韓国の進歩派の解説―木村幹 ― 2025/06/08
韓国では、6月3日の大統領選挙で進歩派の李在明さんが勝利し、翌日から新政権が出帆しました。 3年ぶりに進歩派が政権を取ったことで、日本でも様々な論評が繰り広げられています。
ところで韓国の進歩派について、私は1980年年代までは韓国の民主化運動に賛成していましたので、それなりに理解できていました。 しかし1987年に今の憲法が制定されて民主化が成し遂げられて以降、進歩派が理解できなくなっていきました。 それでも韓国では有力な運動の流れですから、それなりに関心を持ってきました。
昨日の2025年6月7日付けニューズウィークで、木村幹さんの「『韓国のトランプ』李在明、ポピュリズムで掴んだ勝利の代償とは?」と題する論稿があり、その中で韓国の民主化運動について簡潔に解説してくれていて、参考になりましたので引用・紹介します。 https://news.yahoo.co.jp/articles/fcd310d9609cbd77416c6c49839899f394649efb
木村さんによると、新大統領は進歩派の主流ではなく、傍流だそうです。
彼の経歴を見ると、明らかな特徴がいくつかある。 1つ目は李が進歩派陣営の中でも傍流を歩み続けたアウトサイダーだということである。 2つ目の特徴は盧や文と異なり、李が民主化運動に参加した経歴を持たないことである。
傍流の李在明政権がどのような政治・外交を行なっていくのかは、これから見ていくしかありません。 傍流として独自な考えで実行するのか、あるいは主流に合流してその一員となって継承するのか‥‥。 それはともかく、それまでの進歩派の主流はどういう考え方をして、どのような政策を打ち出したのか、先ずはそれから見る必要があります。
進歩派の主流は次のような考え方を有していたと、木村さんは解説します。
盧(武鉉)から文(在寅)へとつながるかつての進歩派の主流の人々は、1987年の民主化運動において一定以上の役割を果たした人々であり、それ故に明確な世界観を共有していた。
彼らに言わせれば、権威主義体制期に韓国を支配した今日の保守派につながる人々は、かつての植民地支配期における日本への協力者、韓国で言うところの「親日派」の末裔であり、こうしたかつての「親日派」につながる少数の人々の支配が、政治の世界においてのみならず、韓国の経済や社会、さらには学術の世界にまで広く及んでいると認識した。
だからこそ彼らは、この保守派による支配の打破が民主化であり、「国民」の手に権力を取り戻すことだと考えた。
言い換えるなら、盧や文にとって民主化とは、単なる政治における民主的要素の導入にとどまらない意味を持っていた。彼らはその延長線上で国際社会についてもこう考えた。
保守派の支配を支えてきたのはアメリカとそれを支配する多国籍企業である。その背後には北朝鮮からの脅威にさらされる韓国が、アメリカとの同盟関係なしに、自らの国家を維持できない状況がある。
だからこそ、保守派の支配を打破して、「国民」の手に国家を取り戻すためには、国内における民主化運動の展開のみならず、北朝鮮との間での平和的関係の構築が必要である。こうして朝鮮半島とその周辺に平和がもたらされれば、アメリカに依存しない体制が可能になる。
結果、アメリカに支援される保守派の支配は終わり、「国民」が支配する「真の韓国」が実現できる──と。
なるほど簡潔で分かりやすいですね。 特に文在寅政権は内政にしろ外交にしろ、何故あんなことを言って実行していくのか、見ていてちょっと理解できなかったのですが、これを読んで、なるほどそういう考えだったのか!と妙に納得した次第です。 だから木村さんのこの分析は正鵠を得ていると考えます。 新大統領はこのような本流ではなく傍流ですが、それでもある程度の方向性は見えてくると思われます。
ところで日本では昔から韓国の民主化運動=進歩派に肩入れする人が多く、反対に保守派に肩入れする人はごく少数でした。 またそういう韓国内の対立から離れて、客観的に分析する人はほとんどいなかったように思います。
そういう中で30年以上前とちょっと古いですが、田中明さんが〝民主化運動の担い手は李朝時代の両班の後裔”とする論稿を書かれていて、〝なるほど、そうだ!”と感心したことがあります。 また3年前の韓国の有力紙『朝鮮日報』で、両班の理念が現代の進歩派に復活していると論じる論稿がありました。 韓国の進歩派はこういう視点で分析することが有効だと考えます。 合わせてお読みいただければ幸甚。
「通常‐両班社会」と「例外‐軍亊政権」―田中明 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/06/07/9497623
「例外」が終わり「通常」に戻る―田中明(2) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/06/14/9499717
「両班」理念が復活した韓国―『朝鮮日報』(1)http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/05/17/9491298
李朝の「両班」理念が復活した韓国(2) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/05/24/9493453
李朝の「両班」理念が復活した韓国(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/05/31/9495653