にあんちゃん(1)―在日朝鮮人少女の日記2023/04/21

 『にあんちゃん』は64年前の1958年11月に発行された在日朝鮮人少女の日記です。 この本は評判を呼んでたちまちベストセラーとなり、ラジオやテレビにドラマ化して放送され、また映画化もされました。 8年後の1966年に発行部数63万部、23年後の1981年に114版、それ以外に筑摩や角川、講談社などからも文庫として発行されてきましたから、おそらく数百万部になるでしょう。 また韓国でも1959年に翻訳して発行されて10万部以上が売れたといい、また同時に映画化され、近年また本が再発行されているそうです。

 本の内容は、ネットでは次のように紹介されています。

『にあんちゃん』は、1958年に初版が出版された安本末子(やすもと すえこ)(1943年2月8日 - )の著書。  在日コリアンである安本が10歳の頃(小学校3年生~小学校5年生)に書いた日記である。

昭和28年(1953年)、佐賀県の炭鉱地帯。3歳の時に母を亡くし9歳で父をも失った末子は、炭鉱の臨時雇いの長兄のわずかな稼ぎで兄弟姉妹四人、毎日の糧にもことかく極貧の生活を送っていた。 しかしその長兄も会社の首切りに会い失業。 四人は炭住を追い出され、一家離散。 末子と次兄はつてを頼って他家に居候同然に転がり込むが貧乏はどこも同じであちこちを転々。 そんな究極の困難にもめげず、素直なこころと暖かい思いやりを忘れずに熱心に勉強にはげむ末子の日記

 両親を早くから亡くし、頼れる親戚もいない中で兄弟姉妹四人が極貧の生活を送りながら助け合って生きてきた、そして一番下の妹は学校で元気に明るく過ごし、日記を書き続けてきた、というものです。

 本が出た1958年11月は小松川事件の李珍宇が逮捕されて二ヶ月後で、在日朝鮮人に対するイメージが底まで落ちていた時期でした。(下記参照) そんな時にこの『にあんちゃん』が出たのです。 ですから在日朝鮮人のイメージ向上に大いに役立ったと思うのですが、在日朝鮮人の歴史書を何冊か当たったところ全く取り上げられていません。 おそらくは、在日の歴史というのは〝日本から受けた民族的苦難とそれに対する闘い″という絶対テーマでなければならず、この『にあんちゃん』はそれに符合しなかったからではないかと考えます。 

 それではこの日記では在日がどのように書かれているのかに注目してみました。 図書館から増補版の『にあんちゃん―十才の少女の日記』(光文社カッパブックス 昭和33年11月)を借りることができたので読んでみますと、自分たちが在日朝鮮人としてどういう扱いを受けたのかが書かれていたのは二ヶ所だけでした。 一つは日記の最初の方に出てきます。 小学3年生の時の日記ですから“ひらかな”が多く、ここでの引用では読みやすくするために漢字混じりに書き直しました。

兄さんは今、3年も前から、水洗ボタ(石炭の水洗い)のさおどり(石炭車の運搬)をして働いていますが、特別臨時なので賃金が少ないのです。 賃金というのは、働いたお金のことです。 それが、普通の人より、大分少ないのです。 どのくらい少ないのかといったら、残業を2時間しても、何にもならないというほどです。

お父さんがおったときは、二人で働いていたから、それでもよかったけど、今は生活に困るから、入籍させてくださいと、労務の横手さんに頼んだら、できないと言われたそうです。 どうしてできないのと言ったら、吉田のおじさんの話は、兄さんが朝鮮人だからということです。  <1953年1月26日 月曜日 晴れ> (小学三年) 12~13頁

 「入籍」というのは正社員になることを意味するようです。 父が亡くなった一家を支える長兄は炭鉱の臨時雇いで働いているのですが、朝鮮人である理由で正社員になれなかったという話です。 作者は知り合いのおじさんからそう聞かされたのですが、可能性はあります。 しかし本当なのかどうか、確認のしようがありません。 (続く)

【拙稿参照】

水野・文『在日朝鮮人』(17)―小松川事件 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/08/15/8152243

小松川事件(1)―李珍宇救援を呼びかけた人たち http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/04/04/9574532

小松川事件(2)―李珍宇と書簡を交わした朴壽南 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/04/08/9575512

小松川事件(3)―李珍宇が育った環境  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/04/12/9576502

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