済州島4・3事件の赤色テロ(4)―警官家族へのテロ2018/06/30

 この事件における赤色テロの際立った特徴の一つとして、警察官の家族への襲撃があります。 これは警察官の留守中にその家族を狙ったものです。 「済州民報」4.3取材班『済州四・三事件 第2巻』(新幹社 1995年4月)では次のような例を報告しています。

武装隊の襲撃対象は、事件発生から一週間を過ぎてから、警察家族へと拡散し、波紋を呼んだ。 警察家族をねらった最初のテロは、4月11日、済州邑吾羅里で起こった。 武装隊の襲撃によって宋元和巡警の父 宋仁奎(当時58歳)が殺された。(59頁)

4月15日、朝天面中山間村で警察官の兄弟の家が焼かれ、主人が殺された(60頁)

4月18日には、朝天面新村里と涯月面郭支里で、再び警察官の家族が犠牲になった。新村では、当時済州警察監察庁に勤務していた警察官金性洪の父 金文奉(当時64歳)が殺された。

郭支での被襲事件は、少々様相が異なっている。 武装隊の襲撃を受けて殺された朴英桃(当時40歳)は、済州警察署査察主任の朴雲鳳警衛と五親等の関係にあった。 武装隊はこの夜、自宅で寝ていた朴英桃を引きずり出して殺し、そこから150メートルほど離れた朴警衛の実家の玄関前に死体を放置した。 武装隊が警察の家族を殺す場合、「警告」効果を増すためであろうか、死体を残酷に棄損する例があった。 朴英桃の死体を警察官実家の玄関前に放置したのも、警告の効果を高めるためと思われる。(60頁)

 4・3事件以前では、白色テロでも赤色テロでも、相手方の家族を意図的に殺すことはなかったようです。 しかし事件の直後から、このように警察官の家族を殺害する赤色テロが相次ぎました。 

 武装隊は、4・3武装蜂起を決定した時にすでに警察官の家族殺害を決意したようです。 つまり当初から計画されたのであって、抗争がエスカレートするなかで偶然に生じたとか、下部組織員の暴走とか、そういったものでないことに注目されます。

 そして警察官家族へのテロはその後も継続しました。 同書『第4巻』は事件から半年ほど経って起きた次のような例を報告しています。

(1948年)10月28日、朝天面新興里で、警察の家族と親戚が殺された。 武装隊はこの日、新興里出身の警察官金泰培、金ポンウォンの家族を襲撃した。 金ポンウォンの家族は何とか逃げることができたが、金泰培の家族と親戚が無惨に殺された。 この日殺害されたのは金泰培の兄 金泰丞(30代)、兄嫁 金順玉(20代後半)、五親等の叔母 韓行仲、叔父の高某の四人であった。 金順玉は臨月に近い妊婦であったと伝えられている。(95頁)

武装隊は‥‥再び金泰培の家族に対する虐殺を敢行した。 11月11日、金泰培の従兄弟の家を襲撃した武装隊は、七十の坂を越えた金正興(73)をはじめ、李京善(41 女)、金泰玉(25 女)、金泰仁(15)、そして五親等の叔母二人、合計6人を殺害した。 (95~96頁)

武装隊の警察官家族に対する襲撃事件は、翰林面清水二区でも発生した。11月4日、武装隊はこの村出身の警察官 高テファの父親 高達淵(50)と弟の高卿華(19)を連行し、殺害した。彼らの死体は、村の近くにあるセシンオルム(鳥巣岳)で、刀で滅多切りにされた姿で発見された。(96頁)

 警察官家族への赤色テロがこれだけ継続しているということは、指導部すなわち南朝鮮労働党の承認のもとで組織的・意図的に実行されたと言っていいでしょう。

 赤色テロは様々な形で数多く実行され、警察官家族殺害だけでなく、村ごと全て焼き払って逃げ遅れた住民数十人を無差別に殺害したような例もあります。 また選挙事務を担当した人、面長・里長(日本の村長に相当)、右翼青年団体員、およびこういった人の家族もテロの対象となりました。 老人・女・子供も見境なく殺されました。

 一方、家族を殺された警察側は激高しますから、報復(白色テロ)もまた容赦なく無差別なものになりました。 理性と冷静さを失った国家権力によるテロは、当然規模も大きく苛烈になります。

 近ごろは4・3事件の武装蜂起を民主化運動ととらえ、革命側(南朝鮮労働党や武装隊)をまるで民主化勢力のように扱う解説が見られます。 しかしそれは余りにもバランスを失っているので、赤色テロをもっと知るべきではないかと思います。 赤色テロは民主化運動と決して呼べるものではありません。

 双方が憎しみを高めて殺戮し合う、「人間の悪魔性が如実に現れた」(玄吉彦の言)状況を繰り広げたのが4・3事件です。

 今回はそのなかで起きた警察官家族への殺害テロを取り上げました。 

済州島4・3事件の赤色テロ(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/10/8890890

済州島4・3事件の赤色テロ(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/18/8896622

済州島4・3事件の赤色テロ(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/23/8900976