「9条は素晴らしい」と言うが ― 2019/10/19
毎日新聞に西谷文和さんの『続・西谷流地球の歩き方』というコラムが二週間おきに連載されています。 昨日の10月18日付けは「タリバンにも響いた9条の心」と題するもので、題名の通りに憲法9条を称賛するものです。 https://mainichi.jp/articles/20191018/ddf/012/070/013000c
この人に限りませんが、9条を絶対視する人の意見について、私は昔から違和感を持ってきました。 その違和感について、この西谷さんのコラムを材料に書いてみたいと思います。
2010年2月、アフガニスタンの首都カブールでムタワッキル師の邸宅を訪問した。 ムタワッキル師は「穏健派タリバン」と言われていて、タリバン政権時代の外務大臣。
開口一番、「日本は素晴らしい国だ」と言う。 なぜか? それは先進国で、日本だけがアフガン派兵を見送り「誰も殺さなかったから」だ。
「日本は平和貢献、人道支援に徹するべきだ」と強調するので、ここでとっさに聞いてみた。 「あなたは日本の憲法9条を知っていますか?」「9条? なんだそれは?」。通訳のイブラヒームが尋ねる。 「えーっとね、9条というのはね、日本が戦争に負けてもう二度と……」。 イブラヒームに説明している時だった。
「I know(知っているよ)」とムタワッキル師。
えっ! なんとタリバンの元外務大臣が日本の平和憲法を知っていて「9条は素晴らしい」と言うではないか。 この時点ですでにタリバンは米軍との戦争に疲れていたのだ。
「もうこれ以上戦いたくない。早く和平合意を」。 これがタリバンの本音だった。 極端なイスラム原理主義で、女性の人権保護、ハザラ人の大虐殺などタリバンには重大な戦争責任がある。 しかし、それは国際刑事裁判でただすべきで、空爆で街を破壊し、住民を殺りくすることではない。
感動した私はムタワッキル師と固く握手。 丁重に礼を言い、無事ホテルに到着。 ほっとした私とイブラヒームが互いにつぶやく。 「人は会ってみないとわからんねー」<ジャーナリスト 西谷文和>
アフガニスタンで徹底したイスラム原理主義政策を施行し、女性虐待、少数民族虐殺、そして世界各地でテロ活動を行なったタリバン政権。 バーミヤン石窟の仏像を破壊するという野蛮行為をしたといえば、思い出される方もおられるでしょう。
その政権の中心人物が日本の憲法9条を「素晴らしい」と絶賛したというのです。 それほど「素晴らしい」のであれば、タリバン自身が9条のような憲法もしくは最高法規を定めるべきだと思うのですが、彼らにはそんな気は全くありません。 ただ日本が9条を有していて、我がアフガンに派兵しなかったことを称賛しているだけです。
そして、アメリカとの戦争に疲れて「和平合意」を考え始めた時に、日本人を相手に「日本の9条は素晴らしい」と言い出したということです。 しかし、それを聞いた西谷さんが感激したというのですから、ここが私の理解できないところです。
世界的に見て、9条のような平和憲法を持とうとする国はないでしょう。 9条護持を強く訴えている日本共産党にしても、平和憲法なんてこれぽっちも考えたことのないベトナムに友好親善訪問しています。 つまり9条は世界的・普遍的な価値観を有するものではないということです。 9条護持の主張は、日本というごく狭い地域のみに通用している論理なのです。
昔、9条にノーベル平和賞を!という運動がありましたが、世界の戦争・紛争の解決に一度として貢献したことのない9条がそんな値打ちを持っているのだろうか、と疑問に感じたものでしたねえ。
【拙稿参照】
加藤陽子「九条放棄されればカナダ国籍を取る」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/09/04/6971199
第25題 タリバンの純粋さ http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainijuugodai