閔妃の写真―決着はついたはずだが‥(2)―中央日報2024/06/06

http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/06/01/9689180 の続きです。

服飾専門家のC氏は(写真②)の顔の化粧と頭部装飾の떨잠(かんざし)に注目した。 顔の様子で、遠い山を描くように眉を吊り上げて描く化粧技法は遠山黛として貴い身分の女性だけがすることのできるもの、そして頭のかんざしは尚宮くらいの身分ではすることができないものだと言った。(朝鮮日報 シン・ヒョンジュン記者のブログ)(写真②)と(写真⑤)の下半身の姿勢が似ていることも見逃してはならない。 王妃の写真論争で、ある人は王妃がどうして脚を広げることができるのかと言い張った。 反対に見なければならない問題だ。 (写真①)の王や大院君の色んな写真で見るように、王室の人は一様に脚を揃えていない姿勢である。

写真①: http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku32dai.jpg

写真②: http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku33dai.jpg

写真⑤: http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku36dai.jpg

 떨잠は豪華な装飾が付くかんざしです。 身分の高い人だけでなく、高級妓生もつけていたように思うのですが‥‥。 また王妃が脚を広げるかどうかについて、これは何とも分かりません。 ただ朝鮮の女性は、裾が大きく広がるチマを穿いている関係で、脚を広げる或いは胡坐をかくことに違和感はないようです。 その点は、日本では女性が脚を広げることをはしたないと感じるのと感性が違います。 しかし朝鮮の王妃が脚を広げることについては、資料が見つかりませんでした。  

(写真④)は、10年後の1904年にイタリア外交官カルロ・ロゼッティの『韓国と韓国人』 に載ったもので「礼服姿の宮中貴婦人」という説明が付いた。 時系列上、撮影者は日清戦争開戦前後に王室を訪問したフランクGカーペンターだけである。 1894年頃に撮影されたものだという話だ。 問題の(写真⑤)は、この写真の背景を消して変造したものである。 この写真の背景は「宮女」または「尚宮」がいる空間では決してない。 「宮女」の写真として作ろうとするなら、品格があふれるその背景を消せねばならなかった。

写真④: http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku35dai.jpg 

写真⑤: http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku36dai.jpg 

 最後の「『宮女』の写真として作ろうとするなら、品格があふれるその背景を消せねばならなかった」というところは、パク・ジョンインさんという歴史家が厳しく批判しています。 この批判は、次回に掲載します。

フランク・カーペンターの記事は、日本側の影響が漂っている。 戦争の広報雑誌の代表格である『風俗画報』(東陽堂)10月28日付けの第1回「日清戦争図絵 臨時増刊号」に載った幾つかの文章は、清国の陰で虐政を行なう王妃閔氏の勢力除去の必要性を何度も強調している。 王妃閔氏が金玉均殺害の主体であり、東学農民軍蜂起の原因だと言っている。 カーペンターの記事はこの日本の論調をそのまま引き写したような感じである。 何か間違って聞いたのか、閔氏の権勢が朝鮮王朝開創時から始まったと書いてもいる。 東京で外国記者が日本側の取り締まりを受けたとする以外に考えられない内容だ。 2年前のド・ゲルヴェルの文章とは全く違う。

 ここで論者の考え方が分かりますね。 外国人の記事でも自分にとって都合の悪いことを書いておれば〝日本から圧力を受けて歪曲した″、都合のいいことがあれば〝真実を書いている″、という論理展開です。

1894年7月23日0時からの日本軍の景福宮侵入は、王妃が東アジア混乱の元凶として殺害しようとした作戦ではなかったのか? この殺害陰謀に深く関わった「国民新聞」は、作戦失敗のために関連記事が不発となってしまい、それまで準備しておいた「宮女」挿画を知らず知らずに出してしまったという「編集事故」を起こしたのではないか?

