金時鐘氏への疑問(1)―在留資格2025/03/26

 金時鐘さんは在日の著名な詩人であり、日本の各地で講演し、マスコミにもたびたび登場するなど影響力の大きな方です。 しかし私は金さんに対して疑問を抱き、拙ブログで数年間にわたってたびたび呈してきました。 今回はこの疑問をまとめてみました。

①	不法滞在―「在日を生きる」と言いながら強制送還の恐れ

 金時鐘さんは1949年に不法入国したので当初は在留資格を有していなかったのですが、その後に「林大造」名義の米穀通帳と外国人登録証を不正入手して不法に在留資格を取得し、そのまま日本に滞在し続けて現在に至っています。 ですから不法滞在者であり、いつ強制送還されるかも知れない身分です。 金さんの近著『金時鐘コレクション』には、次のように記されています。

出入国管理法は時効がない法律だそうで、私はいつなんとき強制退去させられるかも知れません。‥‥ 強制送還ともなれば、私の人生は予測して余るものでしたので、ひたすら口を噤んでまいりました。 齢ももう取るだけとりましたし、もう覚悟のほどはできております。 (『金時鐘コレクション11』(藤原書店 2023年8月 256・257頁)

 また7年前の2018年(不法入国後70年目)には、次のように語っておられます。                    

2つ目は卑屈であり、いかにも姑息なことでありますが、日本で住むことに執着したあまり、名乗り出ることがはばかられました。 名乗りでるということは、わたしが日本に正当な手続きへずに、いわば不法入国したこと打ち明けることにもなります。 出入国管理令は時効というのがありません。50年たとうと、80年たとうと、日本国の国益に損なうものと認定されれば、いつでも強制送還されます。  

https://magazine.changbi.com/MCMUI/item/641?lang=jp

 このように金時鐘さんは自分が不法入国=不法滞在者であり、「80年たとうと‥‥いつでも強制送還される」ことを認めておられます。 しかしその経過がどうであれ、彼は1973年に公立高校の「教員」に就職した時に、あるいは2003年に韓国の戸籍を作った際にこの不法状態を解消し、合法滞在資格を取得すべきだったのではないでしょうか。 ところが彼はそうせずに不法滞在を続けて、いつ強制送還されてもおかしくない状態のまま今日まで過ごしてこられたのです。

 彼は警察から調査を受けましたが、外国人登録証の「林大造」が本当の名前であり、「金時鐘」はペンネームに過ぎないと言い張ります。

大阪府警外事課の警官がすぐさま問い合わせに来ました。 私の家までです。 登録証の名前(林大造)と「金時鐘」との違いをあれこれ聴いていましたが、「金時鐘」はペンネームだと言い張りました。 (金石範・金時鐘『なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか』平凡社ライブラリー828 2015年4月 202頁)

 つまり金時鐘さんが警察に供述した自分の経歴は、彼が著作・講演で語っている経歴と全く違っていたのでした。 おそらくその場では、〝自分は戦前からずっと日本に居住し続けている「林大造」という人間であって密入国者ではない、この日本では「金時鐘」というペンネームを使って詩を書いているだけ”と主張したのでしょう。 その時警察は彼の供述が虚偽であるとする証拠を有していなかったので、彼の言い分を認めざるを得なかったと思われます。

 しかし同じような不法滞在の在日の中には、当局に自首して正規の合法滞在許可を得ている人がいます。

> 70代で在学中に入国管理局に出頭、50年以上使った別人の名を返上し、本名を取り戻した ‥‥ 戦後帰国したが再び日本を目指して密航船に乗り、生きるため、別人の女性の外国人登録証を買った。 ‥‥ 自身のルーツを学ぶうち「死ぬ時は本名で」との思いが募った。 「他人の名前で生きていることが、いつも心に引っかかっていた」と文さん。 強制送還も覚悟で自首し、3ヶ月の取調べを経て本名を手にした。 (『毎日新聞』2019年3月7日付「関西夜間中学運動50年史」)  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/03/23/9050390

> 1950年代以降の各時期に密航に成功した韓国人たちが日本で結婚して子をもうけ一家を構えるようになると、〈密航者〉という無権利状態から抜け出すために合法的な在留許可を求めて法務省に当局に出頭した。 許可が得られず家族全員が強制送還となるケースもあったが、日本での定住の事実が確認されれば、晴れて正規の在留許可を得る者もいた。 (水野直樹・文京洙『在日朝鮮人 歴史と現在』岩波新書 2015年1月 216頁)

 金時鐘さんも日本で結婚し定住してきたし、公務員に就職したこともあるのですから、こういった在日のように当局に出頭して法的に清算しておけばよかったのに‥‥と思うのですが、彼はそうせずに今日まで不法滞在のまま、強制送還に怯えながら過ごされてきました。 「怯えながら」と書いたのは、彼自身が次のように述べておられるからです。

もう一つは、ぼく自身の在留資格の問題。 韓国に強制送還されると、生きていけないから。 (金時鐘「朝鮮現代史を生きる詩人」 集英社新書『在日一世の記憶』 2008年10月 所収 566頁)

 これを読めば、金時鐘さんは強制送還に「怯えている」としか言いようがないでしょう。 「在日を生きる」を唱える彼の思想と生活は、「在日」の根拠となる法的地位(在留資格)が極めて不安定な上に営まれており、彼自身それを自覚しながら生きておられるのです。 

 私は彼には〝自分には法律なんて関係ない”とするような信念を期待していました。 なぜなら彼は1971年12月の金嬉老裁判で、証人として次のように語っておられたからです。

個人の心情としては日本の法に対しては不審がいっぱいあります。 ‥‥日本の法が朝鮮人に平等かつ公平であるなどという期待が私にはありません。 正直に言って、私は日本の法律からいきますと前科三犯ないし四犯ほど持っております。 ‥‥ 実感としては、朝鮮人が公平にそういう法の恩恵を受けられるという気持はありません。 (『金時鐘コレクション7』2018年12月 311・312頁)

 金時鐘さんはかつて日本の法廷でこのように法律に挑戦する気持ちを表わしたことがありながら、「強制送還されると生きていけない」と弱音を吐くような言い方をされたので、残念な気持ちです。

 彼はこのように強制送還に怯えながら「在日を生きる」を唱えて生きてこられたのですが、そんな生き方にはやはり疑問を抱かざるを得ません。 そして周囲の金時鐘研究者たちも彼の「在日を生きる」を論じながら、在留資格や不法滞在、強制送還にほとんど言及していないことにも疑問を持ちます。        (続く)

【拙稿参照】

金時鐘氏は不法滞在者なのでは‥(1) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/10/07/9623500

金時鐘氏は不法滞在者なのでは‥(2)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/10/12/9624809

金時鐘氏は不法滞在者(3)―なぜ自首しなかったのか http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/10/17/9626078

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