名前を呼び合わない韓国人女性たち2019/05/14

 韓国のベストセラー小説で、日本でも昨年翻訳出版された『82年生まれ、キム・ジヨン』が、ちょっと話題になっていました。 かなり売れているみたいです。 私も原本と翻訳本を入手して、比較しながら読んでみました。 翻訳については言いたいことがかなりあるのですが、まあそれは置いておきます。

 翻訳本(筑摩書房)には、最後のところに伊東順子さんの解説があります。 そこでは現在の韓国のジェンダー状況を整理して解説してくれています。 そこに韓国人女性の名前について、韓国社会でのあり方と小説とを比較して、次のように解説しています。

家族の中だけに限らず、ママ友やご近所同士でも、女たちは互いの名字も名前も知らないことが多い。 この小説では、それぞれの女性にきちんとした名前を与えることで、彼女たちの家族から切り離し、独立した一個の人間として、リスペクトする態度を示している。(185頁)

 日本ではちょっと考えられないでしょうが、韓国では女性の名前について「家族、ママ友やご近所同士でも、女たちは互いの名字も名前も知らない」という状況です。 だったらその女性をどうやって呼んでいるかというと、子供の名前を使って呼び合うのです。

 例えばチャンスという子供がいれば、「チャンス オンマ(チャンスの母ちゃん)」という具合に呼びます。 家族内や近所なんかでは母親の実名を呼び合うことは、普通ありません。 だから家族でも「チャンス オンマの名前は何だったっけ?」と聞くようなことが起きるのです。

 韓国の女性社会では互助組織的な「契」という、日本での頼母子講に相当する集まりが盛んで、今も残っているようです。 民俗学や文化人類学の対象にもなるのですが、この「契」の名簿には当事者である女性の名前ではなく、子供や夫の名前が使われる例が多いと報告されています。 つまり普段から顔を互いに見合わせており、しかもかなりのお金を融通し合う「契」ですら、女性たちは名前を知らないということになります。

 韓国社会では女性の名前がこういう状況ですから、この小説で登場人物の女性の名前が記されるのは伊東さんの解説通りにそれだけで意味あることなのです。 これは日本人ではちょっと理解が難しいだろうと思いますが、これを念頭においてこの小説をお読みになることをお勧めします。

 ところで韓国では女性の名前を呼ばない慣習があることは、以前から知られています。 これは古く李朝時代に、女性に名前がなかったことの名残りだと考えられます。 つまり元々女性に名前がなかったものが、近代になって戸籍が整備された際に女性にも名前が付けられるようになりました。 しかし実際の生活ではその名前ではなく子供や親、夫の関係や出身地で呼び合う慣習は根強く残り、名前で呼ぶのをためらう感覚が維持されたまま現在に至っているというのが私の考えです。

 むかし朝鮮人女性に名前がなかったという歴史事実について、これまで下記のように論じました。 ご興味のある方はご笑覧ください。

【拙稿参照】 名前を忌避する韓国の女性  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/03/10/8043916

李朝時代に女性は名前がなかったのか http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/02/29/8033782

李朝時代に女性は名前がなかったのか(2)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/03/23/8055612

李朝時代に女性は名前がなかったのか(3)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/01/8061795

李朝時代に女性は名前がなかったのか(4)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/04/8083000

かつて朝鮮人女性には名前がなかった http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/12/13/9011386

李朝時代の婢には名前がある  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/03/19/8053165

許蘭雪軒・申師任堂の「本名」とは? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/03/31/8060665

カルロス・ゴーンさんの重国籍2019/05/07

 ルノー・日産・三菱の社長兼CEOでしたが、今は被告の身であるカルロス・ゴーンさん。 ブラジルとレバノンとフランスの三ヶ国の重国籍を有しています。 そして今の奥さんキャロルさんはレバノンとアメリカの二重国籍だそうです。 ゴーンさんには前妻のリタさんとの間に四人の子供(3女1男)がいて、今の奥さんには連れ子二人がいるようです。 前妻や子供たちの国籍が気になるのですが、それは分からなかったです。

 国籍が何とまあ複雑なゴーンさん一家です。 国籍を考えるに何か参考になることがあるだろうと思ったのですが、家族の国籍がもっとはっきりしないと参考も何も出来ませんねえ。

 ところでゴーンさんが世界各国で有している資産は、日本円で2000億円だそうです。 ここでムクッと疑問が出てきます。 もしゴーンさんが亡くなったら(こういう事を考えてはいけないのですが)、その資産はどうなるのか?です。

 相続は当人が有する国籍国の民法に従います。 被相続人のゴーンさんは三ヶ国の重国籍者であり、相続人の一人である今の奥さんが二ヶ国の重国籍者、前妻の子供らも重国籍者である可能性が高いです。 としたら、ゴーンさんの相続には少なくとも四ヶ国(ブラジル・レバノン・フランス・アメリカ)以上の国が関係することになります。 また失礼な想像ですが、世界のあちこちの国から自分はゴーンさんの隠し子ですと名乗り上げる人が出てくるんじゃないかと勝手ながら憶測しています。

 話は変わりますが、日本は二重国籍を認めろと主張する人がいます。 相続は先程申しましたように属人主義ですから、国籍国の民法に従います。 従って二重国籍者の相続は二ヶ国の民法が絡むことになります。 相続者の範囲や相続割合、相続税など、各国で違いますから、二重国籍者の相続は非常に複雑です。 弁護士か税理士に頼むのがいいのでしょうが、日本では外国の相続制度について精通している人は少ないですから、大変です。

 二重国籍を主張する人は、こういうデメリットも頭に入れているのだろうかと、いつも疑問に感じます。

 なお日本国籍を有する二重国籍者で日本を常居地としている人は、その相続は原則的に日本の民法に従います。 逆に二重国籍者で外国に住んでいる方は、どの国の民法に従うのか、専門家に聞くしかないでしょう。

【拙稿参照】

大坂なおみの国籍選択 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/02/20/9038370

私の国籍研究史(1)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/07/30/8630904

私の国籍研究史(2)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/08/03/8638755

私の国籍研究史(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/08/07/8641528

私の国籍研究史(4) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/08/11/8644295

私の国籍研究史(5)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/08/15/8646853

私の国籍研究史(6)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/08/19/8650171

私の国籍研究史(7)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/08/23/8654056

私の国籍研究史(8)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/08/27/8658841

国籍を考える―新井将敬 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/07/27/8628332

国籍を考える―アルベルト・フジモリ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/07/25/8626981

国籍を考える―小野田 紀美の場合 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/07/23/8625722

国籍を考える―ケンブリッジ飛鳥の場合  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/07/21/8624643

外国籍が輝いて見えた時代があった  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/07/19/8623371

蓮舫二重国籍問題のまとめ (再掲)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/07/15/8620565

蓮舫二重国籍問題    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/07/14/8620041

蓮舫の二重国籍疑惑   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/09/8176022

蓮舫の過去の「国籍発言」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/16/8190975

蓮舫は国籍選択宣言をしていないのでは? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/10/07/8216765

蓮舫はもともと二重国籍でなかったのでは?http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/10/16/8230218

二重国籍は複雑で難しい         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/10/20/8232627

私が二重国籍に関心を持った訳      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/10/28/8237467

二重国籍には様々な姿がある       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/10/29/8237969

蓮舫二重国籍問題のまとめ        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/11/03/8241041

二重国籍かどうか微妙な場合       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/11/13/8247093

李洛淵首相のツイッター発言―天皇は指導者2019/05/01

 明仁天皇が退位し、新たに徳仁天皇が即位され、元号が「令和」に変わりました。 韓国の李洛淵首相がツイッターで次のように発言したと毎日新聞が報道しました。

日本、5月1日より『令和』時代。韓日関係を重視なさってきた明仁天皇に感謝申し上げる。即位される徳仁天皇は、昨年3月ブラジリアの(世界)水フォーラムでお会いし、かなり深い対話をしてくださった。韓日両国の新しい友好協力関係を構築するよう一緒に努力しましょう。

https://mainichi.jp/articles/20190501/ddm/007/040/046000c

 これを読んで、あれ!? 最後の部分がちょっと違うのでは?と疑問を感じました。

 実際の李首相のツイッターでは次の通りです。

일본, 5월1일부터 '레이와' 시대. 한일관계를 중시하셨던 아키히토 천황님께 감사드립니다. 즉위하실 나루히토 천황님께서는 작년 3월 브라질리아 물포럼에서 뵙고 꽤 깊은 말씀을 나누게 해주셔서 감사드립니다. 한일양국이 새로운 우호협력관계를 구축하도록 지도자들이 함께 노력합시다.

https://twitter.com/nylee21

 直訳すると、次のようになります。

日本、5月1日から「令和」の時代。韓日関係を重視されました明仁天皇様に感謝申し上げます。 即位される徳仁天皇様におかれましては、昨年3月のブラジリア水フォーラムでお会いして、かなり深いお言葉を交わしていただき、感謝申し上げます。 韓日両国が新しい友好協力関係を構築するように、指導者たちが一緒に努力しましょう。

