同化されない外国人2016/10/01

 毎日新聞の「共に生きる―トブロサルダ」という連載に、日本で生きるブラジル人の話が出ています。   http://mainichi.jp/articles/20160930/ddl/k27/070/418000c

 日本におけるブラジル人の生活を、在日韓国・朝鮮人のこれまでのそれとを比較すると、「同化」という点で興味深いものを感じました。 それは、ブラジル人が来日して十年ぐらい経つというのに日常会話は祖国のポルトガル語であり、日本語が不自由であるということです。

彼は10歳でブラジルから日本に渡ってきた。 小学校まではブラジル学校で学んだが、将来の進路に備えて中学校から地域の公立学校に通った。 それまでリュウは生活で、日本語をほとんど使っていなかった。 ブラジル学校でも、家庭でもポルトガル語だ。‥‥両親が言語で苦労しているせいもあり

 在日韓国・朝鮮人の場合、一世や二世から話を聞いてみると、子供の時に日本語をかなり早く習得し、また家庭でも日本語を使っていた、という話がほとんどでした。 たまに日本語をなかなか使おうとしないお祖母さんがいる家もありましたが、それでも子や孫との会話は日本語ということでした。

 家庭内の事情は個々で違いがあるので一概には言えないでしょうが、在日韓国・朝鮮人は家で普段日本語を使うというのが一般的で、日常生活で朝鮮語を使っているという家は見たことも聞いたこともありませんでした。 日本語禁止の朝鮮学校に通う子供たちも、一旦校門を出ると日本語ばかりの生活になります。 在日が家庭で朝鮮語を使うとしたら、一世の激しい夫婦喧嘩の時ぐらいでしょうか。

 私はこういう話をよく聞いていたので、このブラジル人家庭では日本語を使っていないということに興味を引かれました。 要するに在日ブラジル人は同化の度合いというか、同化しようとする意志というか、つまり同化という点で在日韓国・朝鮮人と違いがあるようです。

 もう一つ感じたことは、外国人が同化せずに生きようとすると、いつまでも低位に置かれるという事実です。

景気がよかった時は都合のよい労働力として使われ、停滞すると彼らは切り捨てられる。 私がソーシャルワークで回る滋賀県内の在日ブラジル人の厳しい現実だ。 貧しさから進学をあきらめ、親と同様に非正規で働く在日ブラジル人の若者は少なくない。

 日本語の読み書きが出来ず、話も不十分な外国人は当然のことながら就職先が非常に限られます 。不安定な肉体単純労働の仕事しかないでしょう。 つまり同化しない外国人は低位の生活をせざるを得ないということです。 それが日本での進学をあきらめざるを得ない状況をつくり、貧しさが世代を超えて続くことにもなります。

 たとえ貧しくても同化を拒否し民族を守る、というのも生き方の一つでしょうが、貧乏が世代を超えて連続することは果たして望ましいことなのかと思います。 正解は、本人が日本で生きるために同化していこうという意志を持ち、周囲は上手く同化できるように手助けする、ということだと思うのですが。

 この記事を書いた方は金光敏(キムクァンミン)さんで、在日韓国人です。彼が在日ブラジル人の同化をすすめる記事を書いたことに共感を覚えました。

【拙稿参照】

水野・文『在日朝鮮人』(21)―同化 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/23/8197450

世界で唯一日本を見下す韓国人2016/10/06

 今日の韓国の有力紙『朝鮮日報』のコラムに次のような文章が出ていました。 (2016年10月6日付け)

韓国人は「世界で唯一日本を見下す韓国人」という言葉を聞くと悪い気はしない。 そんな声に酔う人もいる。 実はそこに「おかしな韓国人」という言葉の意味がひそんでいる。 実際には日本を見下す国など世界に存在しないからだ。 日本を見下すためには日本に対し無知でなければならない。 ろくに知らずに大言壮語して虚勢を張る人だけが日本を見下すことができる。

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/10/06/2016100601120.html

 論者は朝鮮日報の楊相勲(ヤン・サンフン)論説主幹です。 本当にこんなことを書いたのかと思って原文の韓国語版を見ましたら、確かにその通りに書かれていました。 こんな自省的な文章が影響力のある新聞に載るとは、韓国では滅多にないことですね。 

 「韓国人は『世界で唯一日本を見下す韓国人』という言葉を聞くと悪い気はしない」とあるのは、韓国人が対日レイシズムを有する非常に珍しい国ということです。 

 なお、このレイシズムは観光等で短期来韓する日本人に直接ぶつけることはほとんどありません。 また来日する韓国人も周囲の日本人に直接レイシズム言動することもほとんどありません。 

 普段はレイシズムが隠れているのですが、何かの場面にレイシズムがいきなり現れるという傾向になります。 このレイシズムがいつ何故どのように形成されたのか。

 呉善花や古田博司、黒田勝弘さんなんかは、李朝時代の華夷思想を引きずっているからと解説しています。 これは説得力のある説ですが、ならば何故近代化したはずの韓国に今なお残存しているのか? そこが分からないところです。

【拙稿参照】

古田博司 『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(3)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/03/21/7250136

蓮舫は国籍選択宣言をしていないのでは?2016/10/07

 私は15年前に二重国籍について論じたことがあります。 また在日韓国人から国籍について相談を受けたこともありましたので、蓮舫代表の二重国籍問題に関心があります。

 この問題について、産経新聞が蓮舫代表に対して批判的に報道していますが、ちょっと首をひねるものがあります。

http://www.sankei.com/politics/news/161006/plt1610060046-n1.html

 民進党の蓮舫代表は6日の記者会見で、日本国籍の選択を宣言した日が明記されている自らの戸籍について、「極めて私の個人的な戸籍の件に関しては、みなさまの前で話をしようとは思っていない」と述べ、内容を説明しない考えを明らかにした。‥‥日本維新の会の足立康史衆院議員が3日の衆院予算委員会で、「蓮舫氏が国籍法で定めた『国籍の選択宣言』をしていない疑惑がある」と指摘。(2016年10月6日付け)

 国籍法の該当条項は次の通りです。

第十四条     2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。

 つまり二重国籍者は国籍を選択しなければなりませんが、日本国籍を選択する場合の方法は二つあって、①外国籍の離脱をする、②国籍選択宣言です。

 蓮舫代表の場合、「私は日本国籍を取得した時点で、全ての事務作業が終わったと思っていた」と語っていますから、これが事実なら国籍選択そのものを行なっていないことになります。 つまり上記の①も②もしていないということです。

 ということは、産経新聞が「日本国籍の選択を宣言した日が明記されている自らの戸籍について」と記していますが、実は選択宣言したことがなく従って戸籍にはこの記載がないということです。従って産経新聞の記事は間違いだと言えるでしょう。

 ところで二重国籍者が国籍選択をしなかったらどうなるか。国籍法第14条では、22歳までに国籍選択をせねばならないとありますが、実はこれをしなくても支障がありません。

 国籍選択をしない二重国籍者に対し、法務大臣は国籍選択しなさいと催告し、それでも選択しなかったら日本国籍を失います。(国籍法第15条) しかし蓮舫代表にはこの催告はされていません。

 以上から蓮舫代表は、17歳の時に日本国籍を取得して二重国籍となって以来、国籍選択をせずに過ごしてきた、今回問題になったので、国籍選択の方法の一つである①外国籍の離脱を行なった、という経過になります。 

 日本の法律は二重国籍を認めていないとありますが、蓮舫代表の例でも明らかなように、二重国籍のまま過ごしても生活に支障をきたすことはない、ということです。 日本のパスポートは発給してもらえるし、日本の参政権も行使できます。 ペナルティはありません。

 もし不都合が生じるとしたら、日本の外交官になれないこととか、外国でゲリラの人質になった時にどちらの国が救出するかで揉めることとか、或いは両国が戦争になった時に立場を問われることぐらいでしょうか。

 日本は建前上二重国籍を認めていませんが、実際には容認していると言っていいでしょう。

【拙稿参照】

蓮舫の二重国籍疑惑  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/09/8176022

蓮舫の過去の「国籍発言」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/16/8190975

韓国の小説の翻訳に挑戦(12)―チョ・ヘジン2016/10/13

 語学勉強のための小説翻訳。 この小説に出てくる「徐君」とは、在日韓国人の徐勝さんのことです。 1971年に北朝鮮のスパイとして逮捕され、取り調べ中に大やけどを負った方で、当時の日本では救援活動が盛んでした。

 小説は、忘れ物センターに勤める人の叔母が、逮捕前の「徐君」に出会って一生を独身で通してきた、という設定です。

‘もの’との決別 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/monotonoketsubetsu.pdf

