李青若(2)―「あなたは同化しているね」2022/12/06

https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/11/30/9544668 の続きです。

 李さんは ある日本人から戸籍制度について議論を持ちかけられます。

「日本では、個人では世帯を単位に行政が国民を管理している。 戸籍制度にはいくつかの弊害があるから撤廃するべきだと思う。 日本以外にこの制度を取っているのは韓国と台湾だけで、これは日本の植民地政策が発端なんだ」

相手のいわんとしていることは「戸籍制度という悪いものが韓国にあるのは、日本の植民地支配のせいだ」と聞こえた。‥‥ 戸籍制度の発端はどうであれ、韓国が自分の責任で決めていることなのだから、日本は関係ないことだと思う。 相手は、自分の主張を強めるために韓国を持ち出してきただけで‥‥

私がいつまでも「日本批判」に同意しないでいると、その人は一言いった。 「あなたは同化しているね」 わたしは気分が悪くなった。

在日の人間なら、自分と同じ意見だとでも思っているのだろうか。 日本人が、自分の抱いているイメージに合わない外国人に対して「日本人に同化している」と非難するとは、どういうことだろうか。(以上155頁)

 反体制思想を持っている日本人が、在日韓国・朝鮮人もきっと自分に賛成してくれるはずだと思うことは、よくある話でした。 なぜそんな考えを持つようになったかと言えば、世に出ている在日に関する本が民族受難の歴史とか差別の現状とか、要するに被害者性ばかりを強調するものが多く、在日というのは日本に対して不満・反発を持っているのだというイメージを与えていたからです。 左翼・革新系のような反体制志向の人たちはそういう本を読んで、自分は在日に理解のある日本人であり、在日は自分と意見を同じくしてくれるものだと思うようになります。

 李さんは、そのあたりを次のように語ります。

私が日本批判に同調しないと、「同化している」とか「韓国人としての自己規定ができていない」という人が、日本人にも在日にもいる。 彼らは、すべての在日に被害者の役割を演じることを期待しているのだろうか。(156頁)

 李さんはその具体的な体験をすることになります。 「マイノリティグループの実態をその構成員が話す」というテーマの授業で自分の意見をスピーチしたところ、担当の先生が次のようにまとめました。

彼女のソフトな見解が出ていて、温厚な意見でしたね。 けれども実態はもう少し違いますね。

そして教室を出ると、先生はぽつりと言ったのだった。 「どうしてあんなことを‥‥あなたは同化しているからですかね」

私はこの時はっきりと、「同化している」という言葉で自分が非難されていることに気がついた。(以上173頁)

 この先生は反体制思想を持つ典型的な左翼・革新系の人ですねえ。 彼は、在日は日本が加害者で自分たちは被害者だと思っているはずだ、そんなことを思っていない在日は日本に同化してしまっているのだ、という考えになっています。 それに対し、李さんは次のように言い返すことを決めます。

「失礼なことを言わないでください。 あなたのような日本人には同化していません」(173頁)

【拙稿参照】

「同化」は悪だとされた時代       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/02/15/8018723

「差別・同化政策」考      http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daigojuuyondai

在日朝鮮人は外国人である    http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuudai

(続)在日朝鮮人は外国人である http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuuichidai

消える「在日韓国・朝鮮人」   http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daijuukyuudai

「同化教育」考       http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daikyuujuunidai

水野・文『在日朝鮮人』(21)―同化 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/23/8197450

李青若『在日韓国人三世の胸のうち』(1)―強制連行 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/11/30/9544668