かつて対馬は我が領土と返還要求した韓国2022/10/20

 日本では北方領土・竹島・尖閣諸島の領有権について、ロシア・韓国・中国と争いになっています。 これ以外に日本領土に関して今は問題になっていませんが、ロシアの少数政党が「ロシアは北海道に権利を有している」と発言したり、中国では『人民日報』に「琉球帰属問題は解決していない。沖縄は日本領土とは言えない」と主張する論文が掲載されたりしています。

 これらは当然ながら政府の公式見解ではありません。 しかし国民のレベルでは、ロシアでも中国でもそう考えている人がかなり存在していることは確実です。 こういったナショナリズムを刺激する発言は広がりやすく、時には政府を動かすこともありますので、油断は禁物です。

 韓国でも同じように「対馬は我が国の領土」だと主張する人がいます。 竹島問題にからめる場合が多いですが、対馬韓国領土説を真剣に信じている韓国人は結構います。 具体的な動きとしては、国会議員が対馬返還要求決議案を国会に提出したり、議政府市の市議会では対馬返還要求を議決しています。 民間でも「対馬奪還本部」という市民団体をつくっていますね。 

 これは韓国人でも一部の人たちの主張です。 政府の公式見解ではありません。 ところが70年以上前ですが、韓国は外交ルートを通じて日本に対し「対馬は我が属領だから返還を要求」しました。 つまり政府の公式見解だった時期があるのです。 この事実はほとんど知られていませんが、韓国内では今でも「対馬我が領土説」が根強く残っていますから、これも含めて知っておいた方がいいと思います。

 水野俊平さんが著書のなかでこの「対馬領土説」に触れていますので、これを紹介します。 水野さんは韓国の歴史・文化等について、一般向けにちょっと面白おかしく書いたものをいくつか出版しています。 しかし元々まともな実証主義的研究者ですから、事実関係については信じていいと思います。 『韓vs日「偽史ワールド」』(小学館 2007年3月)の166~177頁に、「第5節 対馬は韓国の領土」という小見出しの一節があります。 このなかから主なものを引用します。

1948年1月、過渡政府(韓国政府の樹立以前なので「過渡」がつく)立法委員会で立法委員60名が「対馬は元々韓国の領土だったのであるから、対日講和会議で返還要求をすべきだ」と提案し、同年8月(韓国政府が樹立された)には李承晩大統領が「対馬島の返還」を日本に要求している。 これに対しては日本側の抗議があったが、9月には韓国の外務部が抗議に反駁する形で「対馬は我が国の属領」とする声明を発表している。 翌年の1月7日には李承晩大統領が新年の記者会見で対日講和会議への参加計画を明らかにする席で、対馬の領有権を重ねて主張した。 

李大統領は昨7日午前10時半、中央庁第一会議室で内外の記者と年頭の記者会見を開き、当面の諸問題に対して、ともに一問一答した。

李大統領: この問題(対日賠償請求)は関係者と協議しなければならないものであるが、私の考えでは壬辰乱(秀吉の朝鮮出兵のこと)まで遡及して請求したいが、だいたい、過去40年間我が国から搾取したものを要求する。 特に対馬返還をこれに含める考えだ。 (以上 171~172頁)

 対馬返還を公式に要求した韓国の動きに連合国(アメリカ等の講和会議当事国)が制止し、李大統領はこれ以降、対馬発言をしなくなりました。 そしてその後の日韓会談や1965年の日韓条約では、対馬は何も問題になりませんでした。

 ところが1990年代に入って、韓国では再び対馬返還要求の声が上がります。

96年2月13日に開かれた国会の統一外務委員会では‥‥金元応委員は孔魯明外務部長官に対して次のような質問を行なっている。

我が政府は対馬島の返還要求をして、対馬の領有権回復の前段階として対馬を紛争地域化するのが当然とであると考えます。 我が民族は対馬に対して長い間「故土意識」を持ってきました。 ‥‥私はこのような歴史的に明らかな根拠を持っている対馬島の領有権を回復するために日本に対馬返還を我が政府が公式的に要求しなければならないと考えます。

これに対して、孔魯明外務部長官は「対馬に対する我々の領有権主張は日本の独島(竹島)領有権主張をさらに激しいものにする恐れがあり、政府としてそのような主張をすることは望ましくないと、このように考えております」と答弁している。 (以上 170~171頁)

 ウィキペディアで「対馬島返還要求決議案」を検索してみると、2008年にも国会議員50名が対馬返還要求の決議案を国会に提出したとあります。

 また水野さんの本によると、対馬返還を実現するために対馬に韓国の国花であるムクゲを植える運動があるそうです。

黄ベクヒョン氏が04年4月に行なわれた国会議員選挙で配布したビラには、対馬関連の公約がちゃんと載せられている。

対馬島をムクゲの花畑にし、100年後大韓民国を文化国家にすれば、失った対馬は自然に我が領土になります。 これを成し遂げるために私をはじめとする「対馬島ムクゲ花畑づくり運動本部」の会員は毎年ムクゲを植えています。

公約で「対馬を韓国の領土にする」と主張するのは自由だが、黄氏の行為は明らかに植物検疫法違反である。(以上167~168頁)

 同じく上記のウィキペディアによれば、2012年に市民団体「対馬奪還本部」が発足したとあります。

 対馬が韓国領土だなんて我々から見れば荒唐無稽でしかありませんが、ナショナリズムはどこにどう広がるか分からないものです。 何をアホなことを言っているのかと思いながらも、注視しておく必要があるでしょう。