 原題は사물과의 작별(事物との作別)です。題名をどうしようかと悩んだのですが、結局は原題を尊重して題名をつけました。

 当時の韓国人は北への警戒心が極めて厳しい時代で、在日韓国・朝鮮人は北=朝鮮総連の手先ではないかと常に警戒されていました。それはKCIAなどの取り締まり機関だけでなく、韓国民全体がそうでした。

 そんな時代に叔母が何の疑いもなく簡単に「徐君」に会い、彼から中身の分からない日本語原稿を預かったという設定に、大きな違和感を持ちました。今の韓国では、こういう設定に違和感を感じなくなっているということでしょうねえ。

 ところで徐勝さんは、韓国留学前に北朝鮮に密出入国したことを認めておられます。徐勝さんが北のスパイであったことは事実とみていいでしょう。

【これまでの小説の翻訳】

韓国の小説の翻訳に挑戦         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/05/04/7626475

韓国の小説の翻訳に挑戦 (2)       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/08/02/7722604

韓国の小説の翻訳に挑戦 (3)       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/09/15/7792887

韓国の小説の翻訳に挑戦(4)-孔枝泳  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/10/11/7835346

韓国の小説の翻訳に挑戦(5)―孔枝泳(2)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/11/18/7914156

韓国の小説の翻訳に挑戦(6)―申京淑(3)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/01/10/7986267

韓国の小説の翻訳に挑戦(7)―殷熙耕(2)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/03/29/8059347

韓国の小説の翻訳に挑戦(8)―クォン・ヨソン  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/24/8095033

韓国の小説の翻訳に挑戦(9)―ファン・ジョンウン http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/05/8125628

韓国の小説の翻訳に挑戦(10)―キム・エラン http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/08/05/8146227

韓国の小説の翻訳に挑戦(11)―ソン・ボミ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/01/8167186

蓮舫の二重国籍問題―産経の間違い2016/10/14

 蓮舫の二重国籍問題で、国籍選択宣言をしたことが書いてある戸籍を何故見せないのか、という主張が目立ちます。 特に産経新聞が執拗に書いています。

http://www.sankei.com/politics/news/161013/plt1610130047-n1.html

民進党の蓮舫代表は13日の記者会見で、日本国籍と台湾籍のいわゆる「二重国籍」問題をめぐり、国籍法に基づき日本国籍を選択する宣言をした時期について明言を避けた。蓮舫氏は宣言日が明記された戸籍謄本を公開しない考えを示しているが、安倍晋三首相は13日の参院予算委員会で「自身の責任で、国民に証明する努力をしなければならない」と対応を批判した。(清宮真一)                ‥‥‥国籍法14条は、20歳未満の人が日本国籍と外国籍の二重国籍になった場合、22歳になるまでにいずれかの国籍を選択しなければならないと規定している。かつての蓮舫氏のように、外国籍のみを有する人が日本国籍を単独で取得する場合、(1)日本国籍を取得(2)日本と外国籍のどちらを選択するか宣言(3)日本国籍を選ぶ場合、速やかに外国籍の離脱手続きを行い、手続きを終えた証明書を自治体に提出する-という手順を踏まなければならない。

 この最後にのところにある「踏まなければならない手順」が間違いです。 蓮舫は17歳の時に(1)の日本国籍の取得をしましたが、国籍法によれば、その後のすべき手順は(2)の国籍選択宣言か、(3) の外国籍の離脱かの二通りの方法のうちを一つをする、ということです。 この産経の記事のあるような(1)→(2)→(3)という手順だけでなく、(2)のない(1)→(3)の方法をも提示しているのが国籍法14条16条です。

第十四条     2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。

 第十六条 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。

 つまり産経は国籍法を間違って解釈して、蓮舫を批判していることになります。  ところで蓮舫は実際にどのような手順を踏んできたのか。 彼女自身は次のように述べています。

「私は日本国籍を取得した時点で、全ての事務作業が終わったと思っていた」と説明。

 つまり上記の産経記事を使って言えば、(1)の日本国籍取得に留まって、それ以上のことはしていない、ということです。 だから(2)の国籍選択宣言も(3)の外国籍の離脱もしていなかったのです。 

 産経は「蓮舫氏は宣言日が明記された戸籍謄本を公開しない考えを示しているが」と書いていますが、宣言そのものをしていないのですから、そんなことは戸籍に明記されていません。 明記されていないのに明記しているんだとして公開を迫るのはいかがなものか思います。

 しかし産経は次のように書いて批判を繰り返します。

http://www.sankei.com/politics/news/161013/plt1610130038-n1.html

国籍法で義務づけられた日本国籍の選択を宣言した時期への言及を避け続けた。

 蓮坊は国籍選択の宣言をしていないと言ってるのに、何故このような批判になるのか、理解できないところです。

 産経のことはこれで終わりにして、次に蓮舫はこれが問題化した最近になって、台湾籍の離脱手続きをしたと言っていますから、今は(3)の「外国籍の離脱」の段階が終了したことになります。

 この次にすべき手続きは、台湾籍の離脱を日本の役所に届けることです。 これについては蓮舫は次のように述べています。

http://www.sankei.com/politics/news/161006/plt1610060046-n1.html

「ただ今回、いろいろご指摘があって、台湾籍が残っていることが明らかになったので、台湾籍の放棄を急ぎ、実際に籍が抜けたことになったので、区役所に届けたまでだ」と述べた。

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2890048.htm

届け出による日本国籍の取得をしました。(戸籍法)106条にのっとって適正な手続きをしているところ」(民進党 蓮舫代表)

 この戸籍法106条とは次の通りです。

第一〇六条 外国の国籍を有する日本人がその外国の国籍を喪失したときは、その者は、その喪失の事実を知つた日から一箇月以内(その者がその事実を知つた日に国外に在るときは、その日から三箇月以内)に、その旨を届け出なければならない。              2 届書には、外国の国籍の喪失の原因及び年月日を記載し、その喪失を証すべき書面を添付しなければならない。

 現在、この手続きが進行中ということです。このことが実際に戸籍に記載されるまでは、もう少し時間がかかるようです。

 蓮舫が(1)の日本国籍取得によって二重国籍になったら、22歳までに国籍選択をしなければならないのに、それを怠ったという批判があります。 これはその通りなのですが、本人がこれで全て済んだと思い込んでいますから、悪意があるものではありません。 こういう場合には、日本の法律は親切なもので、戸籍法104条の3と国籍法があります。

第一〇四条の三  市町村長は、戸籍事務の処理に際し、国籍法第十四条第一項の規定により国籍の選択をすべき者が同項に定める期限内にその選択をしていないと思料するときは、その者の氏名、本籍その他法務省令で定める事項を管轄法務局又は地方法務局の長に通知しなければならない。

 第十五条 法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。

 蓮舫の場合、国籍法に基づく「催告」をされていません。 おそらく、それ以前になされるべき戸籍法104条の「通知」もされていないでしょう。 つまり22歳を過ぎても国籍選択しない二重国籍者に対してなされるべき行政側の業務が何もなされていないのです。

 本人は全て済んだと思い込み、行政は何もしなかったのですから、自分が二重国籍であることに気付いてこなかったのです。 この問題、一概に蓮舫本人の責任に帰すべきことではないでしょう。

蓮舫はもともと二重国籍でなかったのでは?2016/10/16

 蓮舫代表が台湾籍離脱証明書が受理されず、10月7日付で国籍選択宣言をしたと明らかにしました。 http://www.sankei.com/politics/news/161016/plt1610160008-n1.html

 産経はこの記事で「国籍法違反などに問われるかが焦点となりそうだ」とさらに追及しようとしています。

 果たして違反に問われるかどうかと言えば、かなり難しいでしょう。 なぜなら、日本にとって台湾は国家として認めておらず従って台湾籍は「国籍」ではないからです。 

 すると蓮舫は、日本と台湾の二重国籍ではなかったことになります。 日本は建前上、台湾人は中国国籍者ですが、実際の事務手続きは台湾を国に準じて処理しています。

 中国の国籍法は二重国籍を認めず、他国の国籍を取得した時点で中国国籍は喪失しますから、蓮舫は建前上においても、17歳に日本国籍を取得した時点で中国国籍ではありません。

 そして台湾籍は「国籍」ではないので、台湾籍を有する蓮舫は、私は日本の法律上の二重国籍者ではないと主張することが可能です。

 ただ将来、台湾が国家承認される可能性がありますので、その時は正式に二重国籍者となります。 これは本人の意思とは関係ありません。 ただし蓮舫は台湾籍を離脱しましたので、将来二重国籍者になることはありません。 従って日本の国籍選択宣言をしなくてもよかったと思われます。

