創氏改名の誤解―日本名は強制されていない (14)2026/06/17

https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2026/06/10/9859201 の続きです。

 ↑は、朝鮮銀行史研究会編『朝鮮銀行史』(東洋経済新報社 昭和62年12月)987頁に掲載されている本店営業部1944年1月現在の職員名簿の一部です。 クリックすれば拡大します。 名簿に*印が付いた職員が朝鮮人で、23人います。 当時、日本人(内地人)職員は加俸という名目で4~6割の割増手当が支給されていたのですが、朝鮮人職員にはその手当がありませんでした。 また日本人男子職員は徴兵義務があり、朝鮮人職員には徴兵義務がありませんでした。 そういった事情のためと思われますが、職員名簿には朝鮮人を区別する*印が付けられていました。 この朝鮮人職員23人のうち次の6人が朝鮮名(↑では赤の下線をつけています)で、他は日本風の名前です。 

 出納整理主任  閔 泳台

 支払主任    李 璣鐘

 出納整理    陸 鎮鳳

 証券      具 栄洲

 取立      金 泰晋

 計算兼監査   洪 国善

 この名簿の時期である1944年は創氏改名から4年も経っていて、太平洋戦争中であり軍国主義真っ盛りの時代でした。 そして朝鮮銀行は植民地朝鮮において通貨を発行するなど中央銀行の役割をしていました。 つまり経済的「収奪」の大元締めでしたから、日本帝国主義「侵略」の心臓部とも言える存在です。 そこの本店営業部に、日本名に変えずに朝鮮名のままの朝鮮人職員が6名も在籍していたのです。

 創氏改名は「日本が朝鮮植民地支配の際に皇民化政策の一環として、朝鮮人から固有の姓を奪い日本式の名前に強制的に変えさせた、これを拒否しようとしたものは非国民とされ、様々な嫌がらせを受け、結局は日本名に変えた」というような説明がされていますが、そうならばここに記した6人の朝鮮銀行職員は「非国民」だったのでしょうか? あるいは朝鮮銀行は「非国民」を雇用したのでしょうか? そうではありません。 1940年の創氏改名令は日本名を強制するものではなく、先祖から受け継ぐ朝鮮名をそのまま維持してもいいとする法律だったのです。 つまり日本名でも朝鮮名でも構わないとするものでした。 だから朝鮮名の朝鮮人職員が勤務していたのです。 そして彼らは不利益を蒙ることなく社会に暮らすことができたのです。

 1980年代の日本の学校の副読本の朝鮮史には、「官憲は創氏改名拒否者に対し、入学、就職、日本への渡航を邪魔し、行政事務や荷物輸送を受け付けず、労務徴用の対象にしたり、不逞鮮人と呼んでブラックリストに載せるなどした」(神奈川県高等学校教職員組合『わたしたちと朝鮮 高校生のための日朝関係史入門』公人社 99頁)などと解説されていましたが、明らかな誤りですね。 正解は〝創氏は拒否できるものではなく全員が創氏した、それには日本名にする「設定創氏」と朝鮮名のままでいいとする「法定創氏」の二種類があった”です。

行政手続きは基本的に戸籍名で行なわなければなりませんが、その一つが日本(当時は内地)に行く時に必要な渡航証明書でした。 渡航証明には戸籍抄本が必要で、そこには創氏した名前が記されていましたから設定創氏した朝鮮人なら日本名を使うことになり、法定創氏した朝鮮人なら朝鮮名のまま使っていたのでした。 ですから「官憲は創氏改名拒否者に対し‥‥日本への渡航を邪魔し」は、明白なウソです。 こんなウソが日本の学校では教えられていたのです。

 このようなウソの歴史はさらに〝在日朝鮮人は創氏改名で日本名を無理やり付けさせられて、今でも通名(日本名)を使わされている”となり、そして〝屈辱の創氏改名の歴史を学び、通名を捨てよう!”と唱えるいわゆる「本名(朝鮮名)を呼び名乗る運動」が展開されたのでした。 

第21題「本名を呼び名乗る運動」考   http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainijuuichidai

第85題 (続)「本名を呼び名乗る運動」考  http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihachijuugodai

第84題 「通名と本名」考        http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihachijuuyondai

通名禁止、40年前から「左」が主張と実践 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/01/05/6681269

「左」が担った「通名禁止」運動(3)    https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/03/23/9359710

金義晴さんの思い出―本名について       https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/04/17/9676429

通名を本名と自称する在日           https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/07/04/6500499

「部落民宣言」と「本名を呼び名乗る」運動  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/28/9435562

民族運動として「本名を呼び名乗る」は正当なものですが、その根拠として創氏改名のウソの歴史を持ち出すのはいかがなものかと思ったものでした。

 ところで冒頭の職員録↑の中に出てくる「洪国善」は、旧日本軍の将校で敗戦時に戦犯として処刑された「洪思翊」の子息です。 洪思翊は創氏改名でも日本名にすることなく朝鮮名を維持したので、家族も同じく「洪」氏となります。 しかし彼は今の韓国では「親日反民族行為者」と認定され、売国奴扱いされていますね。 日本名に変えず朝鮮名を維持したことは、何ら評価されないのでした。 https://www.asahi.com/articles/ASS5H0R05S5HUHBI019M.html 

 

【創氏改名に関する拙稿(追加分)】

創氏改名の誤解―日本名は強制されていない (12)  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2026/06/03/9857996

創氏改名の誤解―日本名は強制されていない (13)  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2026/06/10/9859201

朝鮮人志願兵初の戦死者                https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/11/02/8719450

日本統治下朝鮮における朝鮮語放送           https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/11/06/8721782

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