 最後の部分で、毎日新聞は「指導者たちが」を省いているのが分かります。 つまり李首相は天皇を日本の「指導者」と考えてツイッターを書いたのですが、毎日はそれを抜いたために、李首相の天皇観が伝わらないこととなったわけです。

 李首相のブラジリア水フォーラムでの、皇太子(今度の新天皇)との「かなり深いお言葉を交わした」内容というのは、以前に拙ブログで取り上げたことがありますので、ご参考ください。     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/03/20/8807181

 韓国では日本の天皇を「指導者」としてとらえて、日本の政治に影響を与える存在というイメージが強いということです。 だから韓国では日本に対して、平和主義の天皇と軍国主義の安倍首相という対立的な構図を描き、憎き安倍を叩く天皇を期待するような発言が出てきます。 

 これまでの李明博大統領の天皇謝罪要求発言(2012)や文喜相国会議長の天皇戦犯発言などを考えてみても、韓国では日本における天皇の存在がどういうものなのか、理解されていません。 

 韓国人の天皇観について、何も分かっちゃいないと突き放すのではなく、何故どのようにしてそんな天皇観を有するようになったのかを冷静に見る必要があると考えます。

 韓国人の天皇観は日本の革新・左翼諸君の反天皇論の影響を受けていると、私は考えています。

【拙論参照】

韓国首相が皇太子に自国支持を求める http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/03/20/8807181

文喜相議長の天皇戦犯・謝罪要求発言  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/02/14/9035898

李大統領の発言    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/08/18/6546033

『朝鮮日報』李河遠記者の天皇戦犯論   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/08/24/6553068

『朝鮮日報』記事に出てくる若宮啓文のコラムとは http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/11/18/6636750

灘本・師岡論争―部落差別と天皇制  http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daigojuukyuudai

名目的権力と実質的権力  http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiichidainoni

天皇制と首領制の比較  http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuugodai

ジム・ロジャーズ氏の朝鮮統一賞賛2019/04/26

 韓国の進歩系マスコミであるハンギョレ新聞2019年4月23日付けの記事で、世界的に有名な投資家であるジム・ロジャーズ氏が韓国・北朝鮮の統一をヨイショする見解を発表しています。   http://japan.hani.co.kr/arti/politics/33302.html   

韓国に新しい機会が生まれます

彼は、「19世紀は英国の時代、20世紀は米国の時代だったとすれば、21世紀にはアジアが重要になる。韓国にも、もうすぐ38度線がなくなり、8千万人口と北朝鮮の資源が伴うだろう」とし、統一した韓国の未来を楽観視した。

数年前から「非武装地帯近くの土地を買わなければならない。全財産を北朝鮮に投資する」と公言した彼は、投資家の立場から北朝鮮の投資価値を強調した。「北朝鮮では多くの機会が生まれるだろう。米国と日本の投資者はこれから北朝鮮に向かうだろう」とし、「北朝鮮の学生が韓国で勉強できるよう、奨学財団を設立する用意がある」と述べたこともあった。

北朝鮮を数回訪問した彼は、「統一した韓国と北朝鮮は機会の地だ」と述べた。「ビジネスチャンスをつかむためには、可能性のある場所を確保しなければならない。(南北が統一すれば)釜山からロンドンまで車で行けるなど、朝鮮半島のすべてのインフラが変わる。11歳と6歳の娘たちに中国語(北京語)を教えてきたが、これからは韓国語を覚えさせるつもりだ」

彼は「統一が実現し、境界線がなくなれば、韓国の国際的地位も変わるだろう。韓国の歴史や食べ物、建物、美しい風景を、世界の人々が楽しむだろう。日本にいる韓国の若者たちは韓国に戻って機会をつかむべきだ」と助言した。彼はまた、こうした状況にもかかわらず、「(多くの若者が)公務員を目指している韓国の現実には、胸が痛む」と語った。

 これを読んで、30年以上前のテレビ放送を思い出しました。 当時私は競馬に凝っていて、テレビの競馬番組をよく見ていました。 その番組で、競馬専門家と称される人が、今度のレースの推奨馬券はこれだ!と解説していました。 ふうん、そんなものかなあと思っていたら、もう一人の出演者が、あなたがさっき買った馬券と違うじゃないですか、と言ってしまったのです。 一瞬、番組がシラーッとした雰囲気になりました。