 産経記事によると、蓮舫は「(台湾籍離脱証明書が)不受理なので相談したら、強く選択の宣言をするよう行政指導された」と言ってます。 

 今度はこの「行政指導」の法的根拠が問われると思うのですが、どうでしょうかねえ。 野党の政治家は行政をチェックするのが役目ですから、行政指導の法的根拠を問うべきだと思うのですが‥‥。

【拙稿参照】

蓮舫は国籍選択宣言をしていないのでは? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/10/07/8216765

蓮舫の二重国籍問題―産経の間違い  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/10/14/8226719

蓮舫の二重国籍疑惑  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/09/8176022

蓮舫の過去の「国籍発言」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/16/8190975

二重国籍は複雑で難しい2016/10/20

 民進党の蓮舫代表の二重国籍問題については、拙論で「大きく問題にするほどのことではない」と論じました。 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/09/8176022

 しかし一部では二重国籍を有すること自体が悪いことのように執拗に主張しており、また維新の会が国会議員等の二重国籍禁止法案(別名を蓮舫法案というらしい)を出したそうで、問題が大きくなっているのにビックリします。

 国際交流がこれだけ進んできますと、結婚や認知、養子などの国籍が関係する身分行為がそれだけ多くなるし、また子供が生まれる場所が日本でないことも多くなります。 とすると、日本人でありながら外国籍を有する場合(=二重国籍)がかなりの割合で高くなっています。

 国籍の定めは各国の主権に属するものですから、世界約200ヶ国とすれば200種類の国籍法があります。 しかも国籍法はどの国も不変ではなく、時代によって変化しています。 だからどのような場合に二重国籍になるかは様々なケースが考えられ、各国の国籍法を調べると、へー!こんな時に二重国籍になるのかと感心というかビックリする場合もあります。法律上で考えられるケースで例を二つあげてみます。

① 日本人と韓国人の夫婦がアイルランド航空に乗ってアメリカ上空を飛行中に産気づき、子供を産んだとします。 この子供の国籍はどうなるか。        まず両親が日本人と韓国人ですから、国籍父母両系主義によって日韓の二つの国籍を持ちます。 次にアメリカの領空内で生まれたということはアメリカの主権領土内で出生したことになりますから、国籍生地主義によりアメリカ国籍なります。 さらにアイルランドも生地主義ですが、この国は自国の飛行機や船も領土の延長と考える国で、従ってアイルランド航空機内で出生した子供はアイルランド国籍になります。        以上により、この子供は日本・韓国・アメリカ・アイルランドの四重国籍者です。 これは実際例ではありませんが、法律を読むとこんな場合が想定できます。二重国籍でも手間や扱いが複雑なのに、四重国籍は本当に大変でしょうねえ。

② 次に北朝鮮の国籍法を読んでみます。この国は蓮舫さんの台湾と同様に国家として承認されていませんので、法律上は台湾と同様に扱うべきものです。 台湾籍を「国籍」と見なすなら、北朝鮮籍も「国籍」と見なさねばなりません。         北朝鮮は韓国人を含む全朝鮮人を我が公民としています。 従って在日朝鮮人(韓国籍も含めて)はすべて北朝鮮の国籍を有していることになります。 そして北朝鮮は国籍の除籍(離脱と同じ)は最高人民会議常任員会が決定するとなっています。         今まで日本に帰化した韓国人約35万人でこの手続きをした人はおそらく皆無でしょうから、この人たちについて北朝鮮は、我が国の法律に照らして彼らは我が国の国籍を有していると主張することが可能です。 つまり帰化した韓国人は韓国籍から離脱していても北朝鮮国籍が残っており、日本と北朝鮮の二重国籍者になるわけです。

 上述は私が勝手に特定の国を拾い上げて、法律上二重国籍が想定できる例を作ってみました。 200の国があれば200の違った国籍法がありますから、二重国籍になるケースは膨大な数になります。 国際交流が進めば進むほど二重国籍者は増え、一体この人は二重国籍なのかそれとも単一国籍なのか、あるいは他にも国籍を有する多重国籍ではないか、などと首をひねる場合も多くなります。

