尹東柱記事の間違い(毎日新聞)2015/02/15

 この2月16日は韓国の有名な詩人である尹東柱の獄死70周年ということで、同志社大学など彼のゆかりの地で行事が開かれました。 これについての産経新聞の記事に間違いがあることは、すでに拙論で指摘しました。 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/02/09/7568265

 今度は毎日新聞にも同様の間違いがあるのを見つけました。 毎日新聞の実際の紙面で 「朝鮮語の詩を作り逮捕」 「朝鮮語の詩がなぜ禁止されたのか」という間違いが記されていたのです。 なお毎日新聞ネット版では、何故かしらその間違いが消えています。 http://mainichi.jp/select/news/20150215k0000m040026000c.html

 ネット版で消された部分(あるいは変えられた部分)は次の通りです。 記事の見出しがネット版では 「尹東柱:同志社大で70周忌記念行事 朝鮮の詩人」となっていますが、紙面上では

獄死70年 尹東柱しのぶ 戦中朝鮮語の詩を作り逮捕 同志社で行事

 そしてネット版で最後で 「高銀氏が講演し、尹の純粋さをたたえた。【松井豊】」となって終わっていますが、実際の紙面上では次の十数行の文となっています。

高銀氏が講演し、「尹が20代後半で生涯を閉じたことが、彼の詩をさらに美しく純粋なものにしている」と語った。    行事に参加した太田修・同志社大教授(朝鮮近現代史)は「朝鮮語の詩が当時なぜ禁止されたのか。尹を通して過去の歴史を知ることが、日本と朝鮮半島の友好に不可欠だ」としている。【松井豊】

 このように実際の紙面では逮捕の原因が「朝鮮語の詩」であるという間違いが強調されているのですが、ネット版ではそれが消えているということになります。

 なお高銀氏の講演内容に「尹が20代後半で生涯を閉じたことが、彼の詩をさらに美しく純粋なものにしている」とあるのは、なかなか鋭いです。 それは尹東柱の詩そのものが「美しく純粋」と評価されたのではなく、日本帝国主義によって逮捕され獄死したという経歴、そのために戦後の南北対立に巻き込まれなかったことが彼の詩を「美しく純粋にした」ということを言っているからです。 つまり尹東柱は作品の優秀性ではなく、その経歴によって評価されたのです。 

 作者の政治的・社会的経歴によって作品の「美しさと純粋さ」が左右されるというのは、ちょっと馴染めるものではありません。 しかし、韓国では文学作品について、その作品そのものをどう評価するのかではなく、作者の政治的・社会的経歴によって評価しようとする傾向が強いようです。 例えば近代朝鮮文学の祖である李光洙は優れた小説をたくさん書きましたが、日本に協力したことで解放後に親日文学者(民族の裏切り者)として激しい糾弾を受けました。 だから今の韓国では李光洙を読むことに躊躇いを感じる人が多いものです。

 昔、作品を評価するにはその作者がどの階級的立場に立っているかが重要だと怪気炎を上げた人がいましたが、これとよく似ているなあと感じました。 どのような経歴・立場であれ、優れた作品はそのまま素直に読めばいいのに思うのですが‥‥。

 ところで朝鮮近現代史の専門家である太田修教授が、なぜ「朝鮮語の詩が当時なぜ禁止されたのか」と史実に反することを語ったのかが気になるところです。