水野・文『在日朝鮮人』(20)―南朝鮮革命に参加する在日2016/09/08

(1961年5月16日の朴正熙らによる韓国軍事クーデター)によって南北統一への絶好の機会を逃した金日成は、その原因を韓国における前衛党の不在に求め、「南朝鮮革命」をめざす前衛党の建設や「反米救国統一戦線運動」に傾いていく。その間、組織内から民対派を排除して排他的な指導体制を固めつつあった韓徳銖・金炳植も、北朝鮮の「南朝鮮革命路線」に対応する総連組織の改編をすすめた。(154頁)

 北朝鮮は韓国(南朝鮮)の革命をめざし、様々な工作活動を韓国で行なってきた事実を示しています。 具体的にどのような工作活動であったか、この本では在日朝鮮人が関係した次の事件を挙げています。

「母国留学」などを通じて韓国にわたって直に民主化運動に身を投じる在日青年も70年代には少なくなかった。早くは71年、徐兄弟(徐勝・徐俊植)がソウル大学留学中に国家保安法違反で韓国陸軍保安司令部に逮捕されている。取調べ中に拷問をうけた徐勝は自殺を図って顔面に火傷を負い、公判に現れた徐勝の姿に在日社会が受けた衝撃は大きい。徐兄弟はともに非転向をつらぬき、韓国の民主化以後になってようやく釈放された。75年には、13人もの在日青年が逮捕される「学園浸透スパイ団事件」(11・22事件)があり、白玉光・康宗憲・李哲・金哲顕の四人が当初は死刑を宣告されるという事件も起こっている。在日朝鮮人が「スパイ」として逮捕される事件は80年代の新軍部政権時代まで続き、確認されているだけでその数は100人余りに及んでいる。(188~189頁)

維新独裁が在日二世の社会に投じた暗い闇を象徴するのが文世光事件であった。74年8月15日の「光復節」を祝うソウルの会場で、在日二世の文世光が大阪府警から盗んだ拳銃で朴大統領狙撃し、同席した陸英修夫人が銃弾を受けて死亡した。その場で逮捕された文世光はソウルの地裁で死刑判決をうけ、12月20日に死刑が執行される。事件自体はいまなお不可解な部分が多いが、“民族”や“社会”に目覚めて極限を生きた在日二世を象徴するような出来事として在日社会に投じた波紋は大きい。(189頁)

 ここに出てくる在日朝鮮人のうち、徐勝、金哲顕さんは北朝鮮に密出入国したことを自ら認めていますから、確かです。 他にも密出入国をした方がいることでしょう。 北朝鮮に行って何をしたのかというと、当然のことながらスパイ教育でした。 そして韓国に潜入して工作活動、すなわち韓国社会を混乱させて革命状況を作ることを企図しました。 だから彼らは韓国の民主化運動に関わったのです。 韓国の民主化運動は独裁政権に反対するという当然に発生する大きな動きでしたが、そこには北朝鮮の工作活動の部分があったことに注意をしなければなりません。

 文世光事件は、2002年に金正日自らが北朝鮮の犯行であることを認めました。 つまり在日朝鮮人青年は北朝鮮の工作活動に利用されたのです。 あるいは「“民族”や“社会”に目覚めて極限を生きた在日二世」が北朝鮮の工作活動に積極的に参加したとも言えるでしょう。 この当時に韓国の民主化運動に関心を深め連帯を求めた在日韓国・朝鮮人たちは北朝鮮を全く批判せず、韓国への批判に集中していたという特徴があります。

 そしてこの「南朝鮮革命」のために、日本国内の在日組織である朝鮮総連が積極的に関わったことは、上述引用の通りこの本にも明記されています。このことはやはり強調しておかなくてはなりません。

第58題 在日韓国人政治犯救援活動 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daigojuuhachidai

在日韓国人政治犯         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2010/05/17/5092838

1970~80年代の韓国民主化連帯闘争  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/01/16/5639024

1970年代の北朝鮮=総連の手口   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/11/12/6199653

韓国映画『南営堂1985』      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/05/20/7316008

【これまでの拙稿】

水野直樹・文京洙『在日朝鮮人』(1)―渡日した階層 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/06/8066021

水野・文『在日朝鮮人』(2)―渡航証明と強制連行 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/11/8069125

水野・文『在日朝鮮人』(3)―強制連行と強制送還  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/17/8072649

水野・文『在日朝鮮人』(4)―矛盾した施策 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/25/8077594

水野・文『在日朝鮮人』(5)―強制連行と逃走  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/29/8080041

水野・文『在日朝鮮人』(6)―渡航の要因 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/09/8086320

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水野・文『在日朝鮮人』(10)―子弟の教育 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/22/8116734

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水野・文『在日朝鮮人』(12)―財産を形成した在日 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/12/8129867

水野・文『在日朝鮮人』(13)―関東大震災への疑問 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/19/8134282

水野・文『在日朝鮮人』(14)―終戦直後の状況 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/22/8135824

水野・文『在日朝鮮人』(15)―外国人の地位 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/25/8138588

水野・文『在日朝鮮人』(16)―国籍剥奪論の矛盾  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/30/8142349

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水野・文『在日朝鮮人』(18)―北朝鮮帰国事業  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/08/21/8156717

水野・文『在日朝鮮人』(19)―関東大震災・吉野作造 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/04/8169265

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