金時鐘さんの法的身分(続)2015/08/13

 7月28日の拙ブログで、金時鐘さんの法的身分について疑問を呈しました。 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/07/28/7718112

 金さんの数ある著作の中で、これに関連する記述があるのを見つけましたので紹介します。 金石範・金時鐘『なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか』(平凡社ライブラリー828 2015年4月)

金石範: 彼(金時鐘)は、両親を置いて済州島から逃げてきて、親も亡くなっているし、(外国人)登録証の「林大造(イム・テジョ)」も本名じゃない。 金時鐘は本当の名前だけれども、それを客観的に証明するものは何もない。私は、そういう事情を知っているからね。‥‥(195頁)

金時鐘: ‥‥ 後日、墓参の折、妻が僕の家族関係の写真が一枚でも残っていませんかと聞いたのね。 そしたら、この40年間墓守をしてくれている甥が、とたんに自分の胸を叩きながら泣きだしてね、「な、テリョジュプソ(どう か私を叩いてください)‥」と言ってね、「みんな燃やしてしまいました。何も残っていません」と言って謝るんですよ。‥‥         金石範: 時鐘につながる証拠のようなものはすべて焼いてしまった。残して見つかったら、捕まって殺られてしまうじゃない。だから、私を叩いてくれって謝ったわけや。(198~199頁)

金時鐘: ‥‥なぜ私は4・3関係を隠して口にしなかったか、そのことから話すと‥二つ理由があります。‥‥ もう一つは、やむ得ない事情でこちらに来たにせよ、4・3事件で追われて来たことを明かすということは、不法入国者ということを自ら名乗り出るということでもあるのですから。            金石範: 時鐘は、北で生まれているから出生記録もないだろう。 この人間(金時鐘)の存在を証明する書類は何もない、時鐘は幽霊みたいな存在じゃないか。それが今回やっと済州島に本籍ができて、幽霊が人間になったようなものだけど、どうやって、韓国に戸籍を作ったんや。            金時鐘: ‥‥当時の在大阪副総領事、情報部の責任者である外交官ですが、親の墓参りを続けたいという僕の思いを殊のほか親身に受け入れてくれて、国籍取得の方法まで講じてくれました。 外国人登録証名での新たな戸籍の取得を大法院に申請して、裁可を受けてくれたのです。「金時鐘」では、手続きが複雑すぎて駄目だとのことでした。 それでも特別な計らいであったようには思っています。 戸籍は他人が使用している住所でなければ、韓国のどこでもいいと言ってくれていましたが、済州島以外に故郷を作る気などないしな。        ‥‥文京洙: 領事館も、金時鐘先生だから特別にしたんでしょう。(200~201頁)

文京洙: 韓国に戸籍を作って韓国籍を取られて、韓国との関係はそれで決着がついたわけですけど、日本の入管法との関係はまだ解決していないですね。          金時鐘: 韓国籍を取ったとき、挨拶状を2003年の12月10日付で出しました。その挨拶状をどこで見たのか、大阪府警外事課の警官がすぐさま問い合わせに来ました。 私の家までです。 登録証の名前と「金時鐘」との違いをあれこれ聴いて言いましたが、「金時鐘」はペンネームだと言い張りました。(201~202頁)

 今のところの資料が金時鐘さんの著作だけであり、日本の当局(警察や入管)、韓国の当局(領事館や法院等)の資料がないので、確かなことは分かりません。 金時鐘さんの言い分だけを読むしかないのですが、それでも様々な疑問が湧きます。

①、金時鐘さんは1949年の密入国以来「林大造」に成りすまして生活してきました。 この「林大造」は実在の人物だったのかどうかが気になるところです。

②、韓国での戸籍には他人に成りすました「林」名で取籍したというのですが、こんなことが可能なのかと疑問を有します。 金さんの原籍は北朝鮮の元山だということですから、韓国に戸籍はなかったでしょう。しかし父親の金讃國さんは朝鮮戦争後も妻の金蓮春さん(金さんの母親)と韓国で暮らし、1958年に韓国で亡くなっていますから、父親は韓国内で戸籍を新たに作成していた可能性が高いです。 そうであれば、この父親の戸籍に連関する形で入籍するのが一番自然なことなのですが、これをせずに他人の名前で新たな戸籍を作成したというのですから、首を捻ります。

③、韓国領事館から、外国人登録名の「林大造」なら戸籍取得は可能で、本来の名前である「金時鐘」名での戸籍取得は手続きが複雑で駄目だと言われたそうです。 事実と違うことを承知の上で、他人の名前で戸籍を作れるものなのでしょうか。 しかもこれが韓国公館の説明だったというのですが、いくら韓国でもこれはないだろうと思いました。

④、金さんが韓国で新たに作ったという「林大造」名の戸籍の父母欄には誰の名前が記されているのでしょうか。 実父母である「金讃國」「金蓮春」なのか、「林」姓の人物なのか、それとも空欄なのか、とても気になるところです。

⑤、金さんは韓国では「林大造」で戸籍を作り、日本では法律上の本名が「林大造」であって「金時鐘」はペンネームだということで押し通しているとのことです。 これでは韓国でも日本でも公式には「金時鐘」という人物の証明はできません。 父(金讃國)と母(金蓮春)の間に1929年に生まれた金時鐘という人間は、韓国でも日本でも存在していないのです。 本人はこれで納得したとしても、家族や親族は納得できるものなのでしょうか。

⑥、金さんは他人の名前で生きて来たし、これからもこれで生きて行くと決断されたようです。 しかし事実関係を明らかにしているにも拘わらず、それでも他人の名前で生きて行くという気持ちが私には理解できません。

⑦、金さんの父親の実家は北朝鮮の元山であり、金さんはこの元山の祖父の元で三歳から六歳までの間暮らしています。 従ってこの元山には父方の親戚がいたはずだし、今も暮らしている可能性があります。しかし金さんの著作には、この父方の親戚の話が全くと言っていいほどに出てきません。 他人の名前で生きる決意をした金さんは、北朝鮮にいる可能性のある父方親戚とは全く縁を切るおつもりなのでしょうか?

【関連拙稿】

金時鐘さんの出生地 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/07/05/7700647

在日の密航者の法的地位 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/06/23/6874269

コメント

_ 健介 ― 2015/08/13 08:36

今回の記事は今まで、なんとなく考えたことの一部がわかった。
金氏の主張は変ですね。どちらに転んでも、ごまかしはするということです。どこで生きたら、自分が有利かだけをみて、したでしょう。それにしてもわが国の対応はずさんですね。
 とにかく在日についての不明部分が一部わかりました。
これでは金氏は韓国のスパイではないかと自分で言っていることと同じではないかと思う。
 どうにも戦後朝鮮人が書いたものは信用できない。当たり前ですが。手元に、北朝鮮から引き上げるときの記録、日本にたどり着いた後、ガリ版で刷ったものを一部読みましたが、彼らは変わらないと思うな。
まあこれは日本人についてもです。

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