済州島4・3事件の赤色テロ(3) ― 2018/06/23
(前回) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/18/8896622 この日誌には遺漏が多いですが、事件のあらましを読み取ることができます。 4・3事件発生から翌年3月までの約10ヶ月間に、かなりの赤色テロが発生しています。 赤色テロの対象は早い時期から家族にまで及んでいますから、今の我々には想像出来ないほどに非常に激しいものでした。
この時期は武装隊(山部隊あるいは人民遊撃隊)の勢いが強く、特に最初の2か月は武装隊の方が主導権を握っていました。 同年7月以降は警察や軍の反撃(白色テロ)が効を奏して互角となり、 やがて武装隊の力が衰えます。
追い詰められた武装隊は、軍・警・右翼・地元有力者だけでなく敵と見なした村の住民も何十人単位で無差別に殺す事件を幾度か引き起こします。 文京洙『済州島4・3事件』(平凡社 2008年4月)には、次のような赤色テロを記していて、上記の日誌の赤色テロを裏付けてくれています。
12月以降の段階では、武装隊に非協力的で討伐隊側についていると見なされた一部の村に無差別攻撃をくわえ多くの犠牲者を出した。南元面南元里・為美里では11月28日に約50人、旧左面細花里では12月3日に約50人、表善面城邑里では1月13日に38人が、それぞれ武装隊の無差別攻撃で一夜にして犠牲になったが、そのほとんどは民間人であった。(138頁)
『済州4・3事件 真相調査報告書』(2003年12月)では、次のような赤色テロ状況を報告しています。 なおこれは上記の日誌に載っておらず、遺漏のものです。
1948年12月15日夜12時を過ぎた頃、翰林面トゥモ2区(現在の翰京面ハンウォン里)で武装隊が攻め入った。 ‥‥ 武装隊は村の動向を調べるためなのか、村の入り口にある一軒の家に火を付けて「みんな出てきて火を消せ」と叫んだ。 その時に出てきたキム・ギョンソク爺さんが殺害された。 パク・ジョンセンお婆さんは火を消せという叫びに、尿瓶を持って出た。 昔から尿を振り掛けると火が広がらないという俗説があったためだ。 武装隊はパクお婆さんも日本刀で無惨に殺害した。
武装隊は村をすぐさま占領して食料を略奪し、一部の家屋に火を付け、気勢を挙げた。 しかしトゥモ1区にあるトゥモ支署の警察とコサン里駐屯応援警察隊が出動するや、武装隊はラッパの音を合図にあわてて退却した。襲撃から退却まで1時間もない時間だったが、 何日か後に怪我の後遺症で死んだ人まで含めると、この日の事件で住民13人が犠牲となった。(440~441頁)
火事を消すのに尿を撒くというのは迷信ですが、こんな迷信を信じているような素朴で愚直な人ですから「選挙」とか「統一」とか全く無知なお年寄りでしょう。 しかし赤色テロはこのような人も対象としました。 武装隊は1時間足らずの間に、無抵抗の村人13人を殺害したわけです。
4・3事件発生2年後の1950年6月25日の朝鮮戦争勃発時には、かなり抑え込まれて赤色テロは辛うじて継続する程度になり、さらに組織を維持するだけで精一杯となっていきます。 最終的に武装隊が壊滅して治安が回復するのは、1954年9月です。
赤色テロに対する反革命側の反撃ですが、これは警察・軍隊という国家権力による白色テロですから規模が大きくなります。 ましてや彼らは済州島民のほとんどを赤(革命側)と思い込んでいました。 一旦赤色テロ事件が発生すると、反撃のために周辺の村を焼き払って村人を何十人、何百人単位で殺害するというような白色テロを起こしたことも度々ありました。 また武装隊協力の疑いで逮捕・拘束していた村民らを公開銃殺したり、武装隊の家族を殺害することもありました。
お互いが憎しみ合い、平気で殺し合いました。 住民は第三者の立場に立つことが出来ず敵か味方かを迫られて、双方の殺し合いに巻き込まれました。 互いの報復のために、周辺の村の住民が老人や女・子供も見境なく殺され、多数の犠牲者を出したのでした。 また隣村に行くのにも警察や右翼、そして武装隊という双方から検問を受け、怪しいと疑われたらすぐさま殺される状況でした。
4・3事件はそういう事件です。 当事者遺族の相手方に対する憎しみは消えることはないでしょう。 しかし当事者たちのこういう感情を尊重しつつも、今は一方を正義、他方を悪者とするのではなく、両者全ての犠牲者を平等に鎮魂と慰霊が重要だと思うのですが‥‥。
済州島4・3事件の赤色テロ(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/10/8890890
済州島4・3事件の赤色テロ(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/18/8896622
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