 その時に気付いたのですが、競馬専門家が勧める馬券は、実際は違うということでした。 考えてみたら、本当に当たると思う馬券ならば他人に言うことはなく、そっと自分で買うものです。 ところがこれを買いなさいとテレビで勧め宣伝するということは、その馬券のオッズ(的中時の償還倍率)が下がり、他の馬券のオッズが上がることになります。 だから彼が本当に当たると思う馬券は、推奨・宣伝とは別のところにあると思わなければならないのです。

 投資も同じギャンブルです。 有名投資家がこれに投資せねばならないと宣伝すればするほど、返って怪しいと思わなければなりません。 真の投資家は本当の儲け話を宣伝するのではなく、こそっと投資するものでしょう。 宣伝は多くの大衆を惑わせてそちらの方に投資するように誘導し、自分はこっそり別のところに投資して大儲けを企んでいる、と見るべきです。

 ジム・ロジャーズ氏もそういう類の人と見ていいと考えています。 韓国・北朝鮮に肩入れするような宣伝をして、多くの人に投資させようとしているのではないでしょうか。

 それとも老いて耄碌(もうろく)し血迷った末に、金正恩と文在寅さんにまんまと騙されたのかも知れませんねえ。 ここまで書くと、個人の人格攻撃になってしまいますが。

【拙稿参照】

北朝鮮が崩壊しないわけ         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/08/04/1701479

『写真と絵で見る北朝鮮現代史』     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/02/06/5665262

韓国と北朝鮮の歴史観が一致する!!   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/02/10/5675477

白い米と肉のスープ           http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/02/14/5680393

韓国の北朝鮮研究            http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/02/22/5698027

1970年代の北朝鮮=総連の手口     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/11/12/6199653

先軍政治は改革開放を否定するもの    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/12/23/6256776

金正日急死への疑問           http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/01/15/6293047

韓国に親北民主政権=人民革命政権が樹立される可能性 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/02/01/6315655

自主的、民主的、平和的統一       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/04/22/6421457

和田春樹『北朝鮮現代史』        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/04/29/6428366

北朝鮮は社会主義の盟主を観念的に目指す http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/02/16/6722829

南朝鮮解放路線はまだ第一段階      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/03/30/6762019

北朝鮮を甘く見るな!(1)        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/07/23/7395972

北朝鮮を甘く見るな!(2)        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/07/28/7400055

北朝鮮を甘く見るな!(3)        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/08/02/7404064

北朝鮮の宋日昊が日本を脅迫      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/10/10/7455119

北朝鮮を後押しする中国        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/02/08/8011036

北朝鮮の核開発の目的  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/09/07/8671910

北朝鮮の内部情報は?   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/04/28/8834853

北朝鮮の「갓끈 전술(帽子の紐 戦術)」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/01/08/9022748

福田徳三について(2)2019/04/21

 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/04/03/9054853 の続きです。

 最近では古田博司さんが福田徳三について、次のように高く評価しています。

明治時代に朝鮮を調査した経済史学者の福田徳三は、マルクスの影響を受けていなかったので、李朝末期の朝鮮を見て「まるで平安の藤原時代のようだ」と言った。極めて正しい判断だったのだが、戦後のマルクス主義者の朝鮮研究者は、それは差別だ、偏見だと排撃し続けたのだった。     私は若い頃から彼らとは接触せずに朝鮮史研究を始めたのだが、研究すればするほど福田徳三の見解に近づいていく(古田博司『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』WAC 2014年3月 190~191頁)

明治時代の経済学者・福田徳三は李氏朝鮮を目の当たりにして、まるで平安の藤原時代のようだと言った。土地の所有権ナシ、商店ナシ、行商人のみアリ。今の北朝鮮のような世界である。さぞかし驚いたに違いない。 ‥‥戦後のマルクス学者たちは、世界各地はみんな発展していなければならないし、それは一定の段階を踏んで進んでいくのだと信じていたので、福田に朝鮮差別のレッテルを張りつけて退けた。だが今では、福田の方が正しかったことを研究が明らかにしている。

https://www.sankei.com/column/news/150415/clm1504150001-n1.html

 これまでみてきたように、福田徳三は朝鮮史研究でかなり大きな影響を与えて続けてきたことは間違いないところです。 つまり福田が28歳の時に2ヶ月間ほど朝鮮を視察して執筆した一本の論文(「韓国の経済組織と経済単位」 『法律学・経済学 内外論叢』所収)について、宮嶋さんや姜さんのように「朝鮮観の歪み」と見るか、古田さんのように「正しい判断」と見るか。 福田の論文が100年以上経った今なお影響を与えています。

 ところで李朝時代が実際にどういう社会であったか。 古田さんを引用しながら日本と比較して論じたことがあります。 分かりやすく書いたつもりですので、ご笑覧いただければ幸い。

