4・3事件―島民はなぜ黙ってきたのかを想像する2026/05/27

https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2026/04/03/9845845 の続きです。

 4・3事件がどういうものだったのか、金時鐘さんは『朝鮮と日本を生きる』(岩波新書 2015年2月)に詳しく書いておられます。 ただし彼は南労党の党員でしたから、内容は武装蜂起を肯定する立場です。 また彼は講演でもこの立場で語っておられます。 彼だけではありませんが、マスコミや集会などで語られている事件は、〝島民らが祖国の分断に反対するためにやむにやまれず立ち上がった”というようなイメージがほとんどです。 それは〝善”は蜂起した「島民=南労党」であり、〝悪”はこれを過酷に弾圧した「軍・警・右翼」と単純に二分化するものです。 しかしそれでは事件の真相が見えてこないと考えます。 分かりやすく説明するために、ちょっと単純化してお話します。

 朝鮮民族はよく知られている通り、祖父母・父母・伯父・伯母等々の一族親戚が十人以上の単位、もう少し遠い親戚を含めると「八寸=八親等」ですから百人以上となるだろう、そんな血縁共同体を形成しているのが一般的でした。 4・3事件の時、この大家族=一族親戚のなかで何人かが南労党に入り、何人かが警官になったり選挙管理人なったりして権力側についたのでした。

 権力側(軍・警)は反権力側(南労党)を討伐するために、家々に入り込んで「南労党はいるか?!」と捜索し、見つければ即座に殺すか、引っ張り出して公開処刑していきます。 対して南労党遊撃隊は警官や右翼の家、地元有力者を襲撃し、時には家族までも殺していきます。 このような権力側と反権力側との殺し合いが、全島で行なわれたのでした。

 金時鐘さんの一族親戚も、このような殺し合いに巻き込まれます。 彼は『朝鮮と日本を生きる』で、親戚の南労党員が軍・警によって殺害された事件について、次のように記しています。

狂乱の虐殺はついに、私の身近な従姉の夫にまで及んできました。 惨殺された屍体をまじまじと見たのは、この時が初めてです。 ‥‥日本から引き揚げてきてまだ3年も経たない、高南杓という実直な40がらみの男でした。 (220頁)

 次に金さんが警察から逃げ回って叔父の家で匿われていた時、その叔父が南労党によって殺害されました。

かくまってくれた叔父貴(母方の)があろうことか、武装隊(遊撃隊)の手によって殺されてしまうのです。‥‥ 区長の家ですので‥警察の上役あたりがしょっちゅう出入りします。 そのつどちょっとした酒食をもてなしてもいたようです。  それが武装隊には討伐隊(軍・警)に肩入れしているように見えたのでしょう。‥‥ 明け方に襲ってきた武装隊に腹部を二ヶ所も竹槍で刺された叔父貴は、腸をはみださせたまま裏の石垣をよじのぼって裏の小道に落ちました。 それでもすぐには死ななくて、七転八倒の苦しみが3日も続きました。 (228~229頁)

 南労党は、敵と見た金時鐘さんの叔父を無惨に殺害したのでした。

 金さんの一族親戚のうち二人が犠牲になりました。 ここで、ふと疑問が思い浮かびます。 親戚のうち大部分は権力(警察などの行政関係)も反権力(南労党)も関係ない人たちでしょう。 特に女性は大半が学校にも行ったことがありませんから、「選挙」やら「民主」などのイデオロギー的知識もほとんど分からなかったはずです。 ところが自分の身内の中に互いに対立を演じる権力側(警察など行政関係者)と反権力側(南労党員)とがいて、実際に殺害されたのでした。 彼らはその身内の惨殺をただ見るしか出来なかったのですが、その時の気持ちはどうだったのでしょうか?  金さんの著作にはそこまで触れていないようです。 それが私に疑問を抱かせるところです。

 この疑問を抱いた時、世に広まっている「4・3事件」の説明には、南労党や警察等とは直接関係ない一般島民から見た事件というものが語られていないことに気付きました。 それは殺し合いをするほどに対立している南労党と警察等の両方が自分の身内にいるという中で、ただひたすら右往左往するしかなかった一般島民のことです。

 想像してみてください。 葬式や法事、結婚式などで親戚一同集まるなかで名前も顔も知っている○○ちゃんは南労党、□□ちゃんは警官となって殺し合う関係になっている場面を‥‥。 そこにいる人たちは、いざ殺害が始まれば仲裁することもできず、どちらかの味方にもなることもできず、ただ黙って見ているだけの場面を‥‥。

 こんな想像をしてようやく済州島民たちの多くが事件を話さず黙っている理由が分かってきました。 顔も名前も知っていて、しかも何か事があれば互いに助け合ってきた一族郎党のなかに敵対し合う南労党員と警官がいる、そして実際に殺されるところを見る‥‥、これが4・3事件の現実であったが故に島民たちは黙るしかなかったと想像されるのです。 

 想像が過ぎたのも知れません。 ただ4・3事件は余りにも悲惨で、済州島出身の在日僑胞ハラボジ・ハルモニが何も喋らないし喋ろうともしてこなかったことに、そんな想像をしてしまうのでした。

  

【南労党の4・3赤色テロ】

済州島4・3事件の赤色テロ(1)   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/10/8890890

済州島4・3事件の赤色テロ(2)   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/18/8896622

済州島4・3事件の赤色テロ(3)   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/23/8900976

済州島4・3事件の赤色テロ(4)-警官家族へのテロ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/30/8906338

済州島4・3事件の赤色テロ(5)―右翼家族へのテロ  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/07/05/8909472

済州島4・3事件の赤色テロ(6)―評価は公平に    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/07/10/8912907

 

【4・3事件を語る金時鐘氏への疑問】

金時鐘氏への疑問(5)―政党加入・4・3事件   https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/04/18/9769221

金時鐘氏への疑問(6)―4・3事件(その2)   https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/04/23/9770375

金時鐘氏への疑問(7)―4・3事件(その3)   https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/04/28/9771478

金時鐘氏への疑問(8)―西北青年団       https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/05/02/9772477

金時鐘氏への疑問(9)―韓国否定と北朝鮮容認  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/05/09/9774295

 

【南労党を隠蔽するマスコミ】

4・3事件-南労党を隠ぺいする読売解説   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/11/19/9000560

4・3事件 南労党を隠ぺいする毎日新聞   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/02/29/9218957

南労党を隠ぺいする韓国マスコミ      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/04/04/9055271

4・3事件―ハンギョレ新聞も南労党を隠ぺい https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/11/03/9537878

韓国映画『チスル』            http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/06/01/7332806

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