 各国の国籍法を読んで、どういう場合に二重国籍になるかを想像するのは頭の体操としていいのかも知れませんねえ。 自分は単一国籍者だと思い込んでいる人でもよく調べてると二重国籍だった、という例がいっぱいあるでしょう。

 蓮舫さんの場合でしたら台湾が国家承認されておらず台湾籍は国籍ではありませんので、法律上は二重国籍ではありません。しかし見方によっては二重国籍にもなります。 要するに蓮舫さんの国籍は変てこりんな状態でした。

 それぐらい国籍法は複雑で難しいということです。 二重国籍禁止法案なんて本当にできるのか、疑問です。

二重国籍でないという証明は困難2016/10/23

 日本維新の会が国会議員の二重国籍法案を提出したそうですが、その中身が分かりません。どうやら国会議員の被選挙権の要件に外国籍を持たないことを追加することのようです。

 もしこの法案が成立すれば、立候補者は立候補の届出の際に、自分が「外国籍を有していない」ことを証明する書類を提出する必要性が出てきます。 

 日本国籍を有しているか否かは戸籍を見れば分かります。立候補届出に必要な書類に戸籍がありますから、これについては問題がありません。 しかし外国籍を有していない(=二重国籍でない)ことを証明する書類は一体何なのでしょうか? 

 日本政府は日本国籍を有しているか否かを判定する権限はありますが、外国籍を有しているかどうかの判定をする権限はありません。国籍判定はそれぞれの国の主権行為だからです。 従って日本政府は、この人物は外国籍を有していない(=二重国籍でない)という証明をすることが出来ません。

 それでは世界には200ヶ国ほどがありますから、この全ての国に国籍を有していないという証明書を作ってもらうのでしょうか?  これは不可能なことです。

 どう考えても、「外国籍を有していない」ことを証明する書類はあり得ないです。 つまり被選挙権の要件に「外国籍を有しないこと」を加えたとしても、それを証明する公的機関がありませんので、実際に意味をなさないものと思われます。

私が二重国籍に関心を持った訳2016/10/28

 二十年程前の話ですが、ある20代の男性から、ある日突然官憲がやって来て日本のパスポートを取られ、代わりに外国人登録証を渡された、何故こうなったのか訳が分からない、という相談が来たことがあります。 聞いてみると、父が韓国人、母が日本人で、日本人として育ってきて、二重国籍ではなく日本の単一国籍だった、だから日本のパスポートで海外旅行をし、選挙にも行っている、しかしある日突然日本国籍を失い、韓国籍を強要されたという話でした。

 私も最初は訳が分からなかったのですが、彼の戸籍の記載事項および家庭内状況を聞いて、次の事情が分かりました。

 彼の両親は韓国人と日本人ですから、生まれた当初は日韓の二重国籍でした。 両親は彼が生まれて数カ月して日本国籍を選び、単一国籍としました。彼は日本人として成人になりました。 ところが父親は自分が亡くなる直前に何を思ったのか、彼に韓国籍を取らせました。その手続きは父親がしました。 韓国の国籍法には国籍回復条項があり、かつて韓国籍を有していた者は国籍を回復することが割りと簡単に出来ます。 彼は深く考えないで国籍回復を承諾したようです。 彼は父親が亡くなってからも日本のパスポートを持って海外旅行を何年も続けました。 国籍回復した事実を全く忘れてしまい、気持ちは全くの日本単一国籍者でした。 しかし国籍回復が日本当局に知られ、自分の意志で外国籍を取得した者は日本国籍を失うという法律により日本のパスポートを取り上げられ、代わりに外国人登録証を持たされたのでした。

 父親は自分の死を前に息子に韓国人の自覚を持たせようと国籍回復させたのでしょうが、息子はそれが日本国籍喪失を意味することを知らずに安易に承諾し、その手続きを父親に任せ、その承諾を失念したということになります。 しかし本人は、ある日突然日本人でなくなり外国人を強要されたという被害意識の塊でしたねえ。

 この時に私は国籍について関心を大きくし、国籍法の関する専門書を何冊か購読しました。 そうすると在日は韓国と北朝鮮の二重国籍者であることに気付きました。 韓国の国籍法も北朝鮮の国籍法も、朝鮮人(韓国人)すべてを我が国の国民(公民)と規定しているのですから、二重国籍と言うしかありません。 在日社会では昔北か南かで激しいイデオロギー紛争がありましたが、法的に見れば二重国籍者であるが故の紛争でした。 ですから二十年前の当時、家族内の争いごとである離婚や相続は韓国の法律に準拠するのか、北朝鮮の法律に準拠するのか、それとも常居地である日本の法律に準拠するのか、かなり深刻な問題であることを知りました。 これは余りに複雑すぎて素人が出る幕ではなく、専門家に任せるしかないものです。

 二重国籍とは複数の国家に所属することですから両国の権利を行使できますので、それだけ便益があります。 例えば重婚など単一国籍者には違法であるものが、二重国籍者では可能です。それほど二重国籍の便益性は大きいということです。

 二重国籍はいいことばかりではありません。 両国の権利を享受できるということは、義務も生じます。 一番問題になるのは兵役です。 兵役義務のある国では二重国籍者の徴兵逃れを防止するため、二重国籍者への対応が厳しいという話です。

 二重国籍者は両国の保護を同時に受けることが出来るのですが、これが逆に作用します。 例えば二重国籍者が国際テロ組織に人質となったとしましょう。 どちらの国が救出するのかで外交的衝突が起きる可能性が高いです。 ということは、二重国籍者は救出に乗り出してくれる国はないことを覚悟しなければなりません。

 このように国籍に関心を持ったのが二十年ほど前。 それから関心が薄れていたのですが、今回の蓮舫二重国籍問題でまた関心を持った次第です。

二重国籍には様々な姿がある2016/10/29

 国籍は各国の国籍法に基づき定められます。 国籍が複数に重なる状態が二重国籍です。 簡単に言えばそうなのですが、実際の姿は様々です。

 二重国籍者の典型例は、自分が二重国籍であること自覚して両国から正規のパスポートを取得し、二つのパスポートを使い分けて海外旅行する人です。 近頃は知りませんが、二つのパスポートの所有する人が同一人物であることはなかなか分かるものではありません。 だから第三国で国外追放処分を受けても、もう一つのパスポートを使って再入国できます。 これは極端な例でしょうが、それ程に二重国籍は活用すると非常に便利なものです。

 本人が二重国籍であることを自覚していない場合があります。 二重国籍となるのは両親の国籍が違うとか外国で出生したとか様々場合があるのですが、親からそのことを教えてもらわないまま単一国籍者として育つことがよくあります。 親が教えなかった理由も様々で、国籍法の知識がなく二重国籍になるとは分からなかったとか、二重国籍であることは知っていたが離婚再婚を繰り返すうちに子供に教えることを失念したとか、個々の事情は百人百様、千人千様で、本人には責任がありません。 ですから国籍法に定める国籍選択をせず、法的に二重国籍のまま過ごすことになります。 なおこの場合は、本人が二重国籍であることに気付いた時に一方の国籍を離脱して単一国籍にする可能性と、法的には二重国籍でありながら実際には単一国籍として行動を継続する可能性、あるいは両国からパスポートを取得するなど二重国籍者の権利を享受する可能性など、色んな可能性が考えられます。 

 親も本人も二重国籍に気付かない場合があります。 戸籍を見ても外国籍を有していることは記載されていないし、家族も周囲も誰も二重国籍とは分からない場合があるのです。 国籍は各国の法によって定められています。その国の法によればその国の国籍を有しているはずなのですが、そのことを誰も知らず日本の単一国籍と思っている、という場合です。 

 北朝鮮は、朝鮮人(韓国人)は全て我が公民であり、我が国の国籍を離脱するには我が国の決定が必要としています。 今日本には韓国からの帰化者が35万人ほどと言われていますが、彼らが北朝鮮国籍離脱の手続きをした人はおそらく皆無でしょう。 とすると、韓国からの帰化者は韓国籍を離脱していても北朝鮮国籍の離脱が完了していない二重国籍者だということになります。 自分は北朝鮮の国民であったことはないとか戸籍にはそんなことは書かれていないとか主張しても、そんな個人の事情とは関係なく北朝鮮の法律がそうなっています。 だから北朝鮮は、我が国の法に照らして日本の帰化者は我が国の国籍を有していると主張することが可能です。

 日本の国会議員で韓国からの帰化者がおられますが、その方に北朝鮮との二重国籍ではありませんかと聞くのも一興かも知れません。 おそらく本人は目を丸くして、何をバカなことを言っているのかと拒絶するでしょうが‥