『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(8) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/04/09/7270572

『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(9)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/04/14/7274402

『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(10)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/04/20/7289374

朝鮮に封建時代はなかった     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/11/23/7919936

李朝はインカ帝国なみか?     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/11/28/7926396

【拙稿参照】

福田徳三が朝鮮独立を支持していた?! http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/03/10/9045363

李氏朝鮮時代の社会        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2006/10/14/560250

成均館大の宮嶋教授        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/01/20/6696277

成均館大の宮嶋教授 (続)      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/01/25/6701490

嫌韓を実践するおばあさん2019/04/14

 こんな記事がありました。 一人暮らしのおばあさんがインターネットで嫌韓にハマって実践し、家族が困っているというものです。 要点を抜粋・引用します。 https://news.nifty.com/article/domestic/society/12136-245593/

Aさんの母親は60代半ばで、数年前に退職するまで地元の役所に勤めていた。 当時はごく普通の穏やかな“働く女性”だったという。 10年ほど前に離婚し、自宅で一人暮らしをしている。

「これといった趣味もなく、定年後は家に引きこもりぎみでした。 寂しさをまぎらわすためにネットにハマってしまったのかもしれません」

そこで、ネトウヨに人気のブログ「余命三年時事日記」に出合ってしまったようなのだ。 母親の“変化”にAさんも気づいてはいた。

「たまに実家に帰ると母がテレビを見ながら『この朝鮮人が……』とか嫌韓的なことをブツブツ言っていたんです。 それまで聞いたことのない言葉遣いだったので、気になっていたんですが」

ネトウヨブログに扇動され約1000人の中高年が見ず知らずの弁護士に懲戒請求する事態が起きている‥‥  いわれのない請求をされた弁護士の一部が請求者を損害賠償で訴える動きが出たことで、テレビや新聞などでも大量懲戒請求事件が取り上げられるようになる。

Aさんは、悪い予感がした。「まさか、うちの母も……」。 久しぶりに実家に帰ってみると案の定、テーブルの上には懲戒請求の受領書が山のように積まれていた。 数えると150通近くある。 母親はすでに150人近い弁護士を懲戒請求してしまっていたのだ。

これは典型的な高齢者懲戒請求事例といえる。 一人暮らしで話す相手がいない。 パソコンに向かう時間もたっぷりある。 毎日ネトウヨブログに接することで、マスコミがけっして伝えることのない“真実”が書いてあると思い込むようになる。 同居者がいないため、弁護士会から届く大量の受領書も怪しまれない。 Aさんの母親は「日本のために闘っている」「やらないとやられる」などと口走り、説得にはまったく耳を貸さない。 弁護士に訴えられて裁判に負けると多額の賠償金を支払わなければならなくなると説明しても「この家を売ってでも闘う」と話にならないという。

まさか「親がネトウヨになったら」と心配する時代が来ようとは……。

 日本の嫌韓ブームは、こういった高齢者が支えているようですね。 「毎日ネトウヨブログに接することで、マスコミがけっして伝えることのない“真実”が書いてあると思い込むようになる」というところは、韓国で反日を叫ぶお年寄りと変わりませんねえ。

 嫌韓は個人の考え方ですから、構わないです。 しかしそこまで韓国に関心があるのなら、韓国語をちゃんと勉強して、相手方の主張もきっちり読みましょうね。

【拙稿参照】

韓国語のできない嫌韓派   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/03/28/9052386

韓国語が出来ずに韓国を論じる人たち http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/03/16/9047781

嫌韓派と韓流派         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/01/17/7540292

水野俊平『笑日韓論』 (続)   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/09/20/7439097

漢字を廃止した韓国で「知的荒廃」?-呉善花(12) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/03/09/7240684

在日の「朝鮮籍」選択ー毎日新聞2019/04/13

毎日新聞の2019年4月12日付けに、「国策の『闇』に目向けて、道徳教育③  現場から」と題する記事があって、その中で次のような記述がありました。  https://mainichi.jp/articles/20190412/ddl/k27/100/296000c

丁章(チョンヂャン)さん(50)は長女の教科書「中学社会新しいみんなの公民」(育鵬社)に引用された作家、曽野綾子さんの文章にショックを受けた。「人は一つの国家に帰属しないと、『人間』にもならないし、他国を理解することもできない」とあった。

丁さんは在日3世。祖国統一への思い、南北分断への抗議のため、法的には国籍ではない「朝鮮籍」、つまり無国籍を選んでいる。 東大阪で育ち、公立校で民族教育も受けてきた。 「こんな教科書は『平和・人権・多文化共生』を教えてきた東大阪にふさわしくない」。 採択されないよう運動し、街頭でちらしを配ってきた。

