水野・文『在日朝鮮人』(4)―矛盾した施策2016/04/25

渡航証明書などによる渡日規制は、朝鮮人が自らの意志と希望にしたがって、あるいは縁故を頼って仕事先を見つけて渡航することを制限するものであったが、労務動員計画の目的は、労働条件の悪さから労働力が不足している炭鉱などで朝鮮人を働かせることにあった。 「自由に」就労先を選ぶ者が増えると、労務動員に支障をきたすことになる。むしろ渡航規制を続けることによって、炭鉱などに朝鮮人を誘導する必要があった。 そのため、労務動員と渡航規制は並行して実施されるものであった。(74頁)

 これが事実であるなら、当時の日本は矛盾した施策を行なったということになります。 つまり実際に渡航証明実務を担当して日本渡航を厳しく制限する部署と、本人の意思を無視して無理やり日本に行かせる労務動員の実務を担当した部署が同時に存在したことになります。 一方ではお前は渡航の要件を満たしていないから日本に行っては駄目だ、しかし他方では渡航要件を満たしていなくても日本の炭鉱には無理やり連れて行ってやるぞ―こんな矛盾した行政を担当させられた役人たちは混乱したと思うのですが、どうなんでしょうかねえ。

水野直樹・文京洙『在日朝鮮人』(1)―渡日した階層 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/06/8066021

水野・文『在日朝鮮人』(2)―渡航証明と強制連行 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/11/8069125

水野・文『在日朝鮮人』(3)―強制連行と強制送還  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/17/8072649