金時鐘氏への疑問(2)―韓国戸籍・墓参り2025/03/31

https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/03/26/9763626 の続きです。

②	本名で韓国戸籍を作らず―法治国家ではあり得ないが‥‥

 金時鐘さんはもともと本籍地が北朝鮮の元山だったので、韓国には戸籍(今は家族関係登録簿)がありませんでした。 そこで2003年(2004年とする記述もある)に、韓国に就籍(無戸籍者が新たに戸籍を編製すること)しました。 それは本当の本名である「金時鐘」でなく、日本で不法入手した外国人登録証名の「林大造」の戸籍です。 それでは、なぜ本名でない名前で戸籍を作ることができたのでしょうか。 彼は次のように書いておられます。

2004年に韓国籍を取った。 韓国籍も本名で作れなかった。 領事館に尽力いただいて、一代きりの本籍を取得した。‥‥ 済州島に本籍をおいた。 (集英社新書『在日一世の記憶』2008年10月 570~571頁)

当時の在大阪副総領事、情報部の責任者である外交官ですが、親の墓参りを続けたいという僕の思いを殊のほか親身に受け入れてくれて、国籍取得の方法まで講じてくれました。 外国人登録証名での新たな戸籍の取得を大法院に申請して、裁可を受けてくれたのです。 「金時鐘」では、手続きが複雑すぎて駄目だとのことでした。 それでも特別な計らいであったようには思っています。 (金石範・金時鐘『なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか』平凡社ライブラリー828 2015年4月 201頁)

駐大阪韓国総領事館の配慮もいただいて別掲の「ごあいさつ」文どおり、新たな戸籍と大韓民国国籍を晴れて取得しました。 (『朝鮮と日本に生きる』岩波新書 2015年2月 287頁)

ごあいさつ  謹啓  小生この度、外国人登録書名の「林」でもって韓国の済州島に本籍を取籍しました。‥‥ 敬白   ’03年12月10日 (同上 288頁)

 法治国家ならば、どんなに手間や時間がかかろうが法の筋を通さねばならないものです。 ところが金時鐘さんはそうしないで、「林大造」という赤の他人(あるいは幽霊?)の名前で韓国の戸籍を作られました。 しかもそれが在日韓国領事館から「尽力いただいて」「特別な計らいで」「配慮もいただいて」があったからこそ出来たと言っておられるのです。

 国家の非常事態でもないのに、国の公館が法の筋を通さないなんてことがあり得るのだろうか?という疑問が湧きます。 金時鐘さんだけの特別措置が本当ならば、韓国は果たして法治国家かどうか疑問になります。 その時の韓国は盧武鉉政権でした。 この政権に対する疑問にもつながります。

 

③	 親の墓参りをするのは「金時鐘」ではなく「林大造」

 金時鐘さんは「金鑚国」を父、「金蓮春」を母として朝鮮で生まれ、親から「金時鐘」と名付けてもらいました。 そして1949年の20歳までは、韓国でこの名前を使って生活してこられました。 

 1949年になって日本に密航し、その際に不正入手した外国人登録証にある「林大造」の名前を使ってこれを本名とし、「金時鐘」は通名として生活することになります。 そして1973年に日本の公立高校教員になられました。 さらに2003年に、今度はこの「林大造」の名前で韓国の戸籍を作られました。 その戸籍の父欄には「金鑚国」という本当の父親の名前ではなく、どこの馬の骨か分からず、ひょっとして幽霊かも知れない「林某」という名前が記されているはずです。

 一方、金時鐘さんは前述したように、警察からの問い合わせに対しては「林大造」が本名であり、「金時鐘」はペンネームに過ぎないことで押し通したと言っておられます。 つまり警察には、〝自分は戦前から引き続いて日本に在住してきた「林大造」という人間であって密入国者ではない、4・3事件なんて見たこともない、「金鑚国」「金蓮春」は自分の両親ではない”という説明をしたことになります。 そのあたりの事情は、彼自身が次のように語っておられます。

かく言う私にも二つの名前が併存している。 日本国政府の政令によって保障されている名前(林大造)と、「筆名」という本名(金時鐘)とである。 理由は簡単だ。 出入国管理令が制定された当時の、いわば戦前から持ち越された「米穀通帳」の名がそのまま登記されたことによって、私の本名は副次的な筆名になり変わったのである。 (「日本語のおびえ」 『「在日」のはざまで』平凡社ライブラリー 2001年3月 所収 70頁)

 親から「金時鐘」と名付けてもらい「時鐘(시종-シジョン)」と呼ばれつつ20歳まで育った人物は、日本で戦前から居住し続けてきた「林大造」に変身し、「金時鐘」は筆名=通名になったのです。 「金時鐘」という人間は日本でも韓国でも公式には存在せず、「林大造」だけが存在することになりました。 ですから彼は金時鐘ではなく「林大造」名の韓国パスポートで韓国に入国し、故郷の済州島を訪問して金時鐘の両親の墓参りをすることになります。 別に言えば両親にとっては、他人の名前の戸籍でしかもその父母欄には自分の名前がない人物が息子として自分の墓参りに来ていることになりました。    https://www.asahi.com/articles/ASS2N6JJ9S2HPTIL01V.html 

 このような経過であったと推測できます。 ご両親に深い思いを抱いておられる金時鐘さんはご両親から名付けてくれた「金時鐘」ではなく、ご両親がおそらくご存じない「林大造」名の戸籍とパスポートを持ってご両親の墓参りをすることになったわけです。 その時、心の中に葛藤はなかったのでしょうか? 彼の著作にはそういうことを記したものが見当たらず、また彼の墓参に同行した記者や研究者たちも記事・論文には言及しておらず、疑問を抱くところです。            (続く)

金時鐘氏への疑問(1)―在留資格  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/03/26/9763626

 

【拙稿参照】

金時鐘『朝鮮と日本に生きる』への疑問 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/07/28/7718112

金時鐘さんの法的身分(続)     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/08/13/7732281

金時鐘さんの法的身分(続々)   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/08/26/7750143

金時鐘さんの法的身分(4)    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/08/31/7762951

本名は「金時鐘」か「林大造」か  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/08/23/8948031

金時鐘さんは本名をなぜ語らないのか? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/07/02/9110448  

金時鐘さんは結局語らず      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/08/13/9140433

金時鐘さんが本名を明かしたが‥‥ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/10/26/9169120

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