 記者(亀田早苗)はこの丁さんらが進めている運動にかなり肩入れしていますので、この記事は丁さんの考え方や行動を代弁したものと考えられます。 

 国籍というのは個人が国家に所属することの表徴であり、国籍を証明するのはその国家政府だけがなし得る権限です。 ですから日本政府は、外国人の丁さんがどの国の国籍を有しているかの認定をする権限はありません。

 丁さんの「朝鮮籍」というのは日本の外国人登録における国籍欄に出てくる表記であって、国家の所属を意味するものではありません。 つまり日本政府は外国人登録によって日本国籍を有していないという認定が出来るだけで、どの国に所属しているかは本人が本国の法律に従って決めて下さい、ということなのです。

 ところで丁さんは、大韓民国(韓国)あるいは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国籍法に基づいて、両国の国籍を有しているはずです。 ただし丁さんはおそらく韓国に戸籍(家族関係登録)はなく、北朝鮮にも公民登録をしていないと思われます。

 従って丁さんは、韓国でも北朝鮮でも法律上はそこの国籍を有していますが、両政府とも丁さんを自国の国籍者として証明が出来ない状況だと言えます。 その意味では「無国籍」状態なのですが、それは丁さん自身が選んだ道であることを強調しておきたいと思います。

 丁さんの「朝鮮籍」は、日本は勿論のこと、韓国にも北朝鮮にも所属しておらず縁がないことを意味します。 そして自らがそれを望んだのですから、曽野綾子さんの「人は一つの国家に帰属しないと、『人間』にもならないし、他国を理解することもできない」という文章にショックを受けたということでしょう。

 しかし「朝鮮籍」が「祖国統一への思い、南北分断への抗議のため」だという考え方が、私には理解できないところです。 無国籍の選択は今の祖国との縁が切れることを意味するのに、なぜ「祖国統一への思い」につながるのか。

 また「南北分断への抗議」は自分ではなく他者へ為す行為ですが、日本の国家権力が作成する外国人登録の国籍欄に「朝鮮」と表記されることが、他者(祖国政府なのか日本政府なのか、それともそれぞれの社会なのか分かりませんが)への抗議であるとする思想は、あまりにも飛躍していると思います。

【拙稿参照】

中村一成『ルポ思想としての朝鮮籍』(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/06/09/8589790

中村一成『ルポ思想としての朝鮮籍』(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/06/13/8593507

中村一成『ルポ思想としての朝鮮籍』(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/06/16/8598422

中村一成『ルポ思想としての朝鮮籍』(4) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/06/22/8601961

中村一成『ルポ思想としての朝鮮籍』(5) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/06/25/8603941

脱北者団体が使った「白丁」という言葉2019/04/08

去る2月22日に、スペインのマドリードにある北朝鮮大使館を、「自由朝鮮」を名乗る反北団体が襲撃するという事件が発生しました。 この大使館を一昨日の4月6日に、今度は「自由北朝鮮運動連合」を名乗る脱北民団体が訪ねて行って、金正恩を批判するビラを手渡そうとしたそうです。 http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2019/04/07/2019040700861.html

 ↑は、この時に彼らが渡そうとしたビラです。 このビラの見出しは「형님을 살해 한 악마, 인간백정 김정은」です。 訳すと「 兄を殺害した悪魔、人間白丁の金正恩」。

 白丁とは、畜獣の屠殺や柳細工の製造販売などに従事した朝鮮の被差別民です。 日本での「穢多」に相当する言葉です。 この差別語を北朝鮮の反体制活動団体が、ビラに堂々と使っているのです。 

 北朝鮮では体制側の公式文書に使われてきたのですが、今度は反体制側でも同じように使われたのですねえ。 「白丁」は北では罵倒語としてごく普通に使われているのでしょうねえ。  https://blog.goo.ne.jp/dalpaengi/e/004c7e65061117a64eed0d05bf2330de

 一方、韓国では誰かを罵倒する時に使う言葉の一つとして割と出てくるし、また新聞でも記事の中に活字となって時々出てきます。 そして「백정(白丁)」と名前の焼肉チェーン店があります。 有名芸能人の経営で、韓国一の繁華街である明洞にも店を出しているそうです。 https://blog.goo.ne.jp/dalpaengi/e/bce31979581276248c8116b4e9c6d1f3

