鬼胎2013/07/13

 「鬼胎」という、聞き慣れない単語が韓国の政治を揺るがせています。

【ソウル聯合ニュース】韓国の最大野党・民主党の洪翼杓(ホン・イクピョ)院内報道官が11日の記者会見で、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領に対し、「生まれてくるべきではなかった人の子孫」と発言したことが大きな波紋を呼んでいる。情報機関・国家情報院が昨年の大統領選に不当に介入した疑惑や2007年の南北首脳会談の議事録を与党議員に公開したことなどで与野党が対立している中、洪氏の発言で政局の混乱はさらに拡大しそうだ。        洪氏は会見で、安倍晋三首相の祖父の岸信介元首相と朴大統領の父の朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領を取り上げた書籍「岸信介と朴正熙」を引用し、「本に『鬼胎』という表現があるが、生まれてくるべきではなかった人が生まれてきたとの意味」と説明。「満州国の鬼胎、朴正熙と岸信介の子孫が皮肉にも韓国と日本の首脳となっている」と述べた。        また、「最近、朴大統領と安倍首相の言動が似ている。歴史の真実を否定し、旧時代に戻ろうとしている」と主張。「安倍首相は日本軍国主義の復活を唱えており、朴大統領は維新共和国(朴元大統領の独裁政権)を夢見ている」と批判した。        青瓦台(大統領府)や与党・セヌリ党は洪氏の発言に強く反発している。与党は12日の国会日程を中止し幹部会議を開くなど、対応に乗り出している。       青瓦台の李貞鉉(イ・ジョンヒョン)広報首席秘書官は12日の記者会見で、洪氏の発言について、「国民が選んだ大統領の正当性を否定するもの」「韓国の自尊心を傷つけ、国民を冒涜(ぼうとく)するもの」として、国民と大統領に謝罪するよう求めた。 

http://japanese.yonhapnews.co.kr/relation/2013/07/12/0400000000AJP20130712002400882.HTML

 「鬼胎」とは、日本の辞典には  「1 (鬼胎)心配すること。心中のひそかな恐れ。「―を抱く」   2 ⇒胞状奇胎(ほうじょうきたい)」  の二つの意味があります。しかしこの記事のように「生まれてくるべきでない人が生まれてきた」という意味はありません。

 日本語でもほとんど使われていない漢語が、漢字を廃止した韓国で使われたとは、ビックリですね。しかも、韓国の一般的な国語辞典には載っていない単語です。国立国語院の標準国語大辞典には  「귀태01(鬼胎)[귀ː-]  「명사」  「1」두려워하고 걱정함.  「2」나쁜 마음.」 (鬼胎:名詞 1.恐ろしく心配すること 2.悪い心」  と説明されいて、やはり「生まれてくるべきでない人が、生まれてきた」という意味はありません。

 この「鬼胎」について、韓国の聯合ニュースが次のように解説しています。要約して訳してみました。(日本語版にはありません)

韓国系在日学者 姜尚中・玄ムアン教授の『岸信介と朴正熙』の本文内容を引用したもの‥この本は、日本語で出版された『興亡の世界史』シリーズのなかの満州部分だけを韓国語に訳した歴史書だ。 ‥‥ この本では「鬼胎」はいったいどのような意味で使われているのか。  著者は朴正熙前大統領と岸信介前総理をそれぞれ「独裁者」と「昭和の妖怪」と指称し、二人の根が日本帝国主義の分身である「満州帝国」であったと叙述し、二人を「帝国の鬼胎」と描写した。   また「彼ら(朴正熙と岸信介)は足のついた亡霊のように生き返り、「独裁者」と「妖怪」の子孫たち(朴槿恵大統領と安倍晋三総理)を動かしている」と叙述した。‥‥ 訳者は「鬼胎」について、作家司馬遼太郎の造語だとして‥‥   日本の有名な小説家、司馬遼太郎はいわゆる昭和時代である1905~1945(ママ)年を「鬼胎の40年」と定義した。昭和時代を規定するために「鬼胎」という言葉を作ったというのが定説のようだ。    しかし日本の文献と資料を調べてみると、司馬が「鬼胎」とともに「異胎」という表現を同じ意味で使っていた点から考えてみると、「鬼胎」を「生まれてはならない人」と単線的に定義できるのか疑問の余地がある。      司馬は日帝が日露戦争と太平洋戦争などに突っ走った時期である昭和時代を、本来の日本から逸脱した「変種の時代」「異質的な時代」という点を強調するために「鬼胎」または「異胎」という表現を使ったという指摘が多い。  ‥‥ 特に今度問題となった『岸信介と朴正熙』の共同著者である姜尚中教授が、『在日 姜尚中』という2004年出版された自伝的エッセイで使用している「鬼胎」の使い方にも注目する必要があるとみられる。姜尚中の使い方が司馬とは微妙に違う角度でなされているためである。      姜尚中は自分の叔父を回顧して「歴史が強要した過酷な人生だと語ってしまえば、それだけである。しかし歴史に振り回されながらも父と叔父はそれなりの方法で屈せず生き抜いてきたと考える。過酷な人生を生きぬいた「鬼胎」たちの記憶を、彼らの生きてきた場所を捉えてみたい」という題目を見れば、「鬼胎」が重層的な意味を持った単語として受け入れられている。‥‥」

http://www.yonhapnews.co.kr/bulletin/2013/07/12/0200000000AKR20130712163500001.HTML

 どうやら韓国の民主党は「鬼胎」を元々の意味から離れて解釈して、政敵を攻撃する言葉として使ったということのようです。

 相手を批判するのに、父親や祖父のことを持ち出すとはねえ。「親の因果が子に報い」という思想が日本の左翼に受け継がれていると論じたことがありましたが、韓国でも同様のようです。

http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/10/18/6605712