韓国刑務所の歴史歪曲 ― 2025/07/28
『週刊朝鮮』2865号(2025年6月30日)に、クム・ヨンミョン刑務所研究所長「刑務所は忌避施設ではなく基盤施設」という論稿が掲載されました。 彼は韓国の刑務所等の矯正施設に長年勤められた人で、彼の発言には重みがあります。
彼は韓国の刑務所の歴史を概説し、近代の刑務所は懲罰ではなく矯正が目的の施設であると論じました。 その中で、韓国で語られる刑務所の歴史には歪曲があると苦言を呈する部分がありました。 興味深かったので、その部分を訳してみました。
なぜ我が国の認識が特に否定的なのか
クム所長―「朝鮮時代まで、監獄は処罰のための場所だった。 ところで懲役刑が導入されて『監獄』という新しい制度が入ってくる。 あろうことか、その時期が植民地とつながって、人々は監獄制度について否定的な認識を持つようになった。 監獄や行政システムを導入できる力量がなかった時代、学校や郵便局のように日本のものと受け入れただけで、それをただ否定的に見る視覚が残っている。 研究者たちが偏向した視覚で接近した結果だ。 だから韓国で矯正についての研究はほとんどなされないでいる。 人権蹂躙の話はずっと出てきているが、収容空間の不足による過密収容問題が人権侵害につながる問題については誰も関心を抱かない。」
そういえば韓国では刑務所の歴史について、〝独立運動家や民主化闘士などの思想犯が刑務所でどれほど過酷な扱いを受けたか”という話が多いですね。 しかしそもそも刑務所というところは、殺人・強盗・詐欺などの刑法犯の囚人が多数収容されています。 そんな刑法犯は、思想犯よりもはるかに上回る数でした。 ところが韓国では刑務所といえば後者の思想犯の処遇ばかりが取り上げられていて、刑務所そのものの歴史が研究されていなかったのですねえ。
具体的にどのように歪曲されているのか
クム所長―「例えば韓国の矯正を代表する場所である西大門刑務所歴史館でも、多くの歪曲が存在する。 歴史館のコンテンツは最初から西大門区庁の職員らが独立記念館の資料を持ってきて準備し、その過程で誤謬が発生した。 刑務所では実際に独立運動家たちを組織的に拷問しなかったのであって、拷問は主に鐘路警察署で行なわれた。 しかし歴史館では拷問館が設置されていて、柳寛順烈士を中心にした過酷行為を中心コンテンツとして展示されている。 写真パネルにも誤謬が多く、このような展示によって年間65万人になる観覧客、特に外国人に間違った情報が伝わっている。 これは独立運動中心の偏向した解釈による歴史的事実が歪曲されているという点で訂正する必要がある。」
戦前の日本では朝鮮なども含めて、特高などによる拷問はよく聞く話です。 拷問の目的は共産主義や独立運動の組織を解明することにあります。 そのための手段の一つが拷問だったのですが、実は拷問で得られた情報は価値のあるものが少ないのです。 それよりも、自ら進んで供述する情報が確かであり価値あるものだったのです。 だから特高は〝どうやって転向させて進んで自供するようにもっていくか”の方に力を入れていました。 その方法の一つとして例えば、一人の容疑者に激しい拷問をするところを他の容疑者たちに見せると、それを見た彼らは恐れおののいて何の手も加えていないのに自ら進んで供述するようになるというのがありました。
それはともかく、拷問は組織の解明が目的ですから、拷問をやるのは警察署です。 刑務所は取り調べも裁判もすべてが終わって刑に服するところで、しかも事件からかなりの時間が経っていますから、もはや組織の解明なんかは済んでいます。 従って刑務所では拷問は必要ないのでした。 ただし収容者が暴れたら制圧し制裁を課すために暴力を振るうことはあったでしょうが、それは拷問ではありません。
今の韓国では、〝西大門刑務所では独立運動家たちは日本の官憲によって過酷な拷問が受けた”とされています。 しかしクム所長は「刑務所では実際に独立運動家たちを組織的に拷問しなかったのであって、拷問は主に鐘路警察署で行なわれた」と批判したのでした。 このような批判は韓国では珍しいので、私は注目したわけです。 韓国でこのような事実に基づく歴史研究の流れになっていってほしいと願っているのですが、難しいでしょうねえ。 韓国においては〝日本の植民地支配は過酷で残忍だった”という歴史でなければならず、そういった歴史像が要求されます。
西大門刑務所について、下記のようなユーチューブがあります。 参考のため、合わせて視聴してほしいと思います。 日本語字幕がついていて、分かりやすいです。
「慟哭のポプラ」の真実/그곳의 진실 https://www.youtube.com/watch?v=xTrf0Ej6Sfo
【拙稿参照】
戦前の拷問のやり方 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2010/11/07/5479466
赤松啓介の思い出 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2010/09/17/5351878
赤松啓介の思い出(続き) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/07/22/6518872
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