 北朝鮮も韓国も差別語に対して無頓着なのでしょうか。 この点、日本とは大きな違いを見せています。

【拙稿参照】

「白丁」について       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/05/03/8841899

「개백정」とは何か? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/12/29/9018451

韓国ドラマに出てくる「白丁」  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2008/05/31/3552264

韓国映画に出てくる「白丁」   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/13/8070271

韓国の有力紙に出てくる「白丁」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/30/8121172

「韓国は差別がゆるい」?    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2006/04/28/344906

水平社と衡平社        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/03/19/1326206

「白丁」考          http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainijuunanadai

南労党を隠ぺいする韓国マスコミ2019/04/04

 1948年の韓国済州島4・3事件。 韓国の国防部や警察が71年前の4月3日に起きたこの事件について、「遺憾」「謝罪」を表明したというニュースが出ました。 http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/04/03/2019040380185.html

【ソウル、済州聯合ニュース】韓国国防部は3日、済州島民が軍や武装勢力に虐殺された「四・三事件」について、事件発生から71年にして初めて遺憾の意を表明した。また警察トップもこの日、同事件の犠牲者を悼む追悼式に参加し、事件により罪のない島民が犠牲になったことに対し謝罪した。 

四・三事件は、米軍政の支配下にあった1948年4月3日、朝鮮半島の南側だけでの総選挙実施は南北分断を固定化するとして反対した民衆の一部が武装蜂起したことに対し、軍や警察が鎮圧を名目に多くの島民を虐殺した事件。一連の虐殺の犠牲者は3万人以上だとされる。

公権力によって多くの民間人が犠牲になった代表的な事件について、軍と警察が道義的責任を認めたと受け止められ、今後、被害者の救済や真相究明に及ぼす影響が注目される。 

 このニュースで違和感を大きくするのは、「民衆の一部が武装蜂起した」という部分です。 実は武装蜂起をしたのは、南朝鮮労働党(南労党)という共産主義者組織です。 それを「民衆の一部」と表現しているのです。 つまり南労党を隠ぺいしているのですね。

 またこの事件を「公権力によって多くの民間人が犠牲になった代表的な事件」としていますが、南労党による民間人の犠牲も少なくなかったことが抜け落ちています。 ここでも南労党を隠ぺいしようとする意図が感じられます。

 思い出せば日本でも1970年代の学生運動で、過激派諸君があちこちで暴動を企図・実践した時、機関紙なんかでは「人民が決起した」なんて称していましたねえ。 自分たちが勝手に暴れ回っていて、それを「人民」が行動を起こしたように表現したわけです。 これとよく似た発想ですね。

 4・3事件は軍や警察による白色テロも凄かったですが、南労党による赤色テロも凄かったのです。 なお白色テロは国家権力による暴力であり、赤色テロは反体制組織の暴力ですから、規模が違います。 白色テロの犠牲者数は、赤色テロの犠牲者数を上回ります。 だからと言って、赤色テロを無視するわけにはいかないでしょう。 どちらも凄惨なテロだったのですから。

4・3事件の赤色テロについては、拙論で論じたことがありますので、お読みいただければ幸い。

【拙稿参照】

4・3事件-南労党を隠ぺいする読売解説 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/11/19/9000560

済州島4・3事件の赤色テロ(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/10/8890890

済州島4・3事件の赤色テロ(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/18/8896622

済州島4・3事件の赤色テロ(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/23/8900976

済州島4・3事件の赤色テロ(4)-警官家族へのテロ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/30/8906338

済州島4・3事件の赤色テロ(5)―右翼家族へのテロ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/07/05/8909472

済州島4・3事件の赤色テロ(6)―評価は公平に http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/07/10/8912907

韓国映画『チスル』 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/06/01/7332806

福田徳三について2019/04/03

 福田徳三は日韓併合以前に「朝鮮停滞史観」を提唱し、朝鮮植民地化を正当化・合理化した経済学者として、今では悪名高き研究者です。 ところが韓国の有力紙『朝鮮日報』が「福田徳三が朝鮮独立を支持していた」という記事を出しましたのでビックリし、拙ブログで取り上げました。  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/03/10/9045363

 それでは福田の朝鮮社会停滞論とは、どういうものか。 まずは朝鮮史研究者として著名な宮嶋博史さんは次のように解説します。 

福田徳三は‥‥人類の発展を、自足経済・都府経済・国民経済の三つに類型し‥‥朝鮮の後進性を理由づける。 すなわち朝鮮はいまだ自足経済=封建制以前の段階にとどまっており、鎌倉幕府成立以降、都府経済=封建制の段階に進んだ日本の歴史に照らして見ると、藤原時代に相当する、としたのである。

