした。
これは民族差別や部落差別と闘う活動家の言い方によく似ていると感じました。 活動家は、日本が差別社会だから差別問題が起きると言います。 そして差別と闘う活動家は自分たちに正当性があることを主張するために、社会の差別がどれほど厳しいかを主張します。 差別が厳しく過酷であればあるほど、それと闘う自分たちに存在意義があると考えるのですから、日本は人権侵害と非人間性に満ちあふれる過酷な差別社会だ、そんな社会を動かしている行政や会社が悪い、というような言い方になっていきます。 社会のことをまだ何も知らない若者がこれを聞くと、“世の中はなんて怖いんだ、真っ暗なんだ”という反応になります。
在日問題においても、活動家たちは日本の民族差別がどれほど厳しくて過酷なのかを主張します。 関東大震災などを引き合いに出して、“私たち在日はいつ殺されるか分からない恐怖の中で生きている”とか言う活動家がいましたねえ。 そんなことを聞くと私なんかは、“そんな恐ろしい場所になぜ住んでいるのか、自分は覚悟して住むことができても家族をどうするのか”と思ってしまいます。
昔のことですが、ある活動家の家でこれと同じような会話を交わしていたのを思い出します。 それは地域社会で民族差別と闘う運動をしている活動家と、他地域から来た一般女性とが結婚した家庭でした。 妻はその地域に厳しい民族差別があるという夫からの話に驚き、“そんな場所になぜ家族を住まわせるのか”と疑問を抱きました、しかし活動家の夫は妻に差別問題を理解させようと更に闘う運動にのめり込んでいったのです、それでも妻はますます疑問が大きくなっていったという話です。 これは私が当事者の方から直接聞いたもので、以前に拙ブログで書いたことがありますのでご笑読いただければ幸い。 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/06/01/9252979
上野千鶴子さんも、おそらくは日本社会が厳しい女性差別であることを強調して、だからこそ皆さんはこれに負けずに闘いましょうと訴えたものと思われます。 しかし一般人は平穏に暮らしたいと考える人が多数ですから、社会では女性差別が厳しいなんて言われると、自分もそんな厳しい差別を受けるのかと思って社会に出ることを躊躇したくなるものです。 上野さんの講義を聞いた10代の女性が「世の中が真っ暗だ」と発言したのは、私には理解できます。
差別と闘うことは、一般人が活動家の主張に共感しているうちはその闘いに意味があり、盛り上がります。 しかし個別の差別問題が解決して差別解消が前進しても、活動家は自分たちの存在を誇示するために厳しい差別がまだまだ残っているというアピールをして活動を続けようとします。 過酷な差別であればあるほど自分たちの闘いは正しいのだとして、ますます闘志を燃やします。
一方、一般人は日々の生活に満足して幸せで平穏な生活ができればいいものですから、日常に戻って平穏な生活をすることになります。 差別があるから闘おうなんて、普通の一般人は思わないものです。 そこから、活動家と一般人との間に乖離が始まるのです。
上野さんの記事を読んで、彼女はやはり差別と闘う活動家であって、女性差別問題でも活動家と一般人と間に乖離が出てきているのだなあ、というのが私の感想です。
【参考】
梁泰昊さんの思い出― 活動家と一般人との結婚 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/06/01/9252979
差別がまかり通る http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2008/05/03/3444103
「十五円五十銭」の練習―こんな在日がいるとは!? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/02/15/9347314
「同じ」と「違い」―差別と闘う論理の矛盾― http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daisanjuuhachidai
武田砂鉄の被差別正義論―毎日新聞 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/03/24/8810463
社会的低位者の差別発言 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/05/09/9244588