水野・文『在日朝鮮人』(5)―強制連行と逃走2016/04/29

4、強制連行・強制労働  労働者の逃亡  内地に動員された動員先に行く途中、あるいは就労現場から、逃走・逃亡するケースが相継いだ。集団移入開始から1年間の動員数6万5千名のうち、20%近い1万2千名が逃走していたとされる。 43年(昭和18年)末までの移入者数36万6千名のうち、11万9千名が逃走してしまった。 逃走率は32.5%に上る。 労務動員に応じながら最初から別の仕事に就くつもりで逃走した者もあったが、動員先の劣悪な労働条件に耐えられず逃走を図ったケースが多かったと ‥‥動員先から運よく逃走できた場合には、親戚・友人や集住地区を頼って新たな就労先を探し、人手不足の土建現場や軍需工場に職を得ることもある程度は可能であったが、逃亡者であることがわかると再び炭鉱などに引き戻されることになった。(72~73頁)

 在日韓国・朝鮮人の歴史を読むと、こういう文章が決まったように出てきます。 強制連行・強制労働(=戦時動員)からの逃走は、戦争遂行という至上の国策に反することです。 この逃走の成功率が20~32%ということですから、軍国主義最盛期の時代なのに驚くべき数字です。 この本によると、当時の国民統制はそれほど厳しくなく、かなりいい加減だったということになるでしょう。 泣く子も黙る大日本帝国の軍国主義は、意外とルーズだったと言えるのかも知れません。

 ところで更に疑問に思うのは、この逃走に成功した人たちは無理やり連れて来られたというのですから常識的に考えて元いた所の故郷に帰ろうとするはずなのに、そうではなく日本国内の別の所に働き口を見つけていることです。 としたらこれは単によりよい労働条件を求めてそれまでの職場を無断で辞めたということではないのか? あるいは戦時動員からの逃走という不法を犯した朝鮮人が次の職場では身元確認もせずに雇われたということなのだろうか? という疑問が浮かびます。

 またこの本だけでなく多くの在日朝鮮人の歴史書では、逃走した朝鮮人が「軍需工場」で職を得たと書かれる場合が多いです。 軍需工場は当然のことながら軍の秘密に接することになりますから、そこで働く労働者の身元はかなり厳しく調査されます。 果たして戦時動員から逃走してきた労働者を軍需工場が雇えるのだろうか? 身元を偽った逃亡者を見抜けなかったのか? いくらルーズとはいえ、大日本帝国軍はこんな間抜けなことをしていたのか? という疑問も湧きます。

 この本だけではありませんが、以上のような疑問に答えてくれる在日の歴史の本はなかなか見当たりませんねえ。

水野直樹・文京洙『在日朝鮮人』(1)―渡日した階層 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/06/8066021

水野・文『在日朝鮮人』(2)―渡航証明と強制連行 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/11/8069125

水野・文『在日朝鮮人』(3)―強制連行と強制送還  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/17/8072649

水野・文『在日朝鮮人』(4)―矛盾した施策 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/25/8077594