 ここは論者の根拠ない憶測が続くところで、記事では「?」マークを付けています。 酒席の与太話ではなく、有名な歴史家が広く公開されることを前提に書いていますから、ビックリですね。

王妃の写真は、1895年10月8日朝、8人の将校が率いる46人の壮士が乾清宮で王妃を弑逆した時に、実際に確認用として使用された。 「国民新聞」が誤報として出した「宮女」フレームは日露戦争後に真実として固定した。 彼らは弑逆後、王妃写真が抗日闘争の核心材料となることを憂慮した。 明白な反人倫の二次加害行為だ。 王妃の写真の真偽論争は、そのフレームに凝り固まった消耗的行為に感じられて悲しい。

 閔妃暗殺事件の際に、殺害者の日本人たちが閔妃の写真を持って行ったという話はもう否定されたと思っていたのですが、ここでまた復活しています。 そして論者によると、日本はその写真が抗日闘争の材料になるのを恐れて改竄したと主張しています。 それは「明白な反人倫の二次加害行為」だそうです。 そして王妃写真の真偽を論争することは「消耗的行為」だそうです。 歴史を論じるのに根拠のないことを並べ立てて、このような抽象表現をすることはプロパガンダでしかありません。 歴史研究者のすべきことではないでしょう。

李泰鎮 ソウル大学教授。 学術院会員。 診断学会会長、歴史学会会長、学術団体連合会会長、国史編纂委員長等を歴任した。 著書として『高宗時代の再照明』『東京大生に聞かせる韓国史』など多数ある。

 論者の李さんは韓国の歴史学界の重鎮なのですが、今回発表された論考を読むと、研究者としてかなりの疑問を抱かざるを得ない方ですねえ。 

 この『中央日報』の記事に対する反論が、韓国のユーチューブに出ました。 次回はこの反論を紹介したいと思います。 (続く)

【挿図写真・絵画の一覧】

写真①: http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku32dai.jpg

写真②: http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku33dai.jpg

写真③: http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku34dai.jpg

写真④: http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku35dai.jpg

写真⑤: http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku36dai.jpg

絵画①: http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyaku31dai.jpg

【拙稿参照】

閔妃の写真はなかった  http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dairokujuuhachidai

(続)閔妃の写真はなかった http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainanajuusandai

コメント

_ (未記入) ― 2024/06/06 13:47

日本にも結構、驚くような主張をする大学教授が未だにいるので、隣国のことは一概にけなせませんが・・・左右問わず、イデオロギーに毒された主張は聞いていてウンザリしますね。
人文系の学部は、今も昔も思想から距離を置くのは難しい・・・とはいえ分野にもよりますが、例えば近代以前の日本史学会などは、だいぶそうした色が抜けてきたようですね。かなり実証的な研究をしている印象を受けます。

_ 竹並 ― 2024/06/08 07:48

>【辻本さま:…  閔妃暗殺事件の際に、殺害者の日本人たちが閔妃の写真を持って行ったという話はもう否定されたと思っていたのですが、ここでまた復活しています。 そして論者によると、日本はその写真が抗日闘争の材料になるのを恐れて改竄したと主張しています。】

中等教育の日本史レベルの知識しか持ち合わせない、僕の場合… 「閔妃(びんひ、ミンビ)の写真」の問題(question)は、10年前?、韓ドラ(=韓流ドラマ)に関する宮脇 淳子(教授)のyoutube動画で知りました。
日本人の壮士が閔妃の「写真」を手にして、(アマタ女官の犇めく、後宮に押し入って)同妃を特定し、誅殺に及んだ、という事件なんですが… 核心にあるのは、推理小説めいた疑問で、下手人が誰にせよ、(写真1枚で)面識のない閔妃を特定し、殺害できたのか、という疑問ですね。

不穏当な話ですが 「宮廷革命」という背景では… 個人的に思浮かべるのは、インドネシアの(1965年)9.30事件で、デビ夫人の危うい状況ですね(巻き添えにならなかったのは、僥倖か?と)。

_ 辻本 ― 2024/06/08 14:05

>(写真1枚で)面識のない閔妃を特定し

 写真で確認したのではなく、周辺の女官たちを詰問して特定したようです。
 暗殺には禹範善などの朝鮮人も参加していましたから、詰問は可能でした。

 むしろ驚きは、死を覚悟して王妃を守ろうとした女官がいなかったこと、事前に訓練もしていなかった数十名の軍人・壮士らの俄か混成部隊に王宮の最奥部まで侵入されて王妃が殺されたこと、襲撃した部隊に死者が出なかったということは王宮警備兵は何をしていたのか、ということですね。

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