ある教師の苦悩2019/12/25

 今年最後になりました。 今回は今までとは違うテーマの、個人的体験談です。

 二十年以上前のことですが、元教師と一緒に仕事をして、ちょっと親しくしたことがありました。 学校や教育の世界について、こちらの知らないことを色々教えてくれて、成程そうだったのかと参考になることが多かったです。 そのなかで、生徒の就職について、時にはウソをつくことがあるという話が出ました。

 教師成りたての若かりし頃、生徒には絶対にウソをつくな! 大切なことは黙ってないで話せ!と強く指導していました。 だから生徒の就職についても、学校側は相手方の会社にはウソを書かない、重要なことは知らせるという方針で交渉してきました。

 ある年、癲癇(てんかん)の生徒が就職希望を出しました。 家庭は経済的に厳しいのだが成績や生活態度が優秀なので、いいところに就職できると思い、それなりの会社を回りました。 履歴書には癲癇があると正直に記載し、薬をきちんと服用すれば仕事に差し支えないという医師の診断書を添えて会社回りをしたのです。 結果は無惨なものでした。 教師だけでなく教頭まで会社に出向いて説明・説得しましたが、結局すべてダメだったそうです。

 そして今度はその生徒が学校のせいで就職できなかったと、学校に対して不信感を抱きました。 結局、卒業式にも出てこなかったということでした。 その後、その生徒は遠い所で零細企業のアルバイトで働いているという噂が聞こえてきたといいます。 教師は生徒の一生をダメにしたのではないかと後悔し、それが今でも忘れられないと言います。

 教師はこの体験をしてから、生徒の就職に不利になりそうなことは一切書かないと決めたといいます。 生徒が就職してから、その会社から何故これを知らせてくれなかったのかと抗議が来ても、へー、そうでしたか?! 就職を決めたのはそちらでしょ!と居直り、トボけることにしたと言います。 おかげで堂々と平気でしらを切る人間になったと自笑しておられましたねえ。

 結局は世の中、キツネとタヌキの化かし合い、ということですかねえ。

 ところで「自笑」という言葉は、国語辞書には採録されていないのに驚きました。 自分で自分を笑うとかの意味だと思っていたのですが、そうではなく、そういう言葉自体が日本では使われていないのですねえ。

 なお「自笑亭」は浜松の有名な老舗弁当屋さんの名前で、鉄道関係遺跡の発掘調査でこれが記された汽車土瓶が発見されています。 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku17dai.pdf