なぜ嫌韓は高齢者に多いのか―毎日新聞2019/05/25

毎日新聞の5月8日付けで、澤田克己記者の「なぜ嫌韓は高齢者に多いのだろうか」と題する記事が出ました。

https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20190507/pol/00m/010/002000c

 澤田記者は世論調査から、高齢者層に韓国を嫌う傾向が強いことを指摘しています。

日本政府が毎年行っている「外交に関する世論調査」というものがあります。米国や中国、韓国について「親しみを感じるか」などと聞く調査です。昨年末に発表された調査結果では、韓国に親しみを感じるという回答は39.4%でした。2012年の李明博大統領(当時)による島根県・竹島上陸を契機とした日韓関係悪化を受けて14年に31.5%まで落ち込んだものが、少しずつ回復しているという状況です。ただ6割を超えていた09~11年とは比べるべくもありません。

調査結果の詳細なデータを見ていると気がつくことがあります。「韓国に親しみを感じる」という回答が18~29歳では57.4%なのに、70歳以上では28.1%なのです。まさにダブルスコア。他の年代も見ると、30代51%、40代42.3%、50代42.7%、60代31.3%でした。どこで線を引くべきかは難しいところですが、高年齢層の方が韓国に対して厳しいというのは一目瞭然でしょう。

「嫌韓は高齢者に多い」というのは専門家たちが話題にしていたことなのですが、それを裏付けるような数字です。ヘイトスピーチ対策に取り組んでいる神原元・弁護士は「ヘイトスピーチは若者が憂さばらしでやっているというのは勘違いだ。むしろ、ある程度の社会的地位を持つ50代以上というケースが多い」と指摘しています。

 「高年齢層の方が韓国に対して厳しい」ということです。 私の体験からもう少し詳しく言うと、これは男性に特に多く、女性は少ないです。 「親しみを感じない」嫌韓高齢者の多くは男性であり、逆に「韓国に親しみを感じる」高齢者の大半は女性であると見て間違いないです。 上記の世論調査に、男女別の数字を出してほしかったです。 私の予想では、男女で顕著な違いが出てくると思います。

 ところで韓国語教室で熱心に勉強する方は大体が女性であり、白髪の方も結構おられます。 韓国語能力試験やハングル検定試験で最上級合格する女性は一杯います。 一方、高齢の男性で上級以上にまで行っているような熟達者は、現役時代に韓国に赴任して友人をつくったとか、韓国に具体的に接した経験のある方の場合が多いですね。 韓国語を忘れないようにと今なお学習意欲旺盛ですが、数は非常に少ないです。

 嫌韓派のほとんどは、これまで韓国との体験がなくて韓国語を知らず、そして学ぼうともせず、ただひたすらインターネットや嫌韓本・雑誌などの情報を読んで、韓国に対する反発と嫌悪を書き連ねますねえ。 これは高齢者も若者も関係なく存在する傾向性です。

 次に澤田記者は、高齢者に嫌韓が多い理由を次のように論じます。

では、どうしてなのか。これは、なかなか難しいところです。まだまだ検証が必要なのですが、1980年代末から韓国にかかわってきた私の感覚では、「昔の韓国」のイメージが作用しているのではないかと感じています。80年代までの日本で韓国に持たれていたイメージは「軍事政権」というネガティブなものでした。

それに対して90年代後半以降に成人した世代には、K-POPに代表されるような発展した国という明るいイメージしかありません。90年代末に慶応大の小此木政夫教授から「最近の学生はソウル五輪以降のイメージしか持っていない。我々の時代とは全く感覚が違う」と聞いたことがあるのですが、まさにそうした違いでしょう。

そして「昔の韓国」は、経済的にも、政治的にも、日本とは比べものにならない小さく、弱い存在でした。それなのに、バブル崩壊後に日本がもたついている間に追いついてきて生意気なことを言うようになった。そうした意識が嫌韓につながっているのではないか。そう考えるのが自然なように思えます。67年生まれの私と同世代だという神原弁護士も、同じような感覚を持っているそうです。

 記者は「昔の韓国」のイメージである「軍事政権」と「小さくて弱い存在」が今の嫌韓につながった、としています。 しかし、これには異議があります。

 「軍事政権」は、1970~80年代に朝鮮総連の影響を受けて日本の左翼・革新系の人たちが抱いたイメージです。 左翼・革新系は当時も日本では少数派でした。 一方1960年代後半から日韓経済交流が活発化して、日本からかなり多くの企業人が参加し韓国を訪問しました。 彼らには「軍事政権」というマイナスイメージはありませんでした。 そして、以上のような左翼・革新あるいは企業人でなければ、ほとんどの日本人は韓国に関心がありませんでした。 1990年代までは、そういう時代でした。 従って「軍事政権」イメージが今の嫌韓につながったとは、とても思えません。

 また韓国がかつて「小さくて弱い存在」だったのは事実ですが、そんな昔のイメージが今の嫌韓につながったとは言えないでしょう。 アジア諸国には韓国以外にも、昔「小さくて弱い存在」だったのが今や大きな経済成長を遂げて「大きくて強い存在」になった国は多いです。 しかしそういった国々があるなかで、日本の嫌韓は突出しています。 かつての「小さくて弱い存在」のイメージが今の嫌韓にはつながらないと、私は思います。

 さらに記者は、高齢者の疎外感が嫌韓に向かっていると論じています。

定年退職した後に感じる社会からの疎外感というものも無視できないのかもしれません。そのことをうかがわせたのが、神原弁護士と一緒に今年4月に記者会見した男性の証言でした。朝鮮学校への補助金支出を批判するブログにあおられて神原弁護士らに対する懲戒請求を弁護士会に出したものの、後に反省して謝罪したという男性です。

この男性は定年退職後に、ネットサーフィンをする中で嫌韓的なブログを読むようになったといいます。男性はブログを書いている人物を「保守右翼の大物」だと感じるようになり、「信者」としてブログの指示通りに懲戒請求などを送り続けました。「自分なりの正義感と、日本のためによいことをしているという一種の高揚感もあった」そうです。

当時の心境については、「それまで多かった友人や、仕事の仲間、取引先というものが、65歳をすぎて一切なくなってしまった。社会に参加していない、疎外されているようなところがあった。しかし、(ブログに従う行動を取ることで)自分は社会とつながっているんだという自己承認を新たにしたというような意識が働いて、一線を越えてしまったのではないか」と振り返りました。

九州選出の自民党国会議員から「現役時代には常識的だった県庁職員が定年退職してから激しい嫌韓発言をするようになって驚いた」という話を聞いてもいます。

 これはおそらくその通りだろうと思われます。 日刊ゲンダイにも、公務員定年退職した人が嫌韓にはまり込んだ例を記事にしていました。  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/04/14/9059752

 嫌韓派の心理は次のようになると思います。 自分は正義を実現したい、悪党がいればそいつを打ち負かすのが正義だ、自分もその正義の闘いに加わりたい、その悪党である「韓国」が目の前にいる、自分も闘うぞ! さらに高齢者は、若い時に出来なかった正義の実現を今やっているのだ! 自分は小さな力でも正義のために今からでも役に立ちたい! という心境なんでしょう。

 前述の弁護士懲戒請求は、そんな嫌韓派の中でもちょっと生真面目な人が行動に移した事件ということになります。 賠償請求額は何十万円かになるようですが、最後まで闘うような元気な嫌韓派はどれだけいるのでしょうか? 懲戒請求された弁護士さんにとっては、おいしい小遣い稼ぎになりそうです。   https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190521-00010003-wedge-kr&p=2

【拙稿参照】

最初の韓流ブーム      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/08/06/8934724

日本語と韓国語の微妙な違い http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/05/19/9074339

嫌韓を実践するおばあさん  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/04/14/9059752

韓国語のできない嫌韓派   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/03/28/9052386

韓国語が出来ずに韓国を論じる人たち http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/03/16/9047781

嫌韓派と韓流派         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/01/17/7540292

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