次いで彼は、朝鮮が封建制にまで達していない証拠として、土地所有における知行制の欠如と、人的関係における臣属関係の欠如の二点を上げる。 すなわち、李朝時代の支配層であった両班は所領を持たず、また自分に忠節を尽くしてくれる臣属というものを持っていないから、武士よりも古代の公卿に近いとするのである。

福田の考えの最大の特徴は、朝鮮社会の停滞性の原因を、封建制の欠如に求めたことにある。 福田は、国民経済=資本主義が順調に発達するための前提条件として、封建制をきわめて重視したのである。 (以上宮嶋博史「日本人の朝鮮研究と“停滞論”」 『季刊 三千里21』1980年2月 50頁)

 このように朝鮮では封建制がなかったために社会が停滞し、自らの力で近代化できなかった、というのが福田の考えです。 それに対し宮嶋さんは次のように、福田は杜撰だったと激しく批判します。

福田の封建制欠如論には、致命的な弱点がいくつかあった。 理論的な弱点もあったが、まず何よりも、僅か数十日間の朝鮮滞在の経験に基づいての主張であっただけに、実証的な杜撰さは蔽うべきもなかった。 (同上 51頁)

 しかし宮嶋さん自身は、朝鮮に封建制がなかったことは認めています。

確かに朝鮮の前近代史に、日本や西ヨーロッパのような意味での封建制が存在しなかったことは事実であり、しかも日本とヨーロッパにおいてのみ資本主義が高度に発達して(‥‥北アメリカやオーストラリアなどは除く)、その他の国々は植民地や従属国の地位を余儀なくされたわけである (同上50~51頁)

 そして封建制の欠如による朝鮮社会の停滞性という福田説に対して、実証研究では崩せないと論じます。

周知の如く、1945年以降の朝鮮史研究は、戦前の日本人研究者がうちたてたドグマ的な朝鮮史像を批判し、新しい朝鮮史像を創造する点で、多くの成果を上げてきた。 しかし福田が主張した、封建制欠如論に基づく「朝鮮社会停滞論」の克服は、なお十分な成果を収めていないように私には思われる。 和田や黒正、四方らによって補強された福田説は、戦前の日本人研究者の朝鮮史像の中ではもっとも体系的であり、個別的な実証研究だけでは、容易に崩れない(同上53頁)

 実証研究で崩せないなら、福田説には妥当性というか正当性があると認めるべきだと思うのですが、宮嶋さんはそれを認めずに、不当であり「克服」するべきだとします。

今日もなお根強く残っている「朝鮮社会停滞論」は、日本が朝鮮を植民地化しようとしていた時期、朝鮮史でいえば李朝末期以降、現在までの朝鮮社会のイメージに、主要な根拠を置いていると言ってもよいであろう。 しかもこの主張には、日本による植民支配の実現という強い味方がついていて、その生命力は不死身のようにすら思われる。(同上49頁)

民衆的視点を貫いた新しい朝鮮史像をつくりあげることこそが、「停滞論」の根本的克服のために不可欠であり‥‥(同上53頁)

 要するに「停滞論」は歴史事実に基づいているか否かが問題なのではなく、植民地化を根拠づけているからダメなのでこれを克服しよう、という主張です。 簡単に言えば、反植民地というイデオロギーを優先する、というものですね。

 一方、姜尚中さんは次のように福田を論じています。

他者認識の歪みが自己認識の歪みに照応しているが‥‥とりわけその最も大きな歪みは、朝鮮認識のなかに焼きつけられている。‥‥ 「停滞史観」の作為性=虚構性を明らかにしてみたい。 (姜尚中「福田徳三の“朝鮮停滞史観”」 『季刊 三千里49』1987年2月 80~81頁)

戦後日本の歴史学や社会諸科学は、基本的にはこれまで述べてきたような福田の所説に同意を与え、日本の優越性を映し出す、朝鮮という自惚れ鏡をせっせと研磨してきたのであり、日本国民の歴史意識とアジア認識を修正不可能なほどの歪みをつくり出したのである。 それは同時に日本近現代史の歪みであり、そのなかで培われた日本人の精神構造のゆがみでもある。 (同上 87頁)

 姜さんも実証よりイデオロギーを更に強く優先させています。 アジアでは日本が先行して近代化に成功したという歴史事実を認めたくないという執念を感じます。 

【拙論参照】

李氏朝鮮時代の社会           http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2006/10/14/560250

成均館大の宮嶋教授           http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/01/20/6696277

成均館大の宮嶋教授 (続)         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/01/25/6701490