駐キューバ外交官の亡命ー北の人民は統一を望む2024/07/23

 北朝鮮の駐キューバ外交官のリ・イルギュ氏が昨年11月に韓国に亡命しました。 韓国の有力紙『朝鮮日報』が取材し、去る7月16~22日付けで報道しました。 リ氏はこれまで知られていなかった北朝鮮内部の事情を語っており、興味深いものです。 そのなかで私の関心を引いたのは、7月17日付けの下記の部分です。 

金正恩総書記から表彰も受けた北の外交官が韓国に亡命…「北朝鮮住民は韓国人よりも統一を熱望」

また「北朝鮮住民は韓国人よりも統一を熱望している」とし「子どもにもう少しましな暮らしを享受させたいのなら『答えは統一しかない』という考えを誰もが皆共有している」と語りました。

https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2024/07/17/2024071780066.html

 リ氏の亡命は昨年11月ですから「北朝鮮住民はみんな統一を望んでいる」というのはその頃の話でしょうが、わずかに漏れ聞く北の現状から見るに、それは今も変わらないと思われます。 そしてその「統一」というのは、韓国の経済が進出して自分たちを雇ってくれて生活が楽になるとか、韓流ドラマ等の南の文化を自由に見ることができるとか、そういうことを意味するようです。

 しかし金正恩は昨年12月の朝鮮労働党中央委員会で「北南関係はこれ以上同族関係、同質関係ではない敵対的な両国関係」だと演説し、続いて今年1月の最高人民会議で「我が共和国の民族歴史から《統一》《和解》《同族》という概念自体を完全に除去せねばならない」と演説しました。 つまり北朝鮮は、もはや韓国とは統一する相手ではないと高らかに宣言したのでした。 

 金正恩がこのように「統一」を否定する発言をした背景には、北朝鮮人民がみんな「統一を望んでいる」こと、つまり「統一」というのは韓国から影響を受けての「統一」を意味することを知ったからではないか、ということです。

 建国以来79年にわたり、祖父・父親が民族の念願として「統一」と高唱してきたのは北が主導して南を飲み込む「統一」でした。 しかし今の北の人民たちは「統一」といえばそれではなく、南から影響を受ける「統一」を考えるようになっている、とすれば北で「統一」を唱えることは南の主導を受け入れることになってしまう、という危機意識があったのではないか。 分かりやすく言うと、「統一」を叫べば、人民たちは〝分かりました、早く統一して南の経済・文化を受け入れましょう”と反応するようになったということではないでしょうか。

 金正恩は、「統一」という言葉から南への憧憬が生まれ、ついには南に飲み込まれることになるのだから「統一」という言葉そのものを除去せよと命じた、このように思われるのですが、いかがでしょうかねえ。 

金正恩2024年1月15日施政演説(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/01/30/9654884

金正恩2024年1月15日施政演説(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/03/9656008

金正恩2024年1月15日施政演説(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/07/9657120

金正恩2024年1月15日施政演説(4) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/11/9658152