『抗路』への違和感(2)―趙博「外国人身分に貶められた」2021/06/02

http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/05/27/9381682 の続きです。    趙博さんは「BLM運動を/に、学ぶ 『在日』公民権運動の『夢』」という論考で、在日について次のように論じています。

1952年の「日本国籍離脱=選挙権剥奪」以降、我々「在日」は外国人という身分に貶められ、それを強要された。 ‥‥ その実は「無権利状態」以外の何物でもなかった。日本政府は「在日」の諸権利については「外国人だから」を根拠に排除する。 典型例は「外国人だから選挙権がないのは当然だ」である。

一方、独自的な民族教育を認めよ等と主張すれば「日本に住んでいるのだから日本の法律に従え」と、認めない。 同様の論理で「日本に住んでいるのだから」、税金は日本人「並」に取る。 事ほど左様に、無権利状態とは、権力によって恣意的に排除(強制送還を含めて)されたり、包摂されたりする、ということなのである。(以上169頁)

 彼はこんな考えを展開しておられます。 「選挙権剥奪」「外国人という身分に貶められ」「無権利状態」「独自の民族教育を認めよと等と主張すれば‥‥認めない」等々という文言から分かるように、「外国人だから」という理由で日本社会・権力から差別と被害を受けてきたという考えです。 

 事実関係で間違いを一つ指摘しておきます。 在日は1952年に「選挙権剥奪」されたとあります。 しかし終戦後の1945年衆議院選挙法、1947年参議院選挙法および地方自治法、1950年の公職選挙法、これらすべての法律には「戸籍法の適用をうけないものの選挙権および被選挙権は当分の間停止する」として、在日を排除しています。 つまり「選挙権剝奪」は1952年ではなく、1945年です。

 そして外国人と内国人との法的処遇が違うのは、世界どこの国でも当たり前です。 法的処遇が違えば、権利も違います。 外国人が内国人と全く同じ権利というのは、あり得ません。 それを「差別」だと主張するのなら、“合理的な外国人差別は正当である”としか言いようがありませんねえ。

 もう一つ、1945年の日本敗戦時に、朝鮮人たちは在日も含めて、これで日本人でなくなったと「解放」を喜び、「万歳」を叫んだ歴史を忘れておられるようです。 在日朝鮮人が外国人(韓国・朝鮮籍)になることを望んだのは、本国の韓国や北朝鮮政府だけでなく、当人たちもそうだったことを強調しておきたいと思います。

 さらに趙さんは、在日が日本人でなく外国人となって参政権を喪失したことを「剥奪」と表現しておられます。 「剥奪」は正当に保持されてきた権利が奪われることを意味しますから、それまで日本国籍を持ち参政権を有していたことが正当となります。 つまり彼は日韓併合によって朝鮮人が日本国籍を有したことを合法正当だと考えていることになります。

 ところが本国の韓国や北朝鮮は、日韓併合は不法不当であり、従って在日含めて朝鮮人は日本国籍や参政権を有していること自体が不法不当だったという主張になります。 つまり朝鮮人が日本の国籍と参政権を喪失したのは、元の姿に戻っただけということです。ここに趙さんの「剥奪論」の矛盾を見るのですが、彼はこれについて何も言っていませんねえ。

われわれ「在日」の苦労と不条理の源泉は、「差別されていてもそれが差別だとは認められない。国籍の違いを根拠とした権利の制限は差別ではない」とされてしまう日常と現実のシステムに存する。(170頁)

とありますが、上述してきたように、これは「不条理」でありません。 繰り返しますが“合理的な外国人差別は正当”なのです。

 私は、在日の「苦労と不条理の源泉」は外国人差別にあるのではなく、朝鮮人の血を引いているからという民族差別にあると考えています。 外国人差別は帰化すれば解決しますが、民族差別は帰化したからといって解決するものではないからです。 

 しかし今、在日の結婚相手は日本人の場合が90%で、在日同士の結婚が10%となっている現状を考えると、民族差別は解消しつつあるものと考えています。 

 なお「民族差別」といえば、在特会とかネットウヨとかの激しいレイシズムがあります。 こういった人たちの発言内容を見ると、常人には理解し難いものばかりです。 なぜあのような人格を否定するような発言を繰り返すのか。 自分は特定されないと思い込んで、大胆かつエゲツない差別発言を平気でするでしょうねえ。 そろそろ法的規制をかけて、発言者の身元をすぐに探ることができるようにする時期に来ているのかも知れません。

【追記】    植民地時代の朝鮮人の参政権ですが、来日した朝鮮人には参政権がありました。 当時の在日朝鮮人は日本(当時は内地)の選挙時には投票も立候補もすることもできました。 そして投票にはハングルを使うこともできました。 実際に朴春琴は衆議院選挙で東京4区から四回立候補し、二回当選しています。

 なお朝鮮本土には選挙区が設定されなかったので、朝鮮に住む朝鮮人はもちろんのこと、日本人も選挙権がありませんでした。 なお厳密に言えば形の上では被選挙権がありました。 日本のどこかの選挙区から立候補することは法律上可能でした。

【追記の追記】

 立候補して当選した人がいました。 コメント欄をご参考ください。 訂正します。

【拙稿参照】

在日誌『抗路』への違和感(1)―趙博「本名を奪還する」  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/05/27/9381682

在日の自殺死亡率       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/04/20/9369020

在日の低学力について(1)    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/04/28/9371638

在日の低学力について(2)    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/05/05/9374169

在日総合誌『抗路』に出てくる「北鮮」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/01/16/9338000

金時鐘さんが本名を明かしたが‥‥  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/10/26/9169120

趙博さんの複雑な名前     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/11/02/9171893

第71題 戦前の在日の参政権 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainanajuuichidai

コメント

_ (未記入) ― 2021/06/04 12:44

牧山耕蔵は、朝鮮在住ながら長崎の選挙区から立候補して当選します。

_ 辻本 ― 2021/06/04 13:11

ご指摘、ありがとうございました。
こういう間違いの指摘は、有り難いですね。
日本人が一人立候補したことがあるという話だけを記憶していましたが、その時は確認できず、そのままにしていました。
当選までしていたのですねえ。
新たな知識を得ました。
感謝します。

_ (未記入) ― 2021/06/04 13:45

長崎といっても壱岐出身者には対馬とはまた異なる独自のネットワーク(地縁・血縁)があったようでして、平壌で手広くキャバレーを経営していた一族も壱岐出身とのことです。

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