朴沙羅さんの思想転向2023/08/16

 8月10日付けの毎日新聞に 「ヘルシンキ大講師・朴沙羅さんが感じた戦争 みんなの国家だから‶守る″」と題する、朴沙羅さん本人を取材した記事があります。  有料記事ですので、関心ある方は図書館にでも行って見てください。     https://mainichi.jp/articles/20230810/dde/012/030/013000c

フィンランドは意外に軍事的な国だ。 両親が社会運動家という朴さんは、ウクライナで戦争が始まってから何を感じてきたのか?

というのが記者(鈴木英生)の取材趣旨です。 まず朴沙羅さんは今39歳だそうで、3年前にフィンランドに来てから思想を変えたといいます。

開口一番「フィンランドで考え方が変わりました。 特に国家と戦争について」。

 それでは、彼女はそれまでどのような考え方をしていたのか。 実は彼女は左翼・リベラル的な思想を常識とするような環境で育ったといいます。

「国家権力は民衆を抑圧する」「あらゆる戦争を拒否すべきだ」が常識の環境で育った。 

 どのような「環境」だったのか、少し詳しく出てきます。

父は在日コリアン2世で、教員をしながら民族運動に関わった。 父方の祖父は、戦後の混乱期に韓国・済州島の虐殺事件から日本へ逃れた。 日本人の母は学生時代からさまざまな運動に参加し、母方の祖父母は反戦活動家。 生まれてからほぼずっと、学生運動文化の残る左京区、京都大近くに住み‥‥

 父母も祖父母も左翼・リベラルの活動家であり、またそのような思想を色濃く残す京都大学周辺にずっと住み続けてきたということです。 要するに家族も周辺の人たちも、みんな同じような左翼・リベラル思想を有していたというのですねえ。 ですから彼女は生まれた当初から左翼・リベラル思想に囲まれて育ってきて、多様性というものから程遠い環境だったと言えるかも知れません。

 その彼女が2020年の春に、フィンランドのヘルシンキ大学講師として赴任します。 そして2年後の2022年2月に、ロシアはウクライナに侵攻し、戦争が始まりました。 フィンランドでは直ぐ近くで始まった戦争によって、世論が燃え上がります。

昨年2月の開戦以降は白熱した。 世論は北大西洋条約機構(NATO)加盟に雪崩を打ち、ほぼ全政党が賛成。 連立与党の党首は「ロシアが我々を裏切った」と声を震わせた。‥‥ウクライナの事態を見れば、もはや信用できぬ。 西側の軍事同盟に入るべし! 

 彼女はビックリします。

「あの地味な人たちが、こんなに熱くなる?」と驚くばかり。 元々、第二次大戦期に「旧ソ連と戦い、自分たちで国を守った」のが国民的誇りだ。 徴兵制は当然視され、軍事への忌避感も薄い。 以前に見た軍事博物館の展示は「戦争は悪」という前提が皆無で、衝撃を受けた。

 そして彼女は同僚の台湾人から次のように話しかけられ、自分に戦争の切迫感がないことに気付きます。

昨年3月ころ、台湾出身の政治学者の同僚に言われた。 「沙羅はいいよね。 日本国籍があるから、安全な日本に逃げられる。 私はどこに逃げればいい?」 フィンランドが今後も絶対安全とは限らない。 だが同僚は台湾に逃げても中国の脅威がある。 朴さんは「彼女の、台湾の切迫感を全く分かっていなかった」と悔やんだ。

 彼女は以上のような体験から、自分たちも身近に起きるかも知れない戦争の可能性を考えるべきだと説きます。

「日本で生まれ育った私は、身近に戦争が起きることを、心底は想像できていませんでした。 でも(フィンランドでは身近なウクライナで)起きた。 今後もその可能性があるなら、どうするかを考えておくべきです。」

「だから自分たちが築いてきた社会(日本)に適切な自信を持って、守ってほしい。 フィンランドのように」。 軍事的に? 「それだけでなく、国家や戦争などについての自らの思考の惰性からも、でしょうか」

 ここでは自分たちの日本に自信を持ち、他からの攻撃に対し軍事的に日本を守るだけでなく、反戦至上主義のような「思考の惰性」からも日本を守るべきだとします。 「国家は民衆を抑圧する」「戦争は悪だ」とする左翼・リベラル思想からの離脱と言えるでしょう。

 そして彼女は日本の左翼・リベラルに対し、次のような批判を展開します。

日本では、左派系識者らがロシアとウクライナ双方に「即時停戦」を求める運動を始め、朴さんの知る人も参加した。 「ならば、日中戦争でも中国は停戦すべきだったと? 筋が通らない‥‥」。 彼らの主張は、日本の植民地支配や侵略の加害責任を追及してきた、これまでの姿勢と矛盾していないか。

 ロシアがウクライナに侵略戦争をしかけたのに、日本の左翼・リベラルたちはロシア側の責任を問わずに双方に「停戦」を求めている、それはかつて中国・朝鮮を侵略した日本の加害責任を追及してきた彼ら自身の思想と矛盾していると、彼女は喝破しました。

「欧米がウクライナを操り、戦争を続けさせている」などと唱える活動家も。 「戦争はダメ」という思いだけでは現実を理解できず陰謀論に陥ったようだ。

   陰謀論といえば右翼の専売特許のようなイメージがありますが、実は左翼・リベラルも陰謀論にはまっていると、彼女は喝破しました。

 最後に取材記者は朴さんの著書から次の言葉を紹介して、記事を終えています。

国家と制度は、あなたの個別の幸福を支えるために存在している(ヘルシンキ 生活の練習)

 以上、朴沙羅さんの記事を長々と紹介してきました。 左翼・リベラルのドグマ的イデオロギーから脱して、現実・実際に即して考えるという思想変遷(転向)したというのは、それなりに興味深いですが、私が関心を寄せたのはそこだけではありません。

 彼女の父親はひょっとしたら、生まれてくる娘に「朴」という民族名をつけるために敢えて出生届を出さず、また指紋押捺拒否運動等で各地に講演して雑誌等にも投稿しておられた、あの有名な「朴容福」さんではないか、ということです。 断定はできませんが、かなり可能性が高いと見ています。 朴容福さんについては下記の拙稿をご参照ください。

【拙稿参照】

第75題 出生届を出さない親   http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainanajuugodai

朴容福さん      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2008/05/09/3492856

コメント

_ tabcj ― 2023/08/21 14:14

その推測は事実ではありません.
私は記事の朴さんの知人ですが、ご両親とも関西の方ですので
(お父様にも一度だけお会いしたことがあります)
辻本さんのご推測は事実でないことを知っております.
一応,御本人の知人として記事を読み気づいたのでお書きしました.

_ 辻本 ― 2023/08/21 16:20

そうですか。 父親は朴容福さんではないのですねえ。
朴容福さんは、自分の娘が「朴沙羅」であり、妻が日本人であることも明かしていましたので、その方かなあと推測したのですが、違うんですねえ。
ご指摘、ありがとうございました。

_ 大森 ― 2023/08/23 14:01

すごい偶然ですね
でもぐぐってみると講師の沙羅さんは1984年生まれのようなのでやはり別人の様ですね

_ tabcj ― 2023/09/07 17:33

記事の朴さんはもともと京都の方ですし,
ご両親も関西の方です.

別人なのは間違いありません.

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