「韓」という国号について(5)2015/05/29

 現在の大韓民国は解放後(戦後)3年経った1948年8月15日に建国されましたが、この際に国号についてどのように議論されたのでしょうか。 資料を探したところ、任文恒『日本帝国と大韓民国に仕えた官僚の回想』(ちくま文庫 2015年2月)に次のような記述を見つけました。

憲法を起草している間に、いろいろな意想外の出来事もあった。‥‥「大韓民国」という国号と、年号に「檀紀」を使用するという前近代的決定とは、ともに起草委員会で可決された。 国号として「高麗民国」或いは「韓民国」を主張する側もあり、年号は西紀をという声もあって、決しかねるところへ、或る日突然、臨時政府側の池青天将軍が、起草委員でもないのに会議場に姿を現わし、国号は「大韓民国」、年号は「檀紀」を使用すると、即刻決定しないのなら、その場で割腹自殺すると頑張ったので、その主張通りに決まった。‥‥こうして起草された憲法草案は、無修正で国会を通過した。(325~326頁)

 なお直接は確認していませんが、2014年2月2日付けの朝鮮日報では次のような記事があったといいます。

1945年8月15日に光復が実現すると、人々は「大韓民国万歳」を叫んだ-と信じている多くの人々にとって、1948年6月に憲法起草委員会の徐相日(ソ・サンイル)委員長が国会本会議で行った報告の内容は意外なものだろう。 「国号問題をめぐっては多数の意見がある。大韓民国、高麗共和国、朝鮮、韓…」。当初、兪鎮午(ユ・ジンオ)が起草した韓国憲法草案の第1条は「朝鮮は民主共和国である」となっていた。結局、起草委で審議した結果、全体の63%に当たる17票を得た「大韓民国」が国の名前に決まった。

 これの根拠となった資料は、おそらく国史編纂員会『資料 大韓民国史7』と思われます。 その資料集の1948年6月7日(日)付けに、下記の資料が載っています。原文は漢字ハングル混合文です。直訳しますので、日本語としてはちょっと変なところがあります。

憲法起草委員会、憲法逐条討議で国号を大韓民国と決定する     憲法起草委員会では、8日まで本会議に提出する草案作成がこれから約10日間をさらに要するようになって、8日の本会議に提出の日時延期を要請したが、去る7日には午後から夜半まで兪氏の草案を基にして、これに司法内示を技術的に斟酌しながら逐条討議を開始、第一章七条まで完了したという。 即ち、第一章の総綱において最も注目される点は、国号問題であるところ、当日同問題で、各委員間で激論が展開されたが、結局票決した結果、大韓民国17票、高麗共和国7票、朝鮮共和国2票、韓国1票で、大韓民国に落着したという。 ここで国号決定をめぐる憲委(憲法起草委員会)の動向を見れば、李青天を始めとして独促(独立促成中央協議会)系では、議長の李承晩が開会当日の式辞でも大韓民国を闡明にしてその時異議がなかっただけにそのまま推進させるのが当然だと李博士の主張を支持したといい、韓民党出身議員は高麗共和国を力説したものという。 いずれにせよ憲法作成において、その行方が注目されるこの時、憲委で大韓民国の国号決定を見たのは、これから憲法構成基準をかなり推測することができるといい、したがって大統領制と責任内閣制についての論戦が一層白熱化するものと観測される。(朝鮮日報 1948年6月9日、京郷新聞1948年6月9日)  (258頁)

 以上のように、国号について様々な意見や案が飛び交って議論されました。 ということは1948年の大韓民国建国は新たな国家の始まりであるということです。 なぜならば、もし1919年設立の大韓民国臨時政府の継続であれば、「大韓民国」という国名は議論の余地なく前提となっていなければならなかったからです。 実際はそうではなくどんな国名にするか議論されたというのですから、大韓民国はかつての臨時政府とは断絶していることを示しています。

「韓」という国号について(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/05/09/7630067

「韓」という国号について(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/05/14/7633517

「韓」という国号について(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/05/19/7636889

「韓」という国号について(4) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/05/24/7645246

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