移民の犯罪率は高いのか2021/06/23

 6月21日付け毎日新聞に「データから読み解く『移民と日本』 失業・貧困、社会問題に直結 実態と将来、気鋭の社会学者が新書」という、ちょっと長ったらしい標題の記事がありました。 インターネット版は有料記事なので、勿体ないと思う方は図書館にでも行ってみてください。 https://mainichi.jp/articles/20210621/dde/014/040/004000c

 日本は移民が増え続けており、それに対する不安感も大きくなっています。 そのうちの一つが移民は犯罪が多いのではないか、というものです。 それについて記事では、『移民と日本社会』(中公新書)の著者である永吉希久子さんから取材して、次のように論じています。

永吉さんも参加した研究グループによる2017年の意識調査では、「日本に住む外国人が増えるとどのような影響があると思うか」という問いの2項目「犯罪発生率が高くなる」「治安・秩序が乱れる」について、同意を示した人がいずれも6割を超えた。実際、17年の移民の犯罪率は、日本の総人口における一般刑法検挙人員数割合が0・2%だったのに対し、0・4%程度とされる。だが、これを基に「移民の犯罪率が高いとは断定できない」と本書はいう。どういうことか。

たとえば移民と自国民では年齢や性別などの人口構成が異なり、単純比較はできない。さらに犯罪に至る背景はさまざまで、「貧困などの経済状況やその人が置かれている社会状況も考慮にいれる必要があります」。諸外国の調査結果をみても、少なくとも「移民を受け入れれば犯罪率が必ず上がるとはいえません」と言う。

 記事では移民の犯罪率について書かれているのは、これだけです。 要するに日本人の6割以上が移民は犯罪率が高く、治安が悪くなるという不安を持っている。 確かに人口当たり犯罪率は日本人0.2%、移民0.4%という数字がある。 しかしだからと言って「犯罪率が高いとは断定できない」「犯罪率が必ず上がるとはいえない」と論ずるものです。 

 0.2%と0.4%、倍も違う数字です。 これで何故「犯罪率が高いとは断定できない」となるのか、そこが理解できないところです。 高いなら高いことを事実として受け止め、これを低めるにはどうすればいいのか等々、つまり移民政策をどう築くべきかを考えるべきだと思うのですが‥‥。 

 また犯罪の背景には「貧困などの経済状況や‥‥社会状況」とあります。 しかしこのような「背景」を考慮したとしても、犯罪外国人には同情できるものではなく、冷たい目を送るしかないでしょう。 どんなに貧しくても、歯を食いしばって犯罪に手を染めない外国人がたくさんいるのですから。

 私の付き合っている狭い範囲の話ですが、外国人労働者(=移民)はほとんどが法やルールを守ろうとしています。 彼らが一番恐れているのは在留資格を失い、本国に送還されることです。 ですからトラブルを出来る限り起こさないように、いつも気を使っていました。 免許を持っていても車を運転しません。 もし違反して捕まったら、在留資格を失うかも知れないと思うからです。 確かに違反が繰り返されると、その可能性は出てきます。 軽微な違反でも、永住資格申請に支障をきたします。 だったら最初から運転しない、となります。

 それほどまでに気を付けて生活している外国人を見てきましたから、私はむしろ日本で働く外国人(=移民)は当初は言葉や文化の違いでトラブルが多少あっても、犯罪は少ないと思っていました。 しかし今回の毎日の記事では、移民の犯罪率は日本人の倍となっていますから、ちょっと驚いた次第。

 これをどう考えたらいいのでしょうか。 一方では法とルールを守ろうと努力する多数の外国人がおり、他方では罪を犯す少数の外国人がいます。 大事にせねばならないのは当然前者の外国人です。 彼らが法とルールを守ろうとする動機が外国人管理の厳しさであることを考えるならば、その厳しさを緩める方向に行ってはならないと、私は考えます。

【拙稿参照】

来日外国人の犯罪は多いか少ないか    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/03/08/1243463

不法滞在・犯罪者の退去・送還-1970年代の思い出 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/05/21/9379672

不法残留外国人について(2)   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/05/17/9378363

不法残留外国人について      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/05/11/9376331

かつての入管法の思い出      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/10/17/9306547

昔も今も変わらない不法滞在者の子弟の処遇  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/03/21/9226536

8歳の子が永住権を取り消された事件 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/12/01/9322206

在日の密航者の法的地位         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/06/23/6874269

韓国密航者の手記―尹学準        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/12/03/7933877

集英社新書『在日一世の記憶』(その3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2008/12/31/4035996

コメント

_ 海苔訓六 ― 2021/08/29 15:00

在日朝鮮人含めた『移民の犯罪率は高い』論には、下記のような統計的反論もあるようです。
https://blog.goo.ne.jp/mpac/e/2299dde13ea72f025c2c1661951dc3f6

乱暴に要約すると以下のような感じ。

→在日朝鮮人の10万人あたりの刑法犯の人数」は738・7人。
一方、「日本人の10万人あたりの刑法犯の人数」は293・1人。
10万人あたりの犯罪者数(刑法犯限定ですが、面倒なのでここだは犯罪者数とする)を見ると在日朝鮮人は日本人に比べて2・5倍も多い。
しかし反対に
在日朝鮮人で犯罪と無関係に生活をしている人の割合は全体の99・3%。
一方、日本人は99・7%が無関係。
(※再犯率や懲役中の人数などを考慮するとこの数字よりかなり少なくなる)
その差は0・4%。つまり、1・004倍。
おそらく数字にだまされる人の頭の中では「犯罪に関与しない日本人の数は犯罪に関係関与しない在日朝鮮人の数の2・5倍」になるのでしょうが、実際は2・5倍ではなくて1・004倍。
つまりほとんど誤差の範囲内。
情報操作を目的にあえて言い方を変えてみれば
「日本人はマジョリティであるにもかかわらず、犯罪に関与しない人の数はマイノリティである在日朝鮮人のわずか1・004倍にしか過ぎない。つまり差別されている人間とほとんど同じという事だ!これは世界的にみても非常に珍しいケースである」ということ。
つまり犯罪にかかわらずに暮らしている人の数は日本人であろうと在日朝鮮人であろうとほとんど差がないということ。
分母の差があまりにも大きいと倍数比較というのはあまり関係なくなる、コレは中学校レベルの数学の知識。
分母との比率を無視して数字を実態よりデカく見せるのはマルチ商法の常套手段だけども、
『在日朝鮮人の犯罪率は高い』論は典型的なマルチ商法で使われる論理で、これを信じる人は典型的なマルチ商法に引っ掛かるタイプ

…吉永希久子さんと毎日新聞の主張は、上記のような統計的反論に基づいた考え方をベースにしていると思います。

ただ、私はこういう主張は詭弁だと思いますし反論もありますが、ちょっと長くなるので跡で書きます。

_ 辻本 ― 2021/08/29 21:41

在日朝鮮人の犯罪率を求めるのは、非常に難しいですよ。

『犯罪白書』等では、外国人犯罪ついて統計資料が出されていて、これが一番信頼できる数字です。
ここでは韓国・朝鮮籍の犯罪立件数(検察送致数)や検挙者数が具体的数字として出ています。
しかし、ここから在日朝鮮人の犯罪率を求めることが可能なのかどうか。
 
まずは「在日朝鮮人」をどう定義するのかによって、犯罪率は全く違う数字となります。
特別永住者だけを指すのか、一般永住者も含めるのか、留学・就労等の長期滞在者も含めるのか、観光等の短期滞在者も含めるのか。
こういった最低限の検証すらしないで、在日朝鮮人の犯罪率を云々する意